第8話 白花の気配
ナタリーはその日、いつものように国会議事堂の控え室で、
ちょこんと椅子に座って書類をめくっていた。
「……みんな、私を好きすぎるよね……?
なんでだろ……私、特別なことなんて……」
ぼそ、と漏れた心の声にルチアが振り向く。
「ナタリーが可愛いからでしょ?ほら、金髪ふわふわ。世界の宝。愛されて当然」
「当然じゃないよ……。それが変なんだよ……」
ルチアは冗談を言ったつもりだったが、
ナタリーの真剣な表情を見て言葉を飲み込む。
そこへ――
ぱらぱら……白い花びらが、控え室の空気の中を舞った。
「っ……!? な、なにこれ……?」
窓は閉まっている。風もない。
なのに、まるで“どこかから誰かが持ってきたように”
白い小さな花びらが、ふわりとナタリーの肩に落ちる。
「ルチア……今、何かした?」
「してないよ。ていうか、これ……花?」
二人が固まったその瞬間。
――ぱんっ!
突然、天井の照明が弾け飛んだ。
ナタリーに向けて落下してくるガラスの欠片。
「ナタリーっ!!」
ルチアが走り込むより速く、
謎の風が渦を巻いてナタリーを包み込み、
ガラス片はすべて彼女の周囲を避けて床へ散った。
「え……?」
ナタリーは無傷。
風は一瞬で消える。
残ったのは、
ナタリーの足元にひとひら落ちた 白花 だけ。
ルチアが震えながら言った。
「い、今の……誰かが……守った?」
「…………うん。
“誰か”が、確かに……私を包んだ気がした」
ナタリーは白花を拾い上げる。
触れた瞬間――胸が温かくなり、
理由のない懐かしさが込み上げた。
「……やさしい……匂い……」
そのころ、議事堂の外。
高い建物の屋上から、フードをかぶった少女が
静かにナタリーを見下ろしていた。
風に乗って、彼女の呟きが消える。
「――ごめんね。
本当は、もっと近くにいたいけど……」
彼女の手には、白花が一輪。
そしてその背後から、誰かの気配が近づく。
「ふん……あいかわらず、気持ち悪い連中ね」
冷たい声が言った。
影の女――ヴァネッサだ。
「守ってどうするの?
あの子は“偽りの女王”。
愛されてるのは、仕組まれた結果なのに」
フードの少女は答えない。
ただ、ナタリーの姿を静かに見つめ続ける。
彼女の頬を伝う涙を、ヴァネッサは気づかなかった。
白花の気配だけが、静かに消えていった。




