【漫才】実家に帰省したキョンシー女子大生の手土産
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!それはそうと…こうして新学期も始まった訳だけど、長期休暇の方はどうだった?」
ボケ「そうだね、蒲生さん…せっかくの休みだったから、私は台湾の実家に一時帰省してきたよ。」
ツッコミ「おお、それは良いじゃない!やっぱり久々の実家だから、存分に羽根を伸ばせたんじゃないの?」
ボケ「羽根どころの騒ぎじゃないよ。こうやって手とか足とかもピーンッと伸びちゃっていたんだから。」
ツッコミ「そうやって隙さえあれば両手を突き出そうとするんだから!そもそも手足の関節が固まるのは死後硬直が原因じゃないの?こんな長い間キョンシーとして過ごしていたら、貴女の死後硬直もとっくに解けてるはずでしょ!」
ボケ「ほら、やっぱり私達キョンシーだってパブリックイメージは大事にしたいじゃない。」
ツッコミ「何それ、パブリックイメージって…確かにキョンシーは、あのピョンピョン飛び跳ねる動きで五割方成立しているような物かも知れないけど。」
ボケ「残りの半分は、御砂糖とスパイスと素敵な何かで成立してるけどね。」
ツッコミ「それはイギリスの有名な童謡じゃないの!」
ボケ「しかも元ネタ的には『女の子は何で出来ているの?』って質問への答えだからね。女子大生の私ならこの条件でも成立するけど、男性のキョンシーならまた話が変わってくるんだよ。」
ツッコミ「ツッコミの仕事を取らないで!ボケ潰しはあるけどツッコミ潰しなんて聞いた事がないよ!」
ボケ「無い物は作れば良い。それが日本の物作り精神だよ。」
ツッコミ「今は物作りの話をしているんじゃないんだよ!それなら男性のキョンシーは、ピョンピョン飛び跳ねる動きを差し引いた残り半分は何で出来ているの?」
ボケ「それはやっぱり、額の霊符と官服と青白い顔の三点セットで成立するんじゃないかな。」
ツッコミ「どれも外見的特徴じゃない!そこはカエルとカタツムリと子犬の尻尾とかじゃないの?」
ボケ「無茶を言っちゃ困るよ、蒲生さん。カエルとカタツムリと子犬の尻尾で男の子が出来る訳ないじゃない。」
ツッコミ「急にマジレスするの止めて!それを言ったら御砂糖とスパイスでも女の子は作れない事になるから!」
ボケ「確かに構成要素にカウント出来る程に砂糖を含有していたら、それは血糖値が高過ぎる事になるからね。こんな有り様で健康診断に行こう物なら、糖尿病で引っ掛かっちゃうよ。」
ツッコミ「ちょっとちょっと!蘇った死体の貴女が健康診断とか言っちゃうの?脈拍とか心拍数とかで異常値が多発しそうだけど…」
ボケ「だけど後者に関したら私は条件を満たせてるよ。スパイスを香料と言い換えたらの話だけどね。」
ツッコミ「どういう事、それ?」
ボケ「何しろ死臭を誤魔化す為に、丁子の匂い袋を官服の中に忍ばせているからね。」
ツッコミ「わざわざ見せなくて良いから!道理で貴女と会うとアジアンな香りがすると思ったら、そういう事だったの?」
ボケ「デオドラントに気をつけるのは、パブリックシーンでのベーシックなエチケットだよ。」
ツッコミ「困るなぁ、清代の官服を着ているのにそんなカタカナ英語を多用されちゃ…さっきはキョンシーのパブリックイメージ云々って言ってた癖に、自分からぶち壊したら世話ないじゃない!」
ボケ「現代文明の長所は取り入れつつも、アイデンティティの根幹となる文化はキッチリ保持する。これが今日の伝統文化継承の在り方だよ。」
