第1章 第1話 戦地へ出向けば
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「ヒルジャイネン軍トルラク支部へ。コードネーム-ナイン、配置につきました。」
「コードネーム-ナインへ。トルラク支部より了解。周囲にパヴィエダ兵は見られない。そのままマリンと進行せよ。」
「了解。」
ふうと少し息を吐くと白く立ち上っていく。
冬が本格的に始まってからどれくらいたったのだろうか。
「まあ、そんなことは私にとって考えるべきことではないな。」
なんたって私は、人の皮をかぶった兵器なのだから。
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お母さんへ
元気にしてるかな。
私は今戦場に向かうために列車に乗りながらこの手紙を書いています。
あと少しで兵役が終わるかというところだったけど、急に隣国のパヴィエダ連邦が攻めてきたことで兵役が伸びちゃったんだ。
でも、心配しないで。必ず帰るから。
その時は、お母さんの料理を食べさせてほしいな。
長々しく書いたら未練がましくなるからこれぐらいにしとくね。
風邪とか病気に気を付けてね。
トイより
ふうと一息ついて私は手紙をきれいに折りたたみ便箋に入れる。
列車が着いたら真っ先に届けてもらうようにお願いしなきゃと思っていると列車内で響いていたラジオが耳に入ってきた。
『続いてのニュースです。ヒルジャイネン全国で凄まじい人気を誇っているアイドルグループ、ヘミテオスのナインとマリンのお2人ですが、本職である軍人としての責務に従事するため明日からのライブツアーが無期限の延期にすることが政府より発表されました。』
そのニュースをよそにそれを聞いた2人の男が話を始めた。
「・・・全くライブツアーの延期と言い、この前まで広場で肉を売っていたのに気づけば戦地にいる。こんな未来想像できたか。アールト。」
「そんなこと。想像も考えもしなかったですよ。ラウッカさん。」
「そりゃそうだな。俺だって同じさ。早くまた居酒屋でやっすい酒でも煽りながら馬鹿騒ぎがしたいねえ。」
「ラウッカさんそれで何軒出禁になったと思ってんすか。」
「いいじゃねえかよ。最近嫁は冷てえしよお。飲まねえとやってらんねえんだよ。」
「だからって、店で暴れだすのはいけないですよ。他に趣味とかないんすか。」
「んなもん。あるわけねえだろ。お相手さんが攻めてくる前から色んなもんが規制されてたんだ。酒ぐれえしかもう残ってねえよ。」
「まあ、・・・そうですけど。」
その2人の会話が周りにも聞こえていたのかあたりに重い空気がたちこみ始めた。
そんな空気を嫌ったのかラウッカと言われた男がまたしゃべりだす。
「ああ、辛気臭い感じ出してんじゃねえよ。ほら、俺らは裏で国境で守ってくれてる兵隊の援助をするだけなんだ。もっと明るくやってこうぜ。」
ラウッカがそう言うが、一度広がった空気はなかなか抜けきりはしない。
私自身もあまりこういう空気は好きではないので、ラウッカに便乗するかのように話し始める。
「まあ、確かに辛気臭い感じは良くないですよ。ほら、何か話題変えませんか。例えば、自己紹介とか。」
「おう、兄ちゃん。良いこと言うじゃねえか。じゃあ、まずは俺から、俺はラウッカ・ラカスタンっていうもんだ。よくフオミオンっていう町で肉を売っている。もしフオミオンに来ることがあったら是非うちの店に寄ってくれ。少しだけだが、まけてやる。」
大柄で無精髭を生やし脂の乗った腹が目立つラウッカだが、不清潔感というよりも人の好さそうな雰囲気の方が勝っており、総合的に好印象な人のように思える。
ラウッカがノリに乗ってくれたおかげで少しだけ場が和む。
それを皮切りに1人、また1人と自己紹介を始める。そして、遂に車両に乗っている私以外全ての人の自己紹介が行われた。
もうそこまで行くと先ほどまでの嫌なムードは消え去り、穏やかな雰囲気に包まれた。
最後は私なのでゆっくりと席を立ちあがってゆっくりと車両にいる人たちを見渡す。
もうそこには不安な表情をしている人は誰1人といなかった。
「私は、コチカ村から来たトイ・ヴァロアです。ここに来るまでは母と一緒に農業を行っていました。できるだけ短い招聘になるよう願いながら、そしてわが祖国ヒルジャイネンの勝利を願って誠心誠意頑張ろうと思います。よろしくお願いします。」
私が自己紹介を終えると車両内で大きな拍手に包まれた。
私としては愛国心にあふれた良いスピーチにしようと思っていたので、上手くできてよかったと思う。
ただ正直愛国心は他の人と比べてないと思う。実際、国のために命を懸けられるとは思えない。
どちらかといえば私は家族のための方がまだ命を懸けられるとは思う。
けど、第1印象は大事だ。これから色々と世話になるかもしれない人たちだ。出来ればいい印象を持たせておきたい。
周りを見ればどの顔も私に好印象を抱いてそうな顔をしている。
