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第15話 「目覚めたら国家元首でした。」

ナタリー・ルミナスが目を覚ましたとき、見慣れた自室はどこにもなかった。


代わりに、やたら大きな天井画。

金ピカに輝く柱。

そして——


「総攬者閣下、お目覚めになりましたか!」


目の前には、黒い軍服の青年。

顔はイケメンだが、言っている内容がさっぱり意味不明だ。


「……え、だれ? そうらんしゃ? 私?」


「はい。閣下以外に、誰がこの世界を統べるというのですか!」


ナタリーは一瞬だけ固まった。


(……え? 世界を総攬って、つまり、世界のトップってこと?

 そんなの、寝起きの私に任せて大丈夫なの……?)


すると青年はひざまずき、さらに信じられないことを続けた。


「本日、閣下には三つの重大決定がございます。

 一つ、隣国との停戦交渉。

 二つ、財務院からの破産寸前レポート。

 そして三つ——

 “世界総攬者継承の儀” の最終承認です!」


「や、やめて! 朝から重い!!」


ナタリーの悲鳴が玉座の間に響いた。


しかし、青年は真剣な目で告げる。


「どうかご安心を。私たちは、命を賭して閣下をお支えいたします。

 ……たとえ、世界が滅びに向かっていようとも。」


(滅び!? 一気にラスボス感!)


ナタリーは頭を抱えた。

どうやら、今日から学校に行くどころではなさそうだ。


だって──


“世界の総攬者” に就任してしまったのだから。


……ナタリーが絶望的な三つの決定事項に頭を抱えた、その直後。


ドゴォォォォォン!!


玉座の間の石壁が一枚、拳でくり抜かれたように崩落した。


「ひっ!? え、え、え!? 私また何か決定しちゃった!?

 もしかして“壁壊していい令”とか出した!? 寝ぼけて!?」


「閣下、伏せてください!」

レオンが素早くナタリーの前に立ち、剣を半分抜きかける。


砂埃の中から、ひとりの少女が静かに姿を現した。


歩みはまっすぐ。

呼吸も乱れず。

瓦礫すら足元できれいに割れていく。


白い軍衣。

灰がかった長い髪。

翡翠色の瞳は、夜明け前の氷のように澄んでいた。


フィリア・アステリオン。


そして彼女は、瓦礫や視線など存在しないかのように、

ただ一点──ナタリーだけへ視線を向けた。


「……ナタリー・ルミナス。」


その声は、驚きも焦りもなく、

静かで、妙に“確信”だけを含んでいた。


ナタリーは完全に怖気づきつつ、

それでも勇気を振り絞って姿を少しだけ出す。


「あ、あの……どちら様で……?」


フィリアは一秒だけ動きを止めた。

瞳の奥になにかが揺れ、すぐに消える。


「身元確認は不要。」

淡々とした声。

しかし妙にフランクで容赦がない。


「私は……あなたの友達。」


玉座の間の空気がざわめいた。


「友……だち……!?」


レオンが剣を構える。


「おい侵入者、ふざけたこと言ってんじゃ──」


フィリアはレオンを横目で見た。

ただそれだけ。

だがレオンは背筋をビクッと震わせる。


「あなたと話す必要はない。

 ……というか、邪魔。」


「じ、邪魔て……!」


レオンが抗議しかけたが、言葉が喉の奥で消える。


ナタリーはますます混乱する。


「え、えっと……私、本当にあなたのこと知らないんだけど……?」


フィリアは表情を変えない。


「うん。

 覚えてなくても問題ないよ。」


クールだ。

平坦すぎる声。

だが、感情を押し込めている気配だけが、なぜか痛いほど伝わる。


「記憶なんて……どうせすぐ変わるし。

 関係ない。」


フィリアの翡翠色の瞳は一度たりともナタリーを離さない。

まるで、生きているか確認しているように。


「私は、あなたの友達。」

「それは、世界がどう変わっても揺らがない。」


冷静な声。

だが言葉は重かった。


ナタリーは胸の奥がチクリと痛む。


(……この人、なんで……ここまで……?)


レオンが小声で呟く。


「……お、おい……これ、放っておいたら俺ら死ぬ流れじゃね?」


フィリアは聞こえているのかいないのか、

無言でナタリーの前に歩み出る。


「迎えに来たよ。

 それだけ。」


短く言い切って、手を差し伸べた。


振り返りもせず、無表情のまま。

でも、その指先はほんの少し震えていた。

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