おはようございまーす
※読んでいただけたら分かると思いますが、基本この小説はコメディで構成されております※
平成24年1月13日
後書きに後日談を付け足しました
「ふざけんなーーーーーーー!!!」
大きな叫び声に覚醒を促され、私はガバリ!と飛び起きた。
あぁ、なんて恥ずかしい。自分の寝言で目が覚めるなんて!
目が覚めると一番最初に飛び込んできたのは、薄暗い天井だった。
鍾乳洞のような印象で氷柱のように水晶のような鉱石が沢山ぶら下がっている。
見覚えのない光景に、?と首をかしげつつグルリと辺りを見渡すと、自分が洞窟の中の浅い泉の中に横たわっていたことが分かった。
あれ?どうしてこんなとこに私いるの???
眉間にしわを寄せて考えて見るが答えは出ない。
記憶を辿ろうにも、さっきの夢だか現実だか分からない腹立たしい映像が頭の中にちらついていてどうにも集中できそうにないのだ。
あぁ、クソ。夢にしてもリアルすぎだ。
彼は誠実で優しかったし「君は大切な人だ」と言ってくれてたじゃないか。私が疑ってどうする!
私に愛をささやいてくれた堅実な彼に失礼だ。と映像を振り払うように頭を振って私は、年頃の女の子とは思えないような掛け声とともに立ち上がる。
つまりは、「どっこいしょ」な訳だけど。
立ち上がると、ポタポタと服から雫が垂れ落ちる。
日本に居たころは黒かった、今は真っ白な髪も泉の水によって濡れそぼっていてまさに今の姿はぬれ鼠という言葉が相応しい。
肌に張り付く服が不愉快で乾かしたくはあったけど、魔力の全く感じられない洞窟内ではそれは出来そうにもない。深く溜息をつきつつ、私はゆっくりとした足取りで洞窟の中を歩き始めた。
足元はツルツルの水晶でペタペタと反響する足音はどこまでも響いていって、いまいる洞窟がせまくは無い事を教えてくれる。
しばらく無言で洞窟内を徘徊し、わかれ道など無い道をどこまでも歩いていると遠くに光が差し込んできている場所を見つけた。
どうやら出口らしい。
ホッとしつつ、少し早足になりながら出口から抜け出る。
薄暗い洞窟内に目が慣れていたおかげで、外に出ると目がチカチカする。
瞼を下ろしてしばらく光になれるのを待ち、それに慣れたころ私はゆっくりと瞼を持ち上げ
「・・・・・は??」
硬直した。
洞窟の出口は切り立った崖のちょうど中ほどにあったらしい。
狭い足場から軽く身を乗り出せば目が眩むような高さだった。
地面は物凄く遠い。孤立無援。というか、ホントに何処だここは。
唖然としつつとりあえずは濡れた服と髪を乾かそうと視線を巡らせて、空中に漂う魔力を使用しようとすると突然ふわりと風が吹いた。
優しく包み込むような風は一瞬で私から水気を飛ばし、くるりと空中に形を作る。
『姫様、おかえりなさい!』
『姫様、おはよう!』
口々にそう語りかけてくるのは水色の小鳥を象った風の精霊達。
嬉しそうに歓喜の声を上げるそれらに私は苦笑しつつ「おはよう」と返しつつも内心では驚きを禁じえなかった。
異世界トリップの王道というか、私は素晴らしくチートなのだ。
神や精霊、動物たちに愛される体質で、日本に居た時と比べると見目も随分と美しくなっている。
自分で言うのものなんだけど、あれだ。絶世の美女ってやつ??
雪のように白い髪は微かに銀色を帯びていて艶やかで、瞳は海のような蒼穹色。
手入れなんて必要ない程に澄んだ肌は日焼けなど知らないというような真っ白さで、ともすれば不健康そうに見えると言うのに、そんな危うさなど感じさせない清潔さを持っている。
最初、自分の姿を見たときは受け入れられなかったが数週間もすれば慣れた。もう鏡を見ても驚かないし、お風呂の時も普通に洗える。
・・・・うん、最初は直視できなかったんだよ。自分の身体なのにね。
まぁ、そんなことは置いといて。
そんな異世界トリップの王道中の王道な目にあった私には、チート能力がこれほどか!という程に詰め込まれていた。
で一つ目が、精霊魔法が対価なしでほぼ無限に使える・・・ということ。
精霊に愛され体質な私は、普通の人たちが使うような長ったらしいお伺いの呪文なんてものが無くても精霊魔法が使える。
・・・というよりも、精霊達が勝手に私の意を汲んでイロイロとやってくれちゃうのだ。
寒いな~と思えば火の精霊達が温めてくれるし、暗いな~と思えば光の精霊が明かりを灯してくれる。
果ては、コイツ気に食わない!と思えば闇の精霊がソイツを闇の中に引きずり込んでくれたり・・・とかね??
