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遠い声Ⅲ  作者: てんの翔
18/20

VOICE.6 三年後の未来③

       5


「え? どういう意味ですか?」

 馬込は混乱しているようだ。いや、その反応のほうが正常だ。

「そのままの意味ですよ」

 また悲鳴があがったのは、そのときだった。

「なんですか!?」

「また死んだのでしょう」

 東郷兼良は、恐ろしいことを、さも冷静に語っている。

「どういうことですか?」

 世良にも、その冷静さが伝染していた。

「この家のなかで、次々に人が死んでいくということですか?」

 返事はない……あきらめかけたタイミングで、兼良は答えた。

「そういうことかもしれません」

「あなたは、犯人を知っているんですか?」

 そう訊かずにはいられなかった。

「……」

 これについては結局、答えはなかった。

 嵯峨にかかってきた電話……。

 殺し屋をさがしていたのは、どうやら本当に兼良だったらしい。

「殺害されるのは、だれなんですか? あと何人ですか?」

「……わかりません」

 とぼけているわけではないようだ。

「あとで説明してもらいますよ!?」

 世良は、そう念を押して、悲鳴のあがった場所へ急いだ。廊下へ出て、さらに奥へ進んだ。峰岸から指示はないから、なにもない通路が続いているはずだ。

「扉があります」

 自分で開けた。

 人の気配はない。

「……たぶん、死んでます」

 後ろから覗き込んだであろう峰岸が、そう告げた。

 ほかにだれもいなかったということは、悲鳴は、ここで死亡している人物が放ったものということになる。

「女性?」

「そうです」

 悲鳴は女性のものだった。

「どうしますか? かなりマズい状況ですよね?」

 世良は、うなずいた。

「犯人を特定しなければ、このまま殺人が続いてしまうんじゃないですか?」

 馬込の荒い息づかいが聞こえた。

「ど、どうなっちゃうんですか!? はやく、警察を呼ばないと!」

 自らが捜査をするという考えはないようだ。だが世良が現役だったとしても、応援を呼ぶ。いや、応援というよりも、公安ではない警察に連絡をとる。

「窓は?」

「そういえば……見当たりませんね」

 しかし、どこにも窓のない建築物はないだろう。

「あ、でも二階の部屋なら……さがしてみましょうか?」

 世良は、峰岸にうなずいた。

「お、お待ちください……」

 執事の声だった。

「二階になら窓はありますが……高いところから飛び降りることになります。お客様にそんなことはさせられません」

「出てもらいたくないんですよね? 橋が落ちたというのは、嘘ですよね?」

「……」

 どんな表情になっているのか想像できた。

「東郷兼良さんの目的はなんですか? このイベントは、なんのために?」

「……わたくしは、仕えるだけですから」

 積極的ではないようだが、この執事も『企画側』の人間だということだ。

「話を整理しましょうか」

 世良は言った。

「みんなを安全な場所に集めてください。それぐらい、いいですよね?」

「……わかりました」

 すぐに、最初に案内された部屋に生きている参加者が集められた。残り十一人、それに世良たち三人。執事と兼良もいるはずだ。

「なんなんだ……なにがおこってるんだ?」

 たまらずに、といった声音が飛び交った。

「なんで出られないんだ!?」

「警察は、呼ばないのか?」

 兼良も、執事も、それらに答えるつもりはないようだ。

「東郷さん、あなたは殺し屋をさがしていましたね?」

 世良の発言は、ほかの参加者にとっては唐突に聞こえたようだ。静まりかえった。

「……どうして、それを知っているのですか?」

「あなたが電話をかけたことは知っています」

 沈黙が数秒。

「とにかくあなたは、殺人を請け負ってくれる人間をさがしていたんでしょう。そのうちの一つは、ただの噂です。いや、ほとんどがニセモノです。ですが、あなたは本物をさがしあててしまった……ちがいますか?」

