遭難したら記憶喪失になっていましたの。どうやら私はリーセロット姫らしいですわ?
短編15作目になります。私事ですが、なろう様で執筆を初めて毎日連続投稿1年を迎えた記念短編でもあります。いつも読んで下さる方々に感謝です(☆ᴗ͈ˬᴗ͈)
今回のお話は、遭難した王女がヒロインです。どうなるか最後まで見守って頂けると嬉しいです(♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
海に投げ出された。
先ほどまで乗っていた船に波が覆いかぶさり、全てを流していったのだ。
激しく混乱する船の中で頭を激しく打ち付けたらしく、朦朧とする中、必死に木の板にしがみついた。
――気付くと海岸に倒れていた。奇跡的に助かったらしい。だが、全身が冷えていて身体を動かすことができそうにない。
(せっかく助かったというのに、ここまでなのかしら……)
なかば砂に埋もれながら倒れていると、人の気配がした。
「大丈夫か!?」
見慣れない鎧を身につけた兵士たちが見えた。その中でひときわ目立つ金髪で顔の整った男性が抱き起してくれる。
「衰弱がひどい。すぐに手当てをしよう」
そのまま連れて行かれて看病されることになった。
――そして、1週間が過ぎた。
「熱も下がってようやく状況も落ち着いてきたようだ。これを食べて。体力が回復する」
ホワイトシチューの皿が用意されていた。美味しそうである。
「……助けて頂きましてありがとうございました。あの、私のほかに倒れていた者はいなかったのですか?」
まわりに自分のほかに手当てを受けている人が見当たらなかった。
「残念ながら、君のほかには……。尋ねたいことがあるのだが、あなたはもしかしてリーセロット姫だろうか?」
「……え?」
「あなたの身につけていたドレスは最高級の生地であった。装飾品も。もしかしたら、隣国の姫ではないかと……。隣国の王女が我が国に来訪することは聞いていたし、遭難したことも知っている」
船が遭難した日のことを思い出そうとすると、頭がズキリと痛んだ。頭を抑える。
「無理させてしまっただろうか?もう少ししてから尋ねるべきだっただろうか?」
「いえ……遭難した時に頭を打ち付けたようで、記憶が……無いのです」
「なんと……」
痛ましそうな目で見られた。
「ならば、しばらくこちらでゆっくりと静養されては。オレはカルスと言って、フォーシュ王国の領主だ。日課の見回りをしていたらあなたが海岸に倒れていた」
「そうでしたか……。見つけられた私は運が良かったのですね」
胸に手を当ててしみじみと言った。
「あなたは……思ったよりも穏やかな方だな」
「え?」
「失礼かもしれないが、隣国の王女は気位が高いと聞いていた」
「私、そんな気性だったかしら……?記憶がないからなんとも……」
「変なことを言った。気にしないでくれ」
そう言うと、カルスは立ち上がって部屋を出て行った。
それからカルスはちょくちょく様子を見にやって来た。
「今日は、少し城の中を歩いてみないか?」
「ええ。ずっと部屋にいるのはつまらないと思っていました」
カルスに連れられて外を歩くと、そびえ立つ城壁が見えた。
「なんて歴史を感じる城壁でしょう。ずいぶんと高さがあるわ」
「今は平和だが、かつては君の国の襲来もあったからな。今でも訓練はかかさず行っている」
カルスが示した方向には、城壁に縄をかけて昇る者と上から練習用弓矢でそれを狙う者の姿があった。
「今でも危険が及ぶと?」
「君が平和を望むなら危険ではないな」
クラーセン王国では女王制度があるので、リーセロットが女王になると見込まれているようだ。カルスが説明してくれる。
「私を警戒しているのね?」
「まあ。でも、こうして隣国の女王になるであろう君に恩を売っているわけだし、悪い方にいかないと思っているが?それに、君は思ったよりもふてぶてしくない。むしろ、可憐だ」
ニコリとしてカルスが言う。その顔があまりにもステキで思わず見とれた。
「か、からかわないで下さい。……私、少しずつ思い出してきましたのよ。私の城にはこんな凹凸のある石敷きの地面などなかったわ。気を付けないとつまずきそう……!」
恥ずかしかったのもあって、ワザとツンツンして言った。
「そりゃ悪いな。ここは田舎なんでね。女王様でもこういう道にも慣れた方がいい」
ニヤリとして言われる。余裕そうなカルスにくやしくなり、歩を進めようとした。が、途端に石敷きの段差でつまずいた。
「きゃっ!」
「おっと!」
カルスのガッチリした腕が伸びてきて支えられる。
「ほら、言わんこっちゃない」
彼の顔が近づいてきて胸がドキドキした。
「は、離れて」
「はいはい」
カルスはおどけていたが、何だか顔が赤い気がした。
それからもカルスは、たびたび散歩やお茶に誘いに来た。
「こうしてお茶を飲んでいると、よくお城でお茶をしていたことを思い出したわ」
「リーセはお茶が好きなのか?」
