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第9話 魔力の痕跡

翌朝。

ナタリーは議事堂へ向かう馬車の中で、

膝の上にそっと白花を乗せていた。


「昨日の、やっぱり気のせいじゃない……

 あの風、誰かが私を守った。

 どうして……?」


誰にともなくつぶやくその声は震えている。

最近、体の内側で「何かが目覚めるような感覚」が続いていた。

何か大事なものを、忘れている。

でも思い出そうとすると胸が痛くなる。


馬車が止まり、議事堂へ入る。

こそこそと職員たちが彼女を見つめ、

「今日も可愛い……神聖……」「歩き方すら尊い……」

などと言っている。


(……これも違和感。

 みんな、私のこと……好きすぎる)


ナタリーは胸の奥が冷えるのを感じた。


◆ 議事堂・正面ロビー


「ナタリーちゃん!」


楓ちゃんが駆け寄ってきた。

目がきらきらしている。


「これ見て! これ、どー思う!?」


楓が指差したのはロビーの大理石の柱。

そこには、うすく光る跡が残っていた。

淡い白色、まるで花びらが溶けて染みたような形。


「これ……白花の色と同じ……?」


ナタリーが触れようとすると、

ふわりと光が逃げるように消える。


「ナタリーちゃんが来ると反応したんだよ。

 これ、絶対なんかあるよ!」


楓が得意げに言った。

ルチアも腕を組みながら近づく。


「昨日のガラスの件……。

 どう考えてもおかしい。

 “守った何者か”がいるなら、これはその痕跡だ」


ナタリーの胸がぎゅっと締め付けられた。


(やっぱり……

 私は、誰かにずっと見守られている……?

 誰……?)


◆ 一方そのころ、影の路地


ヴァネッサは黒い羽ペンで魔方陣を描いていた。

薄い魔力がはじけ、路地の空気がゆらぐ。


「白花の魔力……あの子、また動いたのね」


彼女の目は鋭い。


「……しつこい子。

 ナタリーを守ってどうするつもり?

 ナタリーの“真実”を知れば、

 あなたはもっと傷つくのに」


影の中から、

ヴァネッサの部下の少女が出てくる。


「ヴァネッサ様、議事堂内の魔力反応……高まりつつあります」


「わかった。

 “白花”の魔力がナタリーに染みついているのよ。

 気づく頃ね……自分が何者なのか」


ヴァネッサはゆっくり笑う。


「ナタリー。

 あなたが幸せそうに愛されているの、

 見ていると――

 私は本当に、吐き気がするわ」


◆ 控え室前の廊下


ナタリーは白花を握ったまま歩いていた。

すると――


ふわっ


目の端に、白い影がよぎる。


「……誰?」


振り向くが、誰もいない。

ただ、花の香りだけが残る。


(こわい……でも……

 あの香り、きらいじゃない)


足元を見ると、

また一枚、白花の花びらが落ちていた。


拾った瞬間、胸が温かくなる。


「まるで……

 私を、慰めてくれているみたい……」


ルチアが追いつき、優しく言う。


「ナタリー。

 何があっても、俺がそばにいる。

 でも……

 “誰か別の存在”も、君を守っている気がする」


「……だよね。

 誰なんだろ……この花の人」


そのとき。


――ナタリーの背中に、誰かの手がそっと触れたような感覚が走った。


振り返る。

誰もいない。


ただ、廊下の影で、

白いマントの少女が一瞬だけ姿を見せ――

すぐに消えた。


ナタリーは息をのむ。


「……私を、見てた……?」


ルチアは気づいていない。


だがナタリーだけが、

はっきり感じていた。


あの人は――

 “優しい誰か”が、確かにいる。


そしてその存在は、

ナタリーの胸奥深くに眠る何かを、

そっと揺り動かしていた。

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