第11話 終わりなき打撃
工場の中には頭も手足もない、胴体部のみのMAが転がっておりました。数本の太いコードが接続されており、何か研究に使われていたかのような痕跡はありますが、今はホコリを被り、まるでゴミのように打ち捨てられております。
「これは……」
あまりの扱いに流石のわたくしもドン引きです。
わたくしがグローシアでその機体に近寄ると、ぼんやりと機体が光りました。そして誘われるようにハッチが開きます。中には淡く輝くピュアマギコークスクリスタル。そして一人の半透明な少女がコクピットに座っておりました。
──連れて行って。
背筋の悪寒とともに脳内に言葉が響きます。私と年齢もそう変わらないような少女が、このクリスタルの中に囚われ続けているのです。少女の怨霊はうちの怨霊と比べると、かなり力が弱っているように感じられました。
「ええ、喜んで。一緒に行きましょう」
話が早い怨霊さんで助かりますわ。わたくしは持ってきていたワイヤーを、胴体部分だけになってしまった機体に括りつけると、リュックのように背負いました。
このコードってどうしたらいいんでしょうか? 抜き方もよくわかりませんし、引きちぎるしかなさそうです。こういうコードって、引き抜こうとしたらツメが割れて絶望するんですわよねぇ……。
よいしょとコードを無視して怨霊憑きコクピットブロックを引っ張り出そうとしますが、しかし案外……いえ、やはりというべきでしょうか。ブチブチと千切れ飛んだコードが暴れるように室内の機材をなぎ倒し、とても大きな音が辺りに響き渡ってしまいました。
……バレてないですわよね? わたくし、こういう時の誤魔化し方を知っていましてよ!
「にゃ、にゃーん……」
ウウゥゥゥ────!
ふふふ……わたくしの隠密術を破るとは敵ながら天晴なサイレンですわね!
ではわたくしは折角なので、このお排泄物研究所を壊すことを選びます。ここからはプランB、プランBですわ! グローシアに核バズーカが付いていないことが悔やまれますわね!
「オラァッ! ですわ!」
わたくしは保管庫の壁を蹴破りました。
◇────────────────◇
『あなた達はそれでも栄光あるハロウェル騎士団の一員ですか! ここからはハロウェル騎士団団長代行が指揮を執ります! 私の指示に従いなさい役立たずども!』
わたくしが研究所をほぼ破壊し尽くした頃、ハロウェル騎士団の本隊が来たようです。まぁ破壊し尽くしたと言っても、本物の病院の部分は壊していませんからね? ダミーの部分と工場部分だけですわ。わたくしはとっても慈悲深いですから!
『そこの黒いMA! 私が来たからには逃げることなど不可能です。投降しなさい!』
この神経質そうで眼鏡をかけていそうな声は、確かハロウェル侯爵の次男でしたか? ファンからは眼鏡から声が出てると言われてましたものね……。
彼らの駆る機体はダン・コーマ。ハロウェル騎士団専用のMAです。ウィングリールートですと、一応味方なんでしたっけ? こんなのでも。
数は8機。彼らの動きは統制が取れていて、日々の厳しい訓練が伺えます。しかし量産機の範疇を超えることはできなかったようですわね。
「とりゃっ! ですわっ!」
はい。今あと7機になりました。荷物を背負っていても全く問題ないですわね。
『は、速いッ! これが噂の新型機なのですか!? 同士討ちに気を付けながら囲みなさい!』
なんだかわたくし、感応器官を通して直接脳に響く眼鏡の声に段々とイラついて参りました。
ですので、一旦荷物を降ろして、囲もうとしているダン・コーマの後ろに回り、背中からぶん殴って差し上げることに致しました。騎士の背中の傷は恥だとか、そういう風習ありませんの? 介錯致しますわよ?
『な、なんなんだこいつは!?』
感応器官を通して聞こえてくる眼鏡ボイスがマジで不快なんですわぁ……。そして気が付けば眼鏡以外はおねんねしておりました。
あっ! わたくし今いいこと考えましたわ! まず眼鏡をブン殴りますの!
『ぐわああああっ!』
そしてダン・コーマの腕をもぎます。こいつにはふさわしい死に場所がありますので、今は命までは取りませんわ。
『や、やめろ! 私を誰だと思っているんだ!』
さらに脚と頭ももぎもぎします。
『私はハロウェル侯爵家のス……ギャッ……ウェッ……やめろォ!』
MAは痛覚が繋がっているタイプのロボットではありませんのに……。大袈裟ですわねぇ……。ちなみに頭をもいだら辺りで声は聞こえなくなりました。
あっ! このパーツ、建造中のMAに使えないでしょうか? お土産にすれば翠蘭もきっと喜んでくれますわ!
気がつけば辺りに動くものがなくなってしまいました。さっさと帰ることにしましょう。怨霊憑きコクピットブロックと、ダン・コーマのパーツをワイヤーでまとめると、あとは飛んで帰るだけですわ~~~!
「……というわけで、お待たせしました。お土産たくさん持って来ましたわよ~~~!」
あれから無事に合流ポイントに到着致しました。トレーラーの横にはポインター氏に乗った翠蘭が待っております。トレーラーの荷台にパーツを積み込むと、わたくしは翠嵐の前でハッチを開けました。
「あらあら、翠蘭自らお出迎えですの? そんなにわたくしに会いたかったんですか?」
気怠げにキセルを燻らせる翠蘭は、深くため息を吐くと、言いたくなさそうに口をムニムニとさせたあと言葉を紡ぎました。
「……これで私たちは立派なテロリストだな」
「オホホ……冗談はやめてくださいまし」
「まさか自覚がないのか……!?」
「やつらは悪の組織なのですから、わたくしは正義の味方になるんじゃありませんこと?」




