第2話 屋敷にて
「ありがとう、サラ。わたくし、あなたの献身のおかげで生きている歓びを実感できましたわ」
「お゛っ……」
「あらあら、はしたない。そんなにベッドを汚して……」
ベッドの上で痙攣するサラを横目で見ながら、わたくしは《《コップを浮かせて手元に引き寄せる》》と水を一口飲みました。でも心配事がまだありますわね。
「ねぇ、サラ。わたくし、こう見えてコンプライアンスを気にするタチですの。あ、これダブルミーニングかしら? ……サラも今幸せですわよね? わたくしは強要してませんわよね?」
「お゛う゛ぅ……」
「サラ! 聞いていますの!? とても大事なお話ですのよ!」
わたくしはサラの脂肪の塊にペチリとビンタをしました。
「じあわぜですっっ!」
「ああ、よかった……。 ……でも今叩いたのはアウトかもしれませんわね?」
その後、なんとか復活したサラを連れて……いえ、サラに連れられてお風呂に行き、また時間を食うことになったのは仕方のないことでしょう。仕方のないことなのです。
◇────────────────◇
「おはようございます。お父様、お母様」
「ああ、もう大丈夫なのかい? ヴィア」
「ヴィア! わたくし、とっても心配したんですよ。……その目はどうしたの!?」
母の悲鳴にも似た声。父と母がわたくしの顔を見ているのがよくわかります。
「お母様、ご説明致しますわ。お掛けになって」
わたくしと両親がふかふかのソファーに座り直したところで、わたくしは二人に話始めました。
まず適応試験は「わたくし何かやっちゃいました?」レベルで良かったことを伝えます。
良すぎてマギアスピーダの試験機が、固定ボルトを引きちぎって脱走しようとしてましたものね。
そしてその時によくわからない記憶が頭の中に入ってきたこと。そのうちどこかでボロを出すのが目に見えていますから、先に言っておくことに致しました。前世の男性の記憶が脳にぶち込まれたり、ここが前世でやり込んだゲームの世界であったり、わたくしがこれから悲惨な目に遭うことは伝えませんでしたけれど……。
……でもよくよく考えてみますと、わたくしが悲惨な目に遭う時には、両親も悲惨な目にあうのではなかったかしら? やはり絶対君主制ってサイテーですわ!
「適応試験で天啓を得た……だと? それは建国王の……」
知っていますの!? お父様! と言いたいところですが、 建国王……? ああ、あのすべての元凶ですわね? 初代国王は故人ですから、いまさら掘り返しませんが……。わたくしからしたら文句の1つも言ってやりたいゴミカスですわね。
「はい。ですので、ちょっと変わったと思われるかもしれませんが、わたくしはヴィアリス=エクソシアですからご安心くださいまし」
「な、なんだか急に大きくなったみたいだね」
「そんなことより!!! 目は!!! 目はどうしたの!!!」
話を静かに聞いていた母は、我慢できなくなったのか突然ブチギレました。コワ~ですわ。
「ほらお母様、大丈夫ですわよ?」
お目目をパチパチとしながら、緑色に変わってしまったわたくしの瞳を両親に見せます。とっても便利な力も使えるようになりましたし、わたくしは気に入っているのですが……。
「あ、あなたの綺麗な青い瞳が……ああ……」
「ま、まるで建国王じゃないか……」
もうそのドブカスの話はいいんですけど……。
ふと部屋を見回してみると、人には淡く光る輪郭のようなものがあることに気が付きました。両親は青。使用人たちもほとんどが青か黄色。そして一人だけその中で赤いオーラを放つ人物が居ました。
はい。わたくしが「カルヴォノ・マギストリア」の作中で人間不信になる原因ですわね!
「お父様、しばらくわたくしを信じて、黙って見ていらしてね?」
「何をするんだい?」
わたくしが赤いオーラの男を見ると、その男の足がひとりでに歩き始めます。
「な、なんだこれは!?」
はい。スパイさんご案なぁ~い。
「お父様、この方スパイですわ」
「ち、違います! 私はエクソシア家に忠誠を誓っています!」
「……ヴィアはどうしてそう思うんだい?」
「敵対的? なオーラが出ていますもの。きっと部屋から証拠が出ますわ。この人、わたくしのこと言いふらしますわよ」
原作ではそのせいでわたくしは第1王子と婚約させられてしまいますものね。あのカスの子孫のカスだけは絶対に無理です。もしそんなことなってしまったら、そいつを殺してわたくしは生きますわ。
「……取り調べろ。連れて行け」
「旦那様! 私は……」
護衛たちに引きずられるようにして、男が部屋から連れ出されて行きました。きっとこれから楽しい話し合いがもたれることでしょう。
これでわたくしの心配事が1つ減りました。そしてわたくしには力が必要です。降りかかる火の粉を払いのけるだけの力が! 全てをなぎ倒しすだけの力が!!!
わたくしが破壊衝動に襲われていると、テーブルの上に紅茶が並べられます。わたくしはメイドに牛乳を入れるように頼みました。昨日まではストレート派だったのですけど、なんだかとってもミルクティーが飲みたいのですわよね。
「それでお父様、わたくしマギアスピーダが欲しいのですけれど」
「ああ……じゃあミューβを1機用意しよう」
父はわたくしのミルクティーをじっと見つめています。あげませんわよ?
「いえ、そんな量産機いりませんわ。わたくしが欲しいのは、あのグローシアです」




