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四蹴 サッカー転生0

「おい、最近入ってきたマナブの妹! めちゃくちゃ強いじゃねえか!」

「まあさすがにマナブには及ばないがな」

「そりゃあそうだろ」

 いやあウザいなあ。学生特有の〇〇の妹とかいうカテゴライズウザいなあ。地元の中学校で、兄と一学年しか離れていないから仕方ないことなんだけど。多分私みたいな妹めちゃくちゃいるんだろうなあ、とシノブは思考する。マナブは入部当初から圧倒的才能でレギュラーを勝ち取り、二年の時点でキャプテンを任されている破格の天才だ。そしてその妹のシノブも凄い才能を持っているのだが、現状だとやはりまだまだ兄には及ばない。

「でも私レギュラーに選ばれてるからねえ。これからなんだよ。さあて、ドリブル練習しようかなあ」

 シノブはドリブラーだ。何故ドリブルに固執しているかというと、サッカーで一番テクニカルで神っぽいのはめちゃくちゃドリブルが上手い人ではないか、とシノブは考えているからだ。いや、めちゃくちゃシュートが強いってのも魅力的だが、何か泥臭くて神っぽくない。やはりドリブルのがクールだろう。時代はドリブルだろう。成神だろう、蜂楽だろう。

「発射ぶーん! シノブちゃん発射ぶーん!」

 シノブちゃんはドリブル練習で発射ぶーんだ。


 で、まあ時は流れ、春。マナブは三年、シノブは二年に繰り上がり、新入部員を迎え入れる準備をしている。

「胃サギです‼ 天才の領域へ……‼」

「42点」

「リンです‼ 二歩遅えよ……‼」

「38点」

「場楼です‼ 悪役にでもなってやる‼」

「54点」

「俺は平京崩‼ 世界一のストライカーになるのは俺だ‼」

「2点」

「うーん、大した子いないなあ。特に平って子は身体弱そうだから教室で独楽でも回していればいいのに。場楼くんがまあ一番ましだったかな」


「おい、平走って二秒で吐いたぞ‼」

「表彰もんのヘタレ野郎だ、お前は‼」

「二度と部活来んじゃねえぞ‼」


「平って奴、シュートしても十回に一回くらいしかボールに当たらないらしいぜ‼」

「さすがに雑魚すぎんだろ……」

「当たっても十回に一回くらいしか前に飛ばないからな‼」

「さすがに雑魚すぎんだろ……」


「うわあ、さすがにあそこまで雑魚だと、頑張ってるとか通り越して気持ち悪いなあ。彼は同じ人間なんだろうか。あ、違うか! 私は神様だもんねえ!」


「あれ? 十秒経ってない? まだ平が吐いてないぞ?」

「てか、ぎりぎり歩きながら走ってるぞ!」

「あいつ何があったんだ……?」


「あれ? 平、結構足にボール当たってない?」

「ああ、しかも前に飛んでいるような気がする」

「まあ飛距離は三メートルってとこか……」


「おい、平が一分以上走ってるぞ‼」

「もう別人じゃねえか‼」

「二秒で吐いてた頃の平を返してくれよ‼」


「平、もうほぼ九分九厘足にボールが当たるように⁉」

「精密機械かよ、三橋かよ」

「しかも、十メートルは飛んでないか……?」


「はあ、はあ」

「頑張ってるようだね、平くん」

「あ、シノブ先輩」

「まあまだまだのび太くんだけどね」

「じゃあシノブ先輩がひみつ道具で俺を世界一のストライカーにして下さいよ」

「え? 君、それって」

「え?」

 シノブはその言葉をプロポーズだと思ってしまった。いや、平としてはシノブの話に合わせてふざけただけだったのだが、シノブとしては「つまりドラえもんみたいに一緒に暮らしてほしいってこと⁉ 平くん如きが⁉ 超生意気~! めちゃくちゃ虐めた~い!」とめちゃくちゃ嗜虐的に平を睨む。しかし、その睨みがその時の平にとっては何か凄く嬉しかった。憧れの先輩に特別視された、ような気分になった。


「平!」

「え? 俺がレギュラー?」

「いや待って下さい! 平くんより笠原先輩の方がずっと強いので、今からでも平くん外して笠原先輩入れた方が賢明です!」

「ああ、まあシノブの言い分も分かるが、平も入部してからずっと頑張ってきたし」

「いや、そんなつくしみたいな理由でレギュラーに入れないで下さい! 顧問はサッカーを知らないんですか⁉ いや、どうステータス見比べても平くんが笠原先輩に勝ってるとこなんて、せいぜいシュート力だけですよ! そのシュートも制球全然駄目で、たまにすっぽ抜けるし! しかも平くんってFWでしょ⁉ 同じラインに平くんみたいな雑魚がいると、私の得点能力が大幅に下がりますよ! つまり絶対に勝てなくなりますよ! いくら私が神様でも!」