ツッコミ「そりゃ確かに、今はモンゴルの遊牧民やアフリカのマサイ族も普通にスマホやパソコンを使ってるかも知れないけどさ…」
ボケ「私達もキョンシーとしてのアイデンティティは見失わないようにしてるから、その点は安心して貰いたいね。」
ツッコミ「漫才の方向性も見失わないでね。そもそも台湾の実家に一時帰省した話はどうなったのよ?」
ボケ「おっと、いけない!話が随分と脱線しちゃったから巻き戻さないとね。それじゃ変な折り目がつかないよう慎重に…」
ツッコミ「コラコラ、額の御札を巻こうとするのは止めなさい!」
ボケ「良し、巻き戻し完了っと…どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!って、最初の掴みの所まで巻き戻してどうすんのよ!」
ボケ「いっけな〜い、巻き戻し過ぎて頭出ししちゃった!」
ツッコミ「ビデオテープじゃないんだから!って、そもそも私達の世代の記録媒体はビデオテープじゃないでしょ?」
ボケ「そうそう!専ら8ミリフィルムで記録してたんだよね〜。」
ツッコミ「遡り過ぎだよ、戻って来て!」
ボケ「それで久々に実家に戻るので、手土産がいると思ったんだけどさ。これがなかなか大変だったんだよ。」
ツッコミ「今度は話題ごと元に戻しちゃったよ!そりゃこちらとしては軌道修正出来て好都合だけど…それで、何が大変だったの?」
ボケ「日本から持ってくる御土産を何にするかで迷っちゃってね。」
ツッコミ「そりゃ空路だと持ち込める荷物にも限りがある訳だからね。因みに貴女は何を持って行こうと思ったの?」
ボケ「うん、それそれ!」
ツッコミ「う〜ん、『それ、それ』と言われても分からないなぁ…」
ボケ「ああ、それそれ。」
ツッコミ「だから代名詞で言われても困るんだよ、『それ、それ』と言わないで具体的に言ってよ。」
ボケ「あれっ?蒲生さんったら、それそれを知らないの?ほら、栃木県で作られている郷土料理だよ。」
ツッコミ「えっ、本当に『それそれ』って名前だったの?だけど確かに日本ならではの食べ物なら、物珍しさもあって御家族も喜んでくれるだろうね。」
ボケ「私も日本に来るまで食べた事がなかったんだけど、凄く美味しくて気に入っちゃったんだ。」
ツッコミ「おっ、留学で好きになった日本料理!それは良いじゃない!ちなみに、その『それそれ』ってどんな料理なの?」
ボケ「ツキノワグマやニホンジカ、それにカモシカみたいな大型の動物から作るソーセージなんだ。お醤油をつけて食べると美味しいんだよ。」
ツッコミ「成る程、一種のジビエ料理って事だね。もっと詳しく聞かせて。」
ボケ「さっき言ったような大型動物の結腸を30cm位の長さに切って、そこに血液を注いでボイルして作るんだ。要するにブラッドソーセージだね。」
ツッコミ「えっ、血液?そっか、貴女ってキョンシーだからね。やっぱり血液料理が好きなんだ。それで御家族には喜んで貰えたの?」
ボケ「それが税関に問い合わせてみたらNGを食らっちゃったんだ。どうもブラッドソーセージは動物検疫で引っ掛かるみたいでね。」
ツッコミ「ほら、言わんこっちゃない!」
ボケ「知らずに機内へ持ち込んでたら罰金を取られる所だったよ。危なかったね。」
ツッコミ「私としてはキョンシーの貴女が何事もなく飛行機に乗って出入国出来た事の方が驚きだよ。税関とかで何か言われなかった?」
ボケ「そこは日本キョンシー総会の交付してくれた証明書があるから大丈夫。パスポートと一緒に見せたら『良い御旅行を』って笑顔で通してくれたよ。」