勿論、そんなことは望んでいないと懇切丁寧に闇の精霊に説明して吐き出して貰いましたけれども。
そんなこんなもあったりしたので精霊達に愛され体質な私にとって、風の精霊達が現れた事はそんなに驚くような事ではなかった。というよりもコレは日常の出来事だ。
精霊と私。それは常に一緒に居るものなのだから、驚くことなんてない。
なかった・・・・のだが、問題はそこでは無い。
現れた風の精霊達の数が尋常ではなかったのだ。
空中に無数という水色の小鳥が飛んでいるんだ。流石に驚くよ、こりゃ。
いつもなら私の願望を聞いて(勝手に)願いを叶えようとして現れるのは2~3匹(匹?)だけ。
精霊達の話によると、あんまり大勢で来ると姫様(精霊達は私を姫と呼ぶ)に迷惑がかかるので順番を決めてそれで来てるんだとか。
だから、こんなにも大量の風の精霊を見るのは初めての事だった。
視界を埋め尽くすように鳥、鳥、鳥、鳥。
サイズはみんなバラバラで、水色と一言で言いはしてもその色は様々だ。
あぁ、綺麗な鳥たちを表現する語彙の少ない私の残念な頭が恨めしくてしょうがない。
一際身体の大きな鳥が群れの中から目の前に進み出てくるのをぼんやりと見ながら私はそんなことを頭の中で考えていた。
現実逃避だ。分かってる。だけど、私には全くもって今の状況が分かってないのだから、これくらいさせてくれても良いと思う。
イメージ的には水色のフェニックスと言ったところか。
彼は私の元までくると、くるくると喉を鳴らしながら
『ようやくお目覚めなのですね。』
そう、言った。
優しい声は記憶にあるものと全く変わらずにあって、私は安堵から思わず肩の力を抜く。
「えーっと、・・・・・おはよう?」
なんと言えば良いのかが分からなくて思わず間抜けな返答が口をついて出た。
というか、ねぇ、私寝てたの?
つらつらとそんなことを考えていたら、風の精霊神であるブラストは呆れたように器用に肩を竦めて私の頭の上に着地(着頭?)する。
精霊だからなのか重さは0。肩は凝らないと思う。
『何も覚えていないのですね』
覗き込んで来るブラストにコクリと頷いた私の頭の中にはずっと、何がどうしてこんなところに?といった疑問がグルグルと渦巻いている。
『魔王を封印した直後、姫と魔王は姿を消したのですよ。全く覚えていないのですか?あの戦場に封印魔法の影響で出来たクレーターだけを残して姫は忽然と消えたのです。我ら精霊は姫が生きている事を信じて探し続け、やっとの事でこの洞窟で眠る姫を見つけずっと守護をしつづけていたのですよ。』
あぁー・・・、魔王との戦闘は夢じゃなく本当にあったのか。。
・・・うん??
ってことは??
『あぁ、ちなみに姫が行方不明になった数日後にクリスはローズと結婚しましたよ。子供が3人出来て順風満帆な日々を過ごしてましたね、確か。まぁ姫の事を散々利用した上に幸せになろうとしていたのに腹を立てたフレイムが国ごと滅ぼしましたから、今はもうその子孫も残っていませんが。』
・・・夢じゃなかった・・・・とな?
・・・・・・・・・・イッタイドウイウコト???
なんでクリスはローズと結婚したの?しかも私がいなくなった数日後って・・・なに?
つまりは、あの夢は夢じゃなかったってこと?
いつからローズと恋仲になってたの?
いつからローズは私を裏切ってたの?
アノコトバト、アノエガオハ・・・ウソ??
サアッ・・・と血の気が引いていくようだった。
あまりの衝撃にもう、頭が真っ白だ。
問い詰めたくても、火の精霊神であるフレイムが先に滅ぼしてしまったらしい。
いや、まぁ、話聞いたら私もぶちギレてそれくらいはやりそうだけど、余計なおせっかいではある。私にぶん殴らせろ、と言いたい。
『更にちなみに。フレイムを擁護する訳ではありませんが、滅ぼさなくとも姫は500年という人には長い時を眠り続けていたので例えフレイムが滅ぼさなくとも少なくともあの2人が生きて再び姫と会う事は無かったでしょうね。フレイムとダークは事の詳細を知っているらしいので詳しい話は2人に聞けばいいでしょう』
・・・・・・・前言撤回。フレイム、よくやった。
詳しい話は今度聞くにしても、なんか私の勘が告げているのだ。胸糞悪い話ダゾ☆とね。
ならばお礼こそ言えても恨み事などフレイムには言えまい。そう思うくらいには私、お腹の中黒いからね。
というか私500年も寝てたのかー。実年齢518歳?お婆ちゃんにも程があるだろう。
「まぁ、クリスの事は後ででいいや。腹立つから今は考えたくないし。・・・とりあえず、ここ何所か分かる?」
『ここはアウェイズの森の一角です。』
人間誰しも切り替えが大事だよね。混乱のしすぎでショートしたとも言うけど。
ブラストの言葉になるほど、崖の下に見えたあの森はアウェイズの森だったのかと納得。
アウェイズの森とは、私が召喚されたベリオ王国からだいぶ離れた場所だ。
一度だけ。たった一度だけ魔王討伐の旅の途中で立ち寄った事のある森で、神と精霊の住まう神聖な森。
あの時は、神に愛され(以下略)のお陰で大変な目にあったのだがまぁそんなことは今は問題ではない。
それにしても、アウェイズの森は確か戦場から大分離れた場所にあったはずだ。
私の記憶が正しければベリオ王国を挟んだ正反対にある場所なハズ。
あ、何で魔王討伐の旅の途中でそんな場所に行ったのかは今は割愛させていただくわね。いつか語る事もあると思うし。
とにもかくにも。何で私はこんなトコに??