 しかし、そこでマナブが口を挟む。

「いや、シノブ。俺もこの件に関しては、平を推す。お前は笠原を推すが、笠原はモブ顔だし主人公力がない。俺が漫画家なら笠原主人公のサッカー漫画は描かない。まだ平の方が主人公力高いと思うぞ。シュートが武器ってのも王道だし」

「いや、お兄ちゃん~! 嫌なんだよ~! 生理的に嫌なんだよ~! キモいんだよ平くん~! 雑魚だしさあ~! キモい奴が頑張ってもキモいだけなんだよ~! 正直死んでほしいんだよ~!」

 いや、まあさすがにシノブは言い過ぎな気がするが、平は少しどきどきしている。恋愛的なときめきを感じている。いや、憧れの先輩に自分をここまでボロクソに言ってもらえるのは、なかなか嬉しいものだろう。全く認めていない訳ではないようだし。


「おい、牛尾中の女子部員が試合中に失禁したらしいぞ!」

「ユーチューブに上げてる奴いたよ!」

「やべえ、量が思いの外尋常じゃねえ……」


「ううううううう、私もうサッカーやめるうううううう。てか、もう学校も行きたくないいいいいいいいい。ずっと家にいたいいいいいいいいいいいい」

「いや、学校は行けよ」

「いやだって、クラスの男子も私を凄い弄ってくるんだよ! 試合中におもらししたおもらしの神様だって! 私本当はサッカーの神様なのにさあ! こんなに可愛いのにさあ! クラスの男子も昨日私で抜いたとかよく意味分からないこと言うしさあ! 私大根じゃないのに!」

 まだこの頃のシノブは性知識が乏しい。

「まあ、みんなお前が好きだから弄ってるんだろうな」

「え? 男子って好きだと弄るの? あ、だからお兄ちゃんも私をよく弄るんだね!」

「ああ、まあ、うん。まあ、そういうことだ」

 マナブが取り敢えず肯定しておくと、シノブは「えへへー、嬉しいー」と大福のように顔を綻ばせる。妖怪ウォッチにこんな顔のキャラいたな。コマさんだっけ?

「えー、じゃあ、みんな私を大好きってこと⁉ じゃあ私やっぱり神様じゃん! 明日一緒に学校行こ!」

「ああ、いいよ。お前は神様なんだから、堂々としてろよ。何かあったら俺が絶対助けるから」

「うん! お兄ちゃん最強だもんね~!」


「嫌だああああああああああああああああああああああああああああ‼ お兄ちゃん引退しないでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼ お兄ちゃんいなくなるならサッカー部なんか辞めるううううううううううううううううううううううううううううううう‼ だって全然楽しくないもん、サッカーなんて正直‼ 漏らしたら笑われちゃうしさあ!」


「嫌だああああああああああああああああああああああああああああああ‼ お兄ちゃん卒業しないでええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼ お兄ちゃんが卒業するなら学校辞めるううううううううううううううううううううううううううううううう‼ だって学校なんて全然楽しくないもん、正直さあ‼ 授業中トイレ行きづらいしさあ!」


「ううううううう、学校も楽しくない、サッカー部も楽しくない。てか、私の居場所がない。何もかも辞めたい。早く高校行きたいよおおおおおおおおおおおおおおおお! 一年長いよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 超絶暗黒期だよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 何か気づいたら友達いないしさあ! 何で? 私神様じゃないの? みんな私の友達になりたいんじゃないの? もうみんなよく分からないしさあ! 正直名前とかも全然覚えられないし!」

「シノブ先輩、大丈夫ですか?」

「え? 平くん……? 平くんは私の友達なの……? 私のこと好きなの……?」

「え? ええと、その、まあ好きです」

 この年頃の男子が意中の女子にストレートに告白するのは非常に勇気がいると思うが、まあこういうところが彼がモテるところなのだろう。世界を救うためなら、バカボンドに全生命力を譲渡するのも大して躊躇せず本当に実行する男だ。