カルスは“リーセ”、と呼ぶようになっていた。
「女性ならば皆、お茶が好きではないかしら。キレイな花を眺めながら美味しいお茶とお菓子を頂けるのだもの」
庭でお茶をしていたが、ここは要塞のような城なので庭園というものは無い。
「ここは花がないよな」
ポツリとカルスが言った。
(あ、嫌味に聞こえてしまったかも……)
その日は、気マズイ思いでお茶を終えた。
――翌日、またカルスにお茶を誘われた。
また庭でのお茶に、彼も解放感ある場所でのお茶が好きなのかと思う。
庭に出ようとすると、なぜかカルスに目隠しをされた。
「あの……」
「心配しなくていい。オレが手を引くから」
手を引かれてしばらく歩くと、目隠しを外された。
「あら!」
なんと、花壇ができていてたくさんのキレイな花が咲いていた。
「気に入ったか?」
「.....私のために?これを?」
「女王様のご機嫌をとるために。……いや、君の可憐な顔が笑顔になるのを見たかったからかな」
「どちらが本音ですの?」
おかしな言い方に笑いながら言うと、カルスも微笑んでいる。
「……これ、受け取って欲しいんだ」
小箱を差し出された。
箱を開くと指輪が入っていた。ブルーに輝いてとてもキレイだ。
「とてもキレイ。これはあなたの瞳の色と同じね」
「ああ。つまり……」
カルスは側に来てひざまずいた。そして、手を取られる。
「リーセ、オレは君と過ごすうちにこうしてずっと側にいて欲しいと願うようになった。……だが、君はクラーセンの王女だ。こんな田舎領主のオレなんかが見合わない。でも、これだけは受け取ってほしいんだ」
「カルス…」
カルスの言葉にどう答えようか迷った。薄々、彼の好意を感じていた。そして自分も優しくてカッコイイ彼を…。迷いつつも口を開く。
「……遭難は弟のアレニウスの仕業によるものだと聞きました。帰国してまた命を狙われるくらいならば、いっそ、アレニウスに王位をくれてやろうと思いますわ」
「リース……!」
感激した様子のカルスに抱きしめられた。カルスは嬉しそうにリースの指に指輪をはめたのだった。
――だが、結婚する旨をフォーシュ王国とクラーセン王国に伝えようとして、とんでもない事実が判明していた。
ある日、騎士たちが話しているところを偶然、聞いてしまった。
ホンモノの王女がフォーシュ王国の王子と結婚することになった、と。
本物のリーセロットはフォーシュの王城まで護衛に守られながら到着したのち、美男子と名高いステット王子と恋に落ちたのだそうだ。本物だというリーセロット姫は、王族の証を示して身元を証明したらしい。
(ということは、私はリーセロット姫じゃない!?……ウソでしょう!?)
記憶の中には豪華なドレスに身を包んで踊る自分の姿や、豪華な食事をする自分の姿があった。
(じゃあ、あの記憶は一体なに??)
混乱しつつも、こんな大事なことをどうしてここの人たちは気付かなかったのかと考えたが、カルスの治めるこの地はかなり首都から離れている。真実を知るまでに時間がかかったようだ。
茫然としていると、指輪に目が止まった。
(偽物の私はこんな指輪をもらう資格などないのでは?それよりも、ここに自分がいること自体が許されないことなのでは?)
自分はとんでもないことをしていて、罪を問われるかもしれないと思った。
(カルスは私をリーセロット姫だと思ったからこそ、告白してくれてこの指輪をくれたのだわ。私は今すぐ消えねば……)
すぐに動きやすいワンピースに着替えると、指輪を外してテーブルに置いた。そして、城内を密かに抜け出す。ほぼ、衝動的で計画など無かった。
城を出てどこに行こうと思ったが、カルスの治める土地はとてものどかで、若い女性の姿を見ると皆、親切にしてくれた。
「お嬢さん、どこから来たの?行くところがないならここに泊まっておゆきなさい」
近くの村までたどり着くと、親切なおばあさんが声をかけてくれたのでそのまま泊まることにした。
「へえ、あの遭難した船の生き残りかい?大変だったねえ」
話してはマズイかもしれないとは思いつつも、行くところがないと説明するために、正直におばあさんに話した。
そんなある日、おばあさんが思いがけないことを言った。
「あんたを探している人がいるみたいだよ」
「私を探している人?」
「村の入口に若い女性が訪ねて来ていないかって、騎士さんが訪ねて来てね。うちにいるよと話したら、慌てて騎士さんが戻って行っちゃってねえ」
「……分かったわ。そちらへ行ってみるわ」
なるべく冷静に言うと、ドキドキする胸を手で押さえながら慌てて家を出た。
そのまま、ひそかに家の裏手に回る。
(怒ったカルスが私を捕まえようとしているのかも。私がリーセロット姫の名を語ってしまったから……。私は死にたくはない。逃げるしかないわ)
本当は面と向かって自分がリーセロット姫だと勘違いしていたことを謝りたかった。だけど、許されなかったら殺されてしまうかもしれないと思うと怖かった。騙していたことには変わりない。
