表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

「雨の年齢を知ってるかい?」


「わからない。何も知らないし、わからないんだ。五十何年も生きてっけどさ」


 いつもの一人問答。


「雨って空から落ちて来るだろ?」


「そうだね」


「山に降った雨水は沢を作って川に流れて海へと注ぐ」


「そうだね」


「つまり高いとこから低いとこへ行くんだ」


「そうだね」


「それから海からまた空に昇って雲になって大気中の塵つぶに纏わりついて落ちて来る」


「そうかも、知れないね」


「いや、違う。僕は雨が空に昇るなんて認めない。断じて。だって雨のやつ、塵つぶに霧散してふわふわ漂いたい僕を固めるだけに事足りず、かたく、かたく、かためられた僕の衣服を伝って僕の長靴は水溜り。ドロドロにとけた湿布薬と、蒸れた僕の足の嫌なにおいが混じり合う。本当の僕のにおい。もしもきみが嗅いだなら、白目剥いて卒倒するか、反射的全力びんた。きみは臭いのが嫌いだから。世界中の雨は全部そこに集まって僕を腐らせるんだ。空になんか行かない」


「それはね、」


「うるさい!黙れ、ペテン師が」


「ああ、それだけど僕は、あの山から立ち上る水煙みたいに、さあさあと空に昇って行きたい。あの景色が、好きなんだ」


「おひさまに、照らされたら良いよ」


「ふうん、そのおひさまって、どんなだい?」


「眩しくて、あったかいんだ」


「それならやっぱり、僕は知らないや。ずっと薄暗く、うすら寒いんだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