水牢
ここは…???
俺は見覚えの無い部屋にいる。
昨日、最高裁判所にて俺の死刑判決が出た。
俺は長年売春の斡旋業をやってた。
街でお気に入りの女を見かけてはこっそりと跡をつけて自宅を特定。
そこに売春で稼げるというビラを撒くのだ。
『偽装したLIИE通知で知り合いにバレるリスク無し!』
『完全会員制で病気のリスクは無し!』
『客は二十歳台でお金持ちの男子大学生が中心!』
『リピーターが多く客と揉め事なし!』
『嬢が客を見てからどのタイミングでも断れる!』
『空いた時間のみで副業可!』
『客はどの時間帯でもいるのでお好きな時間帯だけで!』
『1回1時間~2時間で最低15万~20万円の収入!』
『フリーダイヤルでお気軽にお問い合わせ下さい!』
このような甘い誘い文句で女性を釣り、
サービスの研修の名の元に女性をヤリ捨てる。
女性側から1か月程は数度の連絡が来るが、
「HPには載せてるんですが指名が来ないですね。男性会員は20~30人いるんですが、他の嬢にリピートしていてなかなか1人目が難しい業界なんですよ。」
と言い続けているとその内連絡は来なくなる。女性からすると周りには相談できないことなので、なかなか騙されていることに気づかない。いや、気付きつつも泣き寝入りすることになるのだろう。
そんなことをしばらく繰り返していたのだが、本当に売春をさせた方が儲かるのではないかと考え始めた。しかし本当に嬢達には好待遇を約束できない。待遇を下げ現実的なものにするか、騙すかの二択となる。そこで俺は迷いなく騙す方を取る。
導入は同じで女性を騙して研修でヤる。
その時に質の悪い混ぜものを飲み物に混ぜて意識を混濁させ、脅しの材料の動画を撮りつつヤク漬けにする。
するとどんな不細工な親父や、爺ぃ相手の所にでもヤクのために出張してお金を稼いでくる。
金の方を産む機械となるのだ。
ただし完璧に思えたこのシステムも出口戦略が見えていなかった事で破綻した。
ヤク漬けで痩せた嬢に客が付かなくなったり、妊娠する嬢が出てきた。
裏事情を知るその嬢を放り出す訳にもいかなかったので、闇医者などに臓器として売れないかと打診してみたものの、
「健康的なものじゃないと値がつかないよ。ただでさえ闇での移植のリスクは高いのに。ヤク漬けなんでしょ?臓器ボロボロじゃん。」
と断られた。結局は値がつかないということで自力で処理するしかないかとなる。
首を絞めて殺害し、購入しておいた田舎の山に埋めに行く。今後を見越して安い山と、穴を掘るための小型の建築重機を中古で買っておいた。
そう。
その時点でもう何体も埋める目途が立っていたのだ。
そんなこんなで毎日、飼っていた嬢を犯しつつ、売春に向かわせ、殺して埋めて、新しい女を待機部屋へと回す中で犯罪が発覚した。
被告人を死刑
14人を殺害せしめ…なんて言われたけど、人数なんて憶えていない。“せしめ”なんて言葉も初めて聞いた。そう言われたらそうなのかなと思うだけで、もっともっと多かった気がする。処理が面倒臭かったから多かった気がするだけで意外と少なかったのか?何か所にも分けて埋めたのがただ見つかってないだけなのか?何となく3人~4人越えて捕まったらたぶん死刑だから、そこからは同じと思っていた。むしろ多い方が捜査が長引いて死刑の執行を遅らせられる。
そんなこんなで当然のように死刑を言い渡された俺は拘置所に戻された。
…はずであったが、
ここはどこだ?
懲役刑や禁固刑であれば、判決を受けた時点で拘置所から刑務所に送られる。そこで罪を償うという体だ。なので死刑囚は元居た拘置所に戻されるはずだ。別の拘置所に変えたのか?
その部屋は拘置所の独居房の作りで、室内には衝立つきの洋式トイレや、食事を受け取れる鍵付きの小さいドア、強化ガラスの窓と生活に必要な最低限は備えられている。ただし鉄格子の扉はなく四方が壁。監視は目視ではなく監視カメラとなっているようだ。
しかし従来と異なっている事が2点ある。
1つ目がタオルが置かれている。本来は自殺防止のためにこのようなものは無いはずである。いや、自殺をしようと思えば自ら着ている衣服を用いれば良いので死のうと思えば死ねる。ただし、無いものとされているタオルがあるだけで否応なしに自殺が頭をよぎるのだ。
2つ目は場所の情報である。強化ガラス越しの景色はどうも水中にいるように見える。部屋の明かりが窓の外に漏れ、その明るさだけであるので情報は少ないのだが、魚らしき生き物が横切っている。
ギギィギィ…ギィ……ギギギ…ギィ…
と部屋全体が軋む音が常時聴こえて来る。その軋み方や暗さで相当に水深が深い事も分かる。この部屋は大丈夫なのだろうか。潜水艦には当然乗ったことは無いが、安全性に大きく不安を感じる軋み方。
部屋をよく見るとなんと角から水が染み出している。明らかに欠陥が…。
3日経ってみたものの看守が来ない。誰とも会話ができず質問も出来ない。複数の監視カメラの赤いLEDだけがこちらを見ている。日がな窓の外を見続ける生活。部屋は相変わらず不穏なギィギィという音を立て続けている。この部屋の空気は大丈夫なのだろうか。送風口のようなものは確認できない。カタンと音がした後に開けることができる小さなドアには食事が入っているので、この深い水の中であっても職員は食べ物を運んできてくれるのであろう。そこから空気を補充しているとも思えない。これは酸欠で死ねという事か?それとも水圧に潰される部屋を死刑囚で実験しているのか?もう人権なんか無いと言う事だろう。面倒くさかった弁護士との面会も当然もう無いのか…
俺も好きだったはずの女を凌辱してこんな境遇に追い込んでいたんだな
「法務大臣!やりましたよ!」
「お、やったか?」
「えぇ。3日と少しであいつ自殺しました!」
「おー。成功だな。」
「死刑判決後にだらだらと国民の税金で飯を食わすのは批判の元になりますからね。」
「過去の法務大臣は臆病でいかん。死刑執行を躊躇って20年近くもタダ飯を食わせた死刑確定者もおったからな。」
「この装置は正解でしたね。」
「だろ?国が責任をもって絞首刑を執行したと言えるからな。どうせ詳しい状況にマスコミは興味無いだろう。」
「次も同じ感じで行きますか?」
「いや、次は変えてみようか。上空100mの設定にしてみてはどうだ?部屋が強風に軋む音は深海の設定のギシギシの音でもいけるんじゃないか?」
「ガラス奥に設置したモニターの映像だけ上空に変えればいいだけですかね?」
「渡り鳥とか飛行機を映像に入れたりしてな。」
「遠く高層ビルがぎりぎり下に見えるとか、スカイツリーが見えるとかも面白いかもしれませんね。」
「あぁ。死刑囚たちに色々な設定を試してみて自殺までの期間が短いヤツを調査してみよう。」
「どれが早く死ぬ事になりますかね?溜まってる死刑囚でちゃっちゃと試して、もっと死刑囚出てくればいいですね。」
「ふむ。お!いっそ地獄の映像なんてどうだ?鬼から人が逃げ回ってるヤツ」
「あっはっは。それはいくら馬鹿共でも気づいちゃうでしょ?」
「はははは」