柵を乗り越えようとしたところで、スカートが引っかかり手こずる。
「ああ、こんな時に!」
焦ってスカートが破れないように外そうとすると、ザッザッと駆け寄る足音が迫った。
「待て!」
慌てたらスカートが破れた。前につんのめる。
「危ない!」
騎士に腕を掴まれていた。
「あ……」
「こちらを見ろ」
上を向かされた。おそるおそる見ると、騎士姿の男はカルスだった。走って来たせいで息が荒い。カルスの後ろには見たことがある騎士の顔も揃っていた。
(もう、逃げられないわ……)
どうしようもなくて膝をついた。
「も、申し訳ございません。私は……リーセロット姫ではなかったのに、それらしく振る舞ってしまいました。なぜか、記憶の中には確かに姫として過ごした日々があったのです。だから、勘違いをして………」
「立つんだ」
両腕を掴まれ立たされた。彼は厳しい顔をしていた。
「……君はエミリアというんだ」
「え……?」
「君はエミリアといってリーセロット姫の侍女をしていた。そして、リーセロット姫の影武者でもあった」
「影武者?」
言われてもピンとこない言葉に茫然とする。
「船が遭難したのはアレニウス王子のせいなのは間違いない。姉を亡き者にして自分が王になるために。だが、リーセロット姫は無事にフォーシュ王国の城に辿り着き、ステット王子と良い仲になった。彼らが結婚すれば、平和が訪れる。リーセロット姫の功績は大きい」
「そうですか……」
突然、知らされた事実が他人事のように感じる。
「君はリーセロット姫を狙う刺客に襲われたんだ。本物のリーセロット姫は小舟で無事に脱出した」
ボンヤリとしていた記憶が、カルスの話でだんだんと蘇ってきた。
海は荒れていて騒然としている時に刺客が現れたのだ。混乱する船上で自分は姫を守るために、姫の身につけていたドレスに着替えると甲板に飛び出した。姫を守るために死ぬ覚悟をして……。
「………思い出しました。確かに、私はリーセロット姫の影武者でした」
仕事を遂行する時は、自分を姫だと思い込むことでバレないようにしていた。だから、おそらく殴られて頭を強打した時、その思いだけが残り、自分をリーセロット姫だと思い込んでいたのだろう。
「なぜ、逃げた?」
「……本物のリーセロット姫がフォーシュの王子と結婚すると聞いて、私は王女様の名をかたる不届き者だと処罰されるだろうと」
「……実は、数日前にこの情報を得ていた。君は記憶が無かったから、どう話すか考えていた最中だった」
「私を処罰しようとは思わなかったのですか?」
おそるおそる尋ねる。
「さっきも言ったが、本物のリーセロット姫と我が国の王子が結婚するとなれば、平和につながる。君はそんなリーセロット姫の身代わりになり、刺客から姫を守ったんだ。君のしたことは偉業だ」
「はあ、それは良かったです……」
偉業だと言われてもピンとこない。
「でも、オレはショックだった」
「そ、そうですよね……私をリーセロット姫だと思っていたのですから」
うつむいて言う。
「顔を上げてくれ。………オレが言いたいのはそんなことじゃない。オレは、君がオレの元を去ったことがショックだったんだ」
「え?」
「オレは、君が王女だと思って好きになったんじゃない。君だから好きになったんだ。豪華なドレスでも敬語でもなく、花壇で笑った君がいい」
カルスはポケットから指輪を取り出すと、ひざまずきエミリアの指にはめた。置いてきた指輪だった。
「……いいんですか? ただの侍女で、影武者だった私なんかで」
「いいに決まってる。ずっとオレの側にいて笑っていて欲しい」
エミリアは、胸がいっぱいになり、ゆっくりとうなずいた。
――フォーシュ城にいるリーセロット姫にエミリアのことを話して、カルスの妻になることを許してもらうのはなかなか難航した。
だが、ステット王子の鶴の一声で無事に解決されたのだった。
「気が強くて有名なリーセロット姫も、ステット王子にはめっぽう弱いらしい。彼の“許してやれ”のひと言で、あっさり首を縦に振ったんだとさ」
「……ありがたいことです。本来ならば、姫様のことをよく知る私を手元に置いておきたかったでしょうに」
「側にいてもらうのは、オレの方だ。誰にも譲る気はない」
カルスは、ことあるごとにエミリアに気持ちを告げる。その度に幸せな気持ちに包まれた。
影武者の仕事は、意義があると思って続けてきたことだが、一人の男性に一途に愛してもらえるのは比べられないほど幸せな気持ちになるものだと思った。
(ただの“私”として愛されている……)
エミリアは再び指にはめられた指輪を胸いっぱいになりながらいつもまでも見つめたのだった。
最後までお読み頂きましてありがとうございました(◍ ´꒳` ◍)!いかがでしたでしょうか?
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