ブラストは私のその質問には『すぐに分かりますよ』と言うだけで教えてはくれなかった。
このいじわるめ。
『ひとまずは、下に降りましょうか。皆も一先ず下がりなさい。そろそろ姫に会えない鬱憤で爆発しそうな他の精霊神がいることですしね』
ブラストはそういうとバサリと翼を羽ばたかせて風を起こし、私の身体をふわりと浮かばせた。
風の精霊達は多少不満そうにしながらも口々に『姫様、またね』『何かあったら呼んで』『なにも無くても呼んで』と囁いて風にその姿を溶かしていく。
おい、最後の言ったの誰だ。何の用もないのに呼ぶってどんな状況か10文字で私に説明しなさい。
「うん、みんなまたねー」
精霊達の姦しい声にばいばいと手を振った私は、皆が風に溶けたのを確認するとブラストの精霊魔法で起こされた風に乗って数十メートルという高さのある足場から飛び降りた。
危なげなく着地して思わず体操選手のようにポーズを決めてから、ハッ・・・と気付けば案の定ブラストが変なものを見るような目を私に向けていた。
は・・・・・恥ずかしいっ!
日本にいた頃はこれをやるとノリの良い友達が「わー」と心の伴わない歓声と拍手をくれたものだが、こちらではポーズの意味が通じないので頭の中を心配されてしまうのだ。
私は正常だ!!!と訴えるがそれすらも哀れむような目で見つめられ、いたたまれなさに私はぐっ・・・・と唸る。
「いっ・・・・今のはねっ、私のいた世界では意味のあるポーズで『そんなのはどうでもいいですから他の精霊神を呼んでください。暴走寸前ですので』」
言い訳のようにポーズについて説明をしようとしたらバッサリと切られました。
えぇ、それはもうバッサリと。
頼むよ、弁解くらいさせてくれと言いたいところだが暴走寸前という聞き捨てならない言葉に私はその心の声を無理矢理飲み込んだ。
頭の中が残念な子だと勘違いされるのと、この世界の崩壊阻止だったら優先すべくは勿論・・・・・
勿論・・・・・世界の崩壊の阻・・・・って、あれ?よく考えてみたら私、別にこの世界壊されても困んなくね?むしろ清々するカモ?
超ブラックな思考が頭の中を一瞬過ぎったが、微かに残る良心で心惹かれるその案を宇宙の彼方に放り投げておく。
やろうと思えばいつでもやれるのだ。本気でぶちギレた時の為にその手段は取っておこうと思う。
「ダーク、レイ、シー、フレイム、ライト、グラン。みんな来てー」
なんとも間の抜けた召喚方法もあったものだと昔、笑ったのは一体誰だったか。
精霊に愛され(以下略)な私にとって召喚魔法なんてあってないようなものだと確かその時は反論した気がする。
だって皆勝手に来るんだから。
でも精霊神達は例外で、彼らは昔私とした約束に従って勝手に出てくるということを絶対にしない。
それは『呼ばれないと出て来ない』という一方的な約束。
彼らは一様に過保護で、常に7人(さっきブラストが人って言ってたので匹から変更。なんか今更な気もするけど)の精霊神が共にあろうとするのに呆れた私が無理矢理結ばせた約束だった。
それを律儀に守っているのだ。ただの口約束なのにみんな、真面目ねーと思ってしまったのは内緒だ。
精霊ってこういうところがやっぱり良いと思う。
みんな思いやりがあって優しいし、人間とは違って誠実だ。まぁ、私限定で、だけど。
私の呼びかけに空気がぐらりと揺らぎ、一瞬で目の前に6ひ・・・・・失礼、6人の精霊が現れた。
~後日談~
姫「そういえば、あのときなんでブラストあそこにいたの?」
ブ『姫が心配だったからに決まっているでしょう』
姫「でも約束守って皆私が呼ぶまで出てこなかったじゃない?なんでブラストだけあそこにいたの?」
ブ『…………………』
姫「もしかして、皆ちょくちょく約束破って出てきてた…………とかそんなことは」
ブ『……………』
姫「…………あるんだね」
ブ『(コクン)』
姫とブラストの後日談。
長くなりそうだったので切りました。
続きは早ければ明日・・・かなぁ??
矛盾点が見つかった為、軽く訂正しました。(5月25日)