(・・・このまま誰1人と欠けずに帰れるといいな)
そう心の中で願いながら私は席に座り便箋を握りしめた。
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それから数分が経過した頃、私たちを乗せた列車が駅のホームへと着いた。
周りを見渡せば一面の銀世界であり、多少着込んではいるもののそれでも寒さに身の毛がよだった。
場所はトルラクというところらしい。なんでも国境の防衛線の要なんだとか。
みんなと一緒にホームから出て行くと、長官らしき人が待っていた。
風貌は軍服を着ており胸には様々な勲章がつけてあるので長官であることはわかるのだが、腹は出ており、軍人にしてはだいぶだらしない体系をしていた。
「全員整列!5列縦隊で並ぶように!」
迫力のある声を皮切りに今まで緩んでいた空気が引き締まる。と、同時に一斉にみんなが整列し始める。
私も他の人達と同様に列に並ぶ。
「今回、君たち第三兵站部の指揮官に任ぜられたタイプリー・ヘンキロ中佐だ。君たちには主に前線への食糧などの支給、武器の整備等をやってもらう。」
はきはきとした声で要件を伝えるヘンキロ中佐につられ、何人かの表情がこわばる。
私も心なしか少し緊張してきた。
空気全体に流れる緊張感を感じ取ったのかヘンキロ中佐が少し満足げな顔をしながら話を続ける。
「それでは、説明は以上だ。細かいことは、後に先任のものが説明するので、きちんと聞いておくように。それでは、移動を開始する。全員ついてきなさい。」
そう言うとヘンキロ中佐は周り右をして歩き始める。
遅れて私たちも歩き始めたとき、ふとまだ便箋を持っていることに気づいた。
移動を開始してしまっているので、すぐに送ることは難しいだろう。
(お母さん、ごめん。手紙を送るのはまだまだ先になってしまいそうだ。)
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歩き始めて数十分が経過した頃だろうか、少しずつではあるが雪が降り始めたころ、開けた土地には防壁ーー防壁とはいっても、急いでいたのか土嚢を積み上げただけの簡易的なものですぐに破られそうだーーに囲まれている大量のテントが張られているのが見え始めた。
きっとあそこが司令部なのだろう。
ヘンキロ中佐を先頭に私たちは防壁の中に入るとそこは地獄だった。
それもそのはずだ。片足がなくなっている兵や顔全体に包帯を巻かれている兵。
中には怪我した一般市民までいた。
軍医らの怒号に近い声や兵、一般市民の痛みなどの苦しみからくるうめき声。
それらが混ざり合い、一種の曲のようにも聞こえる現状はまさに地獄という言葉が似合っていた。
「なんなんだよ。・・・これ。」
誰かが漏らした声はまさに今先ほどついた私たちの心情を表していた。
ヘンキロ中佐も何事か把握してはいないようで彼の顔には驚きの表情が写っていた。
「「ヘンキロ中佐!」」
私たちが呆気にとられていると、突然2人の兵士が大声でヘンキロ中佐を呼びながら走ってきた。
それに気づいたヘンキロ中佐は、兵2人のもとに向かう。
「なんだ!何があった!」
「先ほど、パヴィエダ軍がわが軍の防衛線を突破したとの情報が!」
「な、何だと!すぐに取り戻せ!まだ兵が残っておるだろう!そいつらを使い潰してでもすぐに防衛線を回復させるのだ!」
苛立ちを見せた表情でヘンキロ中佐はまくしたてるように兵士たちに言った。
「し、しかし既に、前線に近い機銃陣地は敵の手に渡ったようです!反攻は難しいかと!」
「今は、残った陣地を守り切ることに専念すべきです!」
しかし、その言葉を聞いたヘンキロ中佐は考えを改めるどころか余計に顔を赤くさせた。
「私の命令が聞けないというのか!良いから早く取り戻すのだ!被害は問わん!さっさとやれ!」
「「・・・は!」」
2人の兵士は戸惑いながら渋々ヘンキロ中佐の案に了解し、各自戦場に伝えるためかテントへと姿を消した。
それを見届けたヘンキロ中佐はこちらを向いた。顔を見ると、まだ興奮しているのか顔は赤いままだった。
「お前たちはここにいろ!いいな!」
そう言うとヘンキロ中佐はこの基地で一番大きいテントに入る。
残された私たちは訳も分からないままではあるが、防衛線が突破されたということを理解しなかったものは誰一人いなかった。
「な、なあこれってもしかしなくてもやばいんじゃ」
「一体どうしたら・・・いっそのこと逃げるか。」
「馬鹿、早まるな。この状態だとここ周辺はどこも安全じゃねえよ。」
困惑、不安、絶望。そんな負の感情が私たちの中で渦巻き始める。
かくいう私もこの状況に対して激しい焦りを覚えていた。
一体どうすれば。少なくとも逃げることは最悪だ。下手したら敵前逃亡とみなされ運が良く生き延びても意味がなくなる。かといって正面から迎え撃つのも無理。いや、もしかしたら何か他に方法が
「おい、お前たち!何をやっている!早くこっちを手伝ってくれ!」