ツッコミ「それで何とかなるもんなんだね…そもそも貴女の御両親や妹さんは人間なんでしょ?そんなニッチな郷土料理にしなくても良いんじゃない?」
ボケ「妹にも言われたよ、『こっちだと普通のコンビニでも米血糕を買えるんだから、そんなリスクを犯さなくても良いよ。』ってね。だから抹茶味のチョコウエハースみたいな近畿地方限定のお菓子を色々と見繕ったんだ。」
ツッコミ「そういう無難なチョイスで良いんだよ。御土産で変に奇を衒う必要なんて無いんだから。」
ボケ「だから蒲生さん達に配った台湾土産も、至って無難なチョイスだったでしょ?」
ツッコミ「確かにパイナップルケーキや台湾茶は万人受けするからね。『希望も良いお友達が出来たわね』って、私の実家でも好評だったよ。」
ボケ「御家族にも喜んで貰えて何よりだよ。」
ツッコミ「だけど御線香に関しては割と趣味に走った感じだよね。私の家は仏教徒で仏間には仏壇も置いてあるから良かったけど。」
ボケ「あっ、しまった!あれは島之内の姐さんの分の御土産だったのに、間違えて蒲生さんにあげちゃったよ!」
ツッコミ「えっ、そうだったの?困ったな、あの線香はお祖母さんが墓参りや日々の御勤めで大分使っちゃったし…」
ボケ「仕方ない、姐さんには私の分の御線香を回すしかないか…あの御線香はお気に入りの味なんだけど、暫くは日本産の御線香で遣り繰りしないとね。」
ツッコミ「ちょっと待って!さっき御線香を『お気に入りの味』って言わなかった?」
ボケ「そうだよ、蒲生さん。元々は私の好物なんだけど、元町の御隠居様や島之内の姐さんにも気に入って貰えてね。」
ツッコミ「その二人も確かキョンシーだったよね?もしかして、御線香を御箸にして御飯を食べたりしない?」
ボケ「やだなぁ、蒲生さんったら!昔のキョンシー映画じゃないんだから。」
ツッコミ「その服装で言っちゃう?!キョンシー映画から抜け出して来たような格好だよ、今の貴女って!」
ボケ「常識で考えようよ、蒲生さん。御線香なんか御箸にしても、簡単にポキポキと折れちゃうじゃない。」
ツッコミ「さっきから非常識な発言をしまくってる貴女に、そんな事言われたらおしまいだよ!」
ボケ「そもそも御線香は香りを楽しむ物だからね。御箸という食器に使うなんてショッキングだよ。」
ツッコミ「ダジャレか!ショッキングって言いたかっただけじゃないの?」
ボケ「普通に焚くのも良いけど、燻製に使うのがまた良いんだよね。」
ツッコミ「えっ、燻製!?貴女ったら何言ってんのよ?」
ボケ「これなら嗅覚は勿論だけど、味覚でも御線香を存分に楽しめるよ。」
ツッコミ「何処の世界で御線香を燻製に使うのよ?そんなの貴女達キョンシーのコミュニティだけじゃない!」
ボケ「そんな事はないよ。私が睨んだ所、実家が仏教徒の蒲生さんは絶対に食べてるな。」
ツッコミ「食べてない!御線香の燻製なんか食べてないって!」
ボケ「それじゃあ蒲生さんの家では、朝に御仏壇へお供えしたお菓子はどうしてるの?」
ツッコミ「そりゃ、夕方には下げて食べているけど…」
ボケ「御仏壇には当然だけど御線香をあげているよね?お供えの饅頭やどら焼きを食べる時、独特の匂いを感じなかった?」
ツッコミ「そう言えば、御線香特有の湿っぽい移り香がしたような…はっ!」
ボケ「今は手軽なイエナカ燻製が静かなブームだけど、仏間燻製とは蒲生さんもなかなかやるじゃない。」
ツッコミ「仏間燻製なんて聞いた事もないよ!もういいわ!」
二人「どうも、ありがとうございました〜!」




