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第10話 マギアスピーダ強奪

「ヴィア、本当に大丈夫かい? お医者様を呼んだ方がいいんじゃないかい?」


「そうよ。わたしたちは舞踏会に行かないといけないんですから、おうちには居ないのよ?」


「お父様、お母様、大丈夫ですわ。横になっていればすぐによくなります。わたくしが起きるまでそっとしておいて頂けますか? サラに任せていれば大丈夫ですので……」


「わかった。何かあったらすぐ言うんだよ。サラ、頼んだよ」


「畏まりました、旦那様。お任せください」


「いってらっしゃい、お父様、お母様。おやすみなさい……」


「おやすみなさい、ヴィア……」


 ごきげんよう、皆様。本日、わたくしは舞踏会に参加させられる予定だったのですが、仮病でサボりました。ちなみにエメラルドアイに関しては翠蘭のように、カラーコンタクトレンズで誤魔化していく所存ですわ。


 とにかくこれは遠大な計画の始まりに過ぎません。


 長い黒髪の三つ編みがまだ幼さの残る白い横顔に映えています。体のラインを隠すようなメイド服なのに、サラシを禁じられたサラの胸は、まるで躍るように揺れています。


 わたくしの目の前に近寄ってきたそれはいまだ日々成長を続けています。肉付きがよく、しっかりとしたボディ。まさに10年に1度の出来。今わたくしの目の前にはブドウ畑が……。


「お嬢様? ……お嬢様! よろしいのですか?」


「よろしいわけないでしょう! こっちに来なさい!」


「キャー♡」



◇────────────────◇



 ……わたくしはパンドラの箱を開けてしまったのかもしれません。これから、おカチコミだというのにすでに疲労しています。サラ……恐ろしい子……!


『本当にやるんだな? エクソシア』


『……ええ。ですから回収だけお願いできますか? ついでにアレも持ってきてくれると安心ですわ』


『本当に使うのか? ……了解した。では通信傍受の可能性があるので通信を切る。現地で待っているぞ』


『ええ、ご褒美も楽しみにしていますわよ』


『フンッ』


 ブチッと無線が切られてしまいました。翠蘭すいらんったら恥ずかしがり屋さんなんですから。


 今から向かう場所は、ウィングリー王国のハロウェル侯爵領です。エクソシア領からは北隣になります。


 ハロウェル侯爵家と言えば、お父様を怪しんでいて胃痛の原因になっている方のおうちですわね。今回の件は何もその件を恨んで、というわけではありませんの。


 ハロウェル侯爵家は代々ウィングリー王国の科学技術を担う……科学なんたら庁? 局?  みたいなところの長官をしている家系です。わたくし、この国の制度に1ミリも興味を持てないので、全部うろ覚えで申し訳ないのですけど……。


 とにかくそのハロウェル家にも《《仏壇》》があるらしいのですわよね。他人の家のお仏壇ですから、有効活用できるかはわかりませんが、わたくしの2つ目のMAのためにお借りしようと思いますの。一生。


 まずはスポットへ迂回してからハロウェル領に向かいます。出来るだけバーニアを吹かさずに跳躍するように夜の闇を引き裂いて、わたくしは跳び続けました。


 ぴょんぴょんと30分ほど跳び続け、その先にあった丘の上にわたくしは陣取りました。眼下には軍病院に偽装された研究所が見えます。病院にしては妙に警備が物々しいんですわよね……。


 周囲を歩兵が警戒し、さらにMAも巡回している様子が見てとれます。周囲に民家はありませんが、数キロ先に軍の基地があります。


 流石に全部倒してしまったらウィングリーの方たちも色々と困るでしょうから、今はこのお排泄物研究所だけで許しておいてあげましょう。


 しかし、まずは隠密行動ですわよ、大佐。そもそもお目当てのモノの位置がわかっていませんので……。


 ここって病院ですのに、すぐ後ろに工場があるんですのよね。書類上は医薬品工場らしいのですけれど、ちょっと露骨すぎやしませんか? まぁわたくしは楽できるので構わないのですけれど。


 ちなみにピュアマギコークスクリスタルをお借りする候補がもう1つありました。王立博物館に展示されている王家の第1世代MAなのですけれど、あれは精巧にできたレプリカだったみたいです。わたくしがっかりしましたわ……。


 第1世代MA欲しかったですわぁ……。今お借りしようとしているものは、何世代のものなのでしょうか? ワクワクしてきましたわね!


 工場付近は警備が手薄のようです。ハズレでしょうか? あの警備の中に突っ込むのはあまりやりたくないのですけれど……。


 ────ッ!?


 敷地内を隠密行動していると、背中に凄まじい悪寒が走りました。こ、これ知ってますわ! うちの怨霊オルシアと似た感覚! こっちですわね!


 わたくしは可能な限り、素早く、そして静かに移動します。工場の端にあったシャッターを無理矢理こじ開けると、そこにはボロボロのマギアスピーダが放置されていました。

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