頭の中で思考がぐるぐると回っていると、あらぬところから私、いや正確に言えば私たちにかけられた。
そちらの方に視線を向けると、体中が血と泥でまみれた兵士がいた。
あまりの姿みんなが驚きを隠せないでいるとしびれを切らしたのか相手はもっと大きな声を発した。
「けが人が絶えずこちらに搬送されている!!人手も足りないから、そんなところでぼうっと立ってないで働け!!人の命がかかっているんだぞ!!」
それを聞いた私たちは急いだ表情を浮かべてその兵士についていった。
そこからのことは、あまり覚えてはいないが一人、また一人とけが人が運ばれるごとに地獄はさらに増していった。
目の前で苦しみながら亡くなる人を何度も見るたびに心が摩耗していくのを感じた。
ほんの少しのことが永久であるように感じられ、私はもう死んでいるのではないかと思うほどであった。
「おい、お前!そこにある薬と包帯をとってくれ!」
「は、はい!」
今この瞬間でも体は疲れを訴えているが、この忙しさが許してはくれなかった。
私は、薬と包帯を取るため、近くにあった薬品箱へと手を伸ばした。
その時だった。
「敵襲だあああ!!」
いきなり鐘がガンガンと鳴り始め、それと同時に地響きが鳴り始める。
敵であるパヴィエダ軍がやってきていた。しかも目と鼻の先に、だ。
みんなの反応は様々だった。
すぐに逃げるもの。逃げようとするも怪我をしてまともに動けれていないもの。絶望のあまり足がすくんで動けないもの。
そんな中私は、すぐに逃げるもの、だった。
「は・・っは・・っは・・っは」
必死に足を動かす。しかし、雪が積もっているためかなかなか前へと進むことができない。
それでも生き残るため、私は足を動かし続けた。
「・・・ッは、ぜっ、たい、に・・・ッはぁ、生き、残って、やる・・・ッ!」
雪が次第に強くなっている中、私は元来た道を戻るように逃げた。
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どのくらいの時間が経ったのだろう。あれから雪は強くなり続け、今では前を視認することすら怪しい状態だ。
自分が今どっちに進んでいるのかも分からなくなったのも久しい。
体温は雪によって確実に蝕まれており、体力も底がついておりもはや気力のみで歩いている状態だ。
「・・・あ。」
石でもあったのか、私は前に倒れる。起き上がろうとするも()そのような体力がある筈もなく立つことはできなかった。
「こ、ここまで、なのか。」
そんな中ふと何か自分がものを握りしめていることに気づいた。
そちらの方に目を向けると、一通の便箋が見えた。
(ああ、そういえば出そうと思っていたんだっけ)
そう、思いながらもこの状況ではそのことすらも不可能だと思える。
(ごめんね、お母さん。私生きて帰れなかったよ。)
次第に眠気が訪れ始めると、必死に抵抗するももはやその抵抗も無力に等しいほどあっさりと私は目を閉じた。
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「ここはもうダメみたいね。」
「そりゃ、40万も来ればこうなるよね!・・・えっと。ほら見て雪の下に人がたくさん!」
前が見えなくなるほどの大雪の中、前線基地であった場所で2人の少女が会話をしていた。
2人とも見た目や服装は非常に酷似しており、大雪であるにも関わらず防寒着も着ずに過ごしていた。
強いて言えば髪型が違っており、片方がボブほどの長さに切り降ろされており、もう片方は、腰程まで長く伸びきっていた。
また他にも、ボブカットの子は擦り傷や切り傷などが夥しくあったが、ロングの少女は傷1つもないというまさに対局的な2人だった。
「にしても、ここがダメってなると私たちってどこに行けばいいのかな?」
「さあ、無線がつながらない現状、どうしようもないわね。」
そうボブカットの少女の質問をロングの少女が切り捨てるように答える。
「ええ、さすがにここで待機は嫌だよ!うーん。あ、そうだ!ここら辺て結構洞窟とかあったよね!じゃあそこで雨宿りしようよ!・・・いや、雪宿りかな?」
「そこに関してはどうだっていいじゃない。でも、その案には賛成だわ。マリンの体のこともあるし。」
ロングの少女はそう言いながらボブカットの少女の傷ついた体を見つめる。
その目には、少しのやるせなさと責念が含まれているように感じる。
その視線に気づいたのか、ボブカットの少女は、申し訳なさそうに言葉を紡ぎだす。
「いやあ、心配かけちゃってごめんねナイン。でも、こんな傷くらいなら博士がすぐに直してくれるから!だから、安心してよ!」
それを聞いたロングの少女は、諦めたようにしかし、どこか期待に満ちた表情をして、フフっと笑った。
「それもそうね。なら、急ぎましょ。この感じだと、今日はずっと大雪みたいだから。」
「はーい!」
そうやって会話を終えた2人はまた歩みをはじめ、どこか休憩できる場所を探しに行ったのだった。