「え? じゃあ、平くんは私の友達なの?」

「え? ああ、はい。友達ですよ」

 平は恐らくこの場ではそう答えるのが人間的に正しいような気がした。いやあ、シノブ先輩本当にもう自殺しそうなんだもんなあ。さすがに悲しすぎるし、勿体なさすぎる。彼女は平にはない凄い才能を沢山持っているのだから。

「えー? じゃあ平くんがキャプテンやってくれる?」

「ええ? いや、さすがに僕じゃ無理ですよ。実力不足にも程がありますって!」

「え? でも平くんは私の友達だし。あ、じゃあ私が副キャプテンやるから!」

「何でキャプテンやりたくないんですか? シノブ先輩ほど相応しい人は」

「いやだって、何か怖いんだもん……それに何か面倒臭そうなんだもん……平くんがキャプテンのが何か安心するし……」

「えー? でも実は俺二年だしなあ……」

「平くん頑張って私のクラスに転入して!」

「いや、多分それはどれだけ頑張っても」

「頑張って! 私のクラス全然面白くないんだよ! だって友達いないし、名前も覚えられないしさあ!」

「いやあ、俺も行きたいのは山々なんですけどねえ。まあ、出来る限り一緒にいますから。シノブ先輩が望むなら……」

「うん! ずっと一緒にいて! だってお兄ちゃんなんて、学校にもういないから家でしか会えないしさあ! 休日もお互いサッカー部あったりしてなかなか会えないしさあ!」

「マナブ先輩、元気ですか?」

「うん! 元気元気! 平くんウチに遊びに来てよ! いつでも来てよ! てかたまに泊まっていいよ! お風呂一緒に入ってあげるよ!」

「ええ、最高じゃあないっすかあ……」

「あ、それデンジでしょ! 第一話の奴でしょ!」

「ええ? 知ってんすか、シノブ先輩! いやあ、シノブ先輩もチェンソーマンとか読むんだなあ!」

「え? 私漫画大体読むよ! ドラゴンボールとかワンピース大好きだし! ナルトとかブリーチ大好きだし! 意外とハガレンとかも読むし!」

「おお、めちゃくちゃ詳しいじゃないですか! 今挙がったの俺全部知ってますよ!」

「ええ? じゃあ平くん、TRIBAL12って知ってる?」

「いや、絶妙に知らなそうなタイトル挙げるのやめて下さい!」

「終末のノスフェラトゥって知ってる?」

「勘ですけど多分どっちも短期打ち切りですよね⁉」


「っていうのが、私と平くんの馴れ初めなんだー♥♥」

「成る程、まさかそんなドラマがあったとは……」

 前回漏らしたことでシノブの友達になった幻野くんは、シノブの無駄に長い過去話を聞き入れ、何とか理解しようとする。しかし、改めて聞いていると、シノブは全く感情がない、という訳でもないようだ。むしろ感情の塊というか。

「いやあ、平くんってやっぱイケメンですよねえ……」

「お? まさか幻野くん、嫉妬かね?」

「いやいや、平くんに殺魔雷電砲伝授したの僕ですから」

 正確には殺魔砲×ライデイン砲=殺魔雷電砲であり、幻野くんはライデイン砲のコツを教えただけなのだが、やけに得意げだ。シノブはむむむ、と何か悔しがっている。

「でも私、平くんにお尻揉まれたことあるもん!」

「いや、今そういう話じゃなかったでしょ! てか、え? どういう経緯で?」

「あ、幻野くんいなかったっけ? ええと、尻利きっていうのやってね」

「えー? めちゃくちゃ楽しそうなことやってたんですねー。うわあ、逃したあ」

「揉んで良いよ?」

「今ですか!」

 シノブはお尻を突き出す。幻野くんは有難くそれを揉ませて頂くと、

「うわ! これが噂の神尻の威力か! 何これ、ミスタードーナツの……」

「え? 私ドーナツ好き!」

「ええ、じゃあ後で買ってきます」

「おいおい、幻野くん、君は私のお尻よりシノブなんかのお尻を選ぶのか?」

「え? じゃあ、貴央先生のお尻も突き出して下さい」

「ええ? しょうがないなあ」

「ああ、これはなかなか。いやあやはり肉量が少ない。スマホみたいに無駄がないですねえ」

「ああ、私自身が大分スマートな生き方してるからな! 賢いもんな私!」

 貴央先生は小さな胸を張る。少し可愛い。

「貴央先生、おもらしございます」

「いや、それ流行らそうとしてるのか? 一発目は面白かったが、二発になるとやはり大分破壊力落ちるな。あと、せめてもらした朝にやらないと」

「成る程。勉強になります」

「ああ、貴央学だからな!」

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