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2.傭兵にもいろいろ手順が必要らしい

 ノエルたちの勧めもあり(ほぼ強制に近かったが)、俺は馬車に乗って城塞都市ヴァンダムにやって来た。


 城塞都市と呼ぶだけあって、街の周囲は巨大な壁に囲まれている。唯一の出入り口はヴァンダム大門と呼ばれる門一つだけである。


「デカイなぁ~~~」

「ソウヤさんは此処を訪れたのは初めてですか?」


 ノエルが心底驚いたような顔をした。

 何故驚くのかは俺には分からないが、それはアリアが説明してくれた。


「城塞都市は傭兵のギルド本部が在るのだ。そもそも傭兵とはギルドからの任命が必要なのだが・・・・・・ソウヤは任命を受けているな?」


 沈黙がその場を支配した。

 何故か俺の背に冷たい汗が吹き出る。

 つーか、傭兵って任命とか必要なのか? ぶっちゃけ、剣とか斧とか――――とにかく武器を持っており、強かったら傭兵だと思っていたぜ。


 二人の視線が何か痛い。



「・・・・・・まさかとは思うが任命を受けてないのか?」


 アリアの視線に殺意と云う名の疑いが在った。

 俺は押し黙る。

 あくまで黙秘を貫き通す。が、それが任命を受けていない事の肯定となる。


「・・・・・・ソウヤさん・・・・・・まさか・・・・・・」

「モグリかッ!?」


 アリアが剣の柄に手を掛けている。


「ストォォォォォォォップ!! ヘイ、アリアさん。此処で俺を斬らないで? なっ?」

「・・・・・・こいつをギルドに連れて行く」


 アリアに首を捕まれ、引きずられる。


 大の男が女性に引きずられて行く光景は傑作だったのだろう。町を歩く人間にクスクス笑われていた。何か、とても悲しかった。


                   ■


 そんな訳で俺は現在、傭兵ギルドのギルドマスターと呼ばれる男ヴォルト=タイラーの前で正座をしていた。


「テメェが任命を受けずに傭兵と名乗ったクソッタレかぁ?」

「・・・・・・そう・・・・・・ですけど?」


 ヴォルトの問いに俺はボソリと答える。

 ちなみにノエルとアリアの二人は、俺の説教が終わるまでギルドカウンターで飲み食いしていると言っていた。


「ハッキリしねぇ青二才だ。ったく、傭兵ってのはなギルドマスターの任命が必要なわけだ。任命を受けてなく武器を持って旅する奴らは傭兵ではなく冒険者だ。即ち、テメェは傭兵ではなく冒険者になる。これは理解できるかぁ?」


 俺は頷く。

 と、ヴォルトは「分かれば良い」と云って表情を緩める。

 先ほどまでは怒りの形相――――鬼だったが、表情を緩めると強面のオッサンだ。


「さて、テメェの剣は何処の物だ? 此処らじゃ、全く見ねぇ形をしているが?」

「あ? ああ、コレか?」


 そう言って俺は剣をヴォルトに手渡す。

 ヴォルトはそれを受取ると鞘から剣を引き抜く。


 銀の刃、漆黒の柄、見ていると魂が吸われてしまいそうな感覚に陥ってしまう。


「片刃の剣か? 細い割には丈夫そうだな」

「そうか? つーか、それは剣じゃなくて、刀だな」


 俺はヴォルトの間違いを指摘する。


「剣は叩き斬る、刀は斬り裂く・・・・・・剣は両刃で、刀は片刃・・・・・・それが違いだ」

「成る程な・・・・・・しかし、この世界では刀といっても此処までは丈夫じゃないぞ?」

「そりゃぁ、そうだ。この刀は武士の心。和の象徴。丁寧に慎重に刀匠が三日三晩寝ずに打ち上げた業物だからな」


 ちなみにそれは日本刀だ。と、最後に俺はそう付け加える。


 日本刀と云う聞きなれない武器に首を傾げるヴォルト。俺は刀を返してもらうと腰に差す。


「・・・・・・まぁ、今回の事は多めに見てやるとしよう」


 ヴォルトがそう口を開いた。


「ついでに、良い業物を見せてもらった礼に傭兵に任命してやろう」


 こうして、俺は本当の意味で傭兵になった。


                    ■


 ソウヤさんがギルドマスターとお話をしている間、私はアリアと共に食事をしていた。


「まさかモグリだったとは・・・・・・」

「まぁ、まぁ、ソウヤさんも悪気があった訳じゃないのですし、ね?」


 そんな会話をする。

 ちなみに私が食べているものはノーグと呼ばれる家畜のステーキである。アリアはソルフィッシュと呼ばれる魚を食べている。

 ノーグの肉は脂身が少なくさっぱりしている。


「美味しいですね。家だとコムルとファクの肉しか食べたなかったからですかね?」


 ノーグは安価で庶民の食料として見られている。

 故に貴族であるノエルはノーグの肉を食べるのは初めてだったりするのだ。


「ソルフィッシュを久々に食べたが相変わらず美味いな」


 アリアはそう云いながら美味しそうに食べる。


 ソルフィッシュは一年を通して漁獲される魚であり、程よい脂の乗りと淡白な身が女性に人気なのだ。

 

 と、ギルドマスターの部屋から見知った顔の青年が出て来た。その後ろには無精髭を生やした隻眼の男も居た。


「あ、ソウヤさんです」

「ムッ? フム、マスター・ヴォルトも一緒のようだな」


 男二人は私たちの姿を見つけるとゆっくりと此方にやって来た。


「説教は終わったぞ。ちなみにコイツは本日から正真正銘の傭兵だ」


 そう言ってヴォルトはバンとソウヤの背を叩いた。


 それに思いっきり咽るソウヤ。


「ゲホォォォ・・・・・・はぁ、アリアは元傭兵なのか?」


 ソウヤは唐突に聞いた。


「どうしてだ?」

「いや、俺をマスター・ヴォルトに差し出す時、妙に久しそうな顔をしていただろう?」


 首を捕まれヴォルトに差し出された時にソウヤはそう見えたそうだ。


「なるほど・・・・・・な。確かに私は元傭兵だ。マスター・ヴォルトは私の師匠でもある」

「そうなんですか?」

「ノエル様にはお話してませんでしたからね」


 と、アリアは楽しそうに云う。


「・・・・・・なぁ? 何でノエルの時と俺の時で言葉使いが違うんだ?」

「主と馬鹿の違いだ」

「酷いッ!?」


 何とも子供らしい遣り取りに私はひっそりと笑みを浮かべた。


 と、その時爆音が響く。

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