「まさか、王海さん……これって、その殺し屋の仕業ですか?」

 それを兼良に問いただしているのだ。

「どうなんですか、東郷さん」

「そのとおりです」

 その返事には、なんのためらいもなかった。こうまであっさり認めるとは、世良にも想定外だ。

「お、おい……なんなんだよ!」

「われわれが集められたのは、どうやら標的にされるためだったらしい」

 声をあげた人物──いや、この場にいる参加者全員に向けて、世良は発言した。

「標的って……」

 馬込の唾を飲みこむ音が聞こえた。

「東郷さん、これは無差別の殺戮ですか?」

「ちがいます」

「では殺し屋には、なんと依頼したんですか?」

「殺してほしいと……父を殺害した犯人を」

「犯人?」

 作家の東郷道雄の死因を、世良は知らない。

「殺害されたのですか?」

「ええ、そうです」

 兼良は、きっぱりと答えた。

「病死だった……と思うんですけど」

 馬込が言った。そして、参加者の何人かも、そうだ、とつぶやいている。

「説明してください」

「父は、殺されたんですよ」

「だれに?」

「……それは、わかりません」

「わからないのに、殺し屋を雇ったんですか?」

「父を殺した人間なら、必ず宝をさがそうとするはずですから」

 そういう答え方をしていた。

「宝の話は、本当なんですか?」

「はい。そのために父は殺されたんです」

 そこのところが、よくわからない。

「それは、なんなのですか?」

「その正体を知らないことも、本当です」

 怒りの声が響いた。

「おい、じゃあ……あんたの復讐のために、おれたちは集められたっていうのか!?」

「ええ、そうです」

 兼良は、あくまでも冷静に怒りをうけとめていた。いや、受け流したというほうが正解か。

「ふざけんなよ!」

「おまちください」

 執事があいだに入ったようだ。

「旦那様を殺害されていなくても、今回のことを邪魔しようとする方も狙われてしまいます……」

 旦那様というのは、兼良のことではなく、東郷道雄のことを指しているようだ。

「だからあなたは、従っているんですか?」

 世良は、執事に問いかけた。

 返事はなかったが、うなずいたのだろうと予想した。

「そういうことですから、みなさんにはこのまま宝さがしを続けていただきます」

「続ける?」

 この状況で、だれも動こうとはしないだろう。だが、やらなければ殺し屋に狙われるというのだろうか……。

「うちの近藤が言いましたよ。今回のことを邪魔した人間も──と」

 執事の名前は、近藤というらしい。

「ですが、さがしだしても殺されるのでしょう?」

 世良は、指摘した。

「勘違いなさらないでください。あくまでも殺すのは、父を殺害した犯人だけです。宝を自力でさがしあてたのなら、それについては発見した人のものですよ。賞金の三億も、さしあげます」

 意味がわからない。どうやって、それを見分けるというのだ。

「そうですか……説明が不足していましたね。父を殺した人物たちは、宝のヒントを父から耳にしているんですよ」

「ヒント?」

「くわしい内容は、私でもわかりません。ですが、確実にヒントを聞いています」

「では、簡単にみつけられるのではないですか?」

「不完全なヒントしか耳にしていないはずです。父は死の間際に、そう言い残しました」

 どうやら即死ではなく、息絶えるまでに時間があったようだ。

「ですが、その内容までは言わなかった」

「あなたは、どうやって判断しているんですか?」

 もっといえば、雇った殺し屋は、どうやって見分けているのだ?

「目的をもってさがしているかどうかですよ」

「そんな曖昧な基準なんですか?」

「そうです」

「まちがえることもあるんじゃないですか?」

「そこは関知していない」

 あまりにもひどい言動だ。

「お、おい! なんだそりゃ!? まちがって殺されるかもしれねえのか!?」

 そう声をあげた男性の気持ちも理解できる。

「犯人は、だれなんだよ!?」

 激昂していた。

「私にもわかりません」

 兼良は、またしても意味不明の反応をみせた。

「面識はないということですか?」

「そうです」

「依頼は、電話で?」

「それは言えません。私が狙われてしまう」

 電話なのか、メールなのか、とにかく直接会ってはいないのだ。嵯峨に電話をかけたところからも、同じようにして本物の殺し屋を引き当てたということなのだ。

「王海さん……確認したほうがいいんじゃないですか?」

 峰岸の言う意味を、すぐには理解できなかった。

「《U》ってことはないですか?」

 兼良が依頼したのがヤツだったとしたら、犯行をとめるのは困難になる。

「いや、それはない……」

 峰岸に伝えた。

「念のため、ぼくが確かめますね」

 どうやって確かめるというのだろう。もし兼良が《U》と名乗る人物をさがしあてたとしても、それを本物だと判断することはできないはずだ。

 会ってもいない。会っていたとしても、ヤツの顔は知られていないし、声だって世良でなければ聞き分けられない。名前も、あくまで他人が《U》と呼んでいるだけだ。

「あの、東郷先生を殺害した犯人は、悪人だと思いますか?」

「え?」

「悪人ですか?」

「……なんのことなのかわからないが、悪人でしょうね、私の父を殺したんですから」

 たぶんそれは、峰岸の求めている答えではない。

「いや、もっと、こいつは悪いヤツだ、みたいなものはないですか?」

「さあ……、だって私は、その人たちを知らないんですから」

 だそうです、と峰岸は小声で囁いた。すくなくとも《U》が、すすんで仕事をするようなシチュエーションではないはずだ。

「人たち、っていうのが気になります」

 世良は、話を進行させた。

「犯人は、一人ではないとうことですよね?」

 すでに二人殺害されているから、すくなくとも東郷道雄を殺した犯人は、三人以上ということになる。

「はい。人数も、性別も、年齢もわかっていません」

 当然、雇われた殺し屋も知らないはずだ。

 だが、その殺し屋にしろ、兼良にしろ、複数だと考えているのだ。

「あと、もう一つ大事なことをお聞きします」

「なんですか?」

「本当に、いま殺害された二人は、東郷道雄氏を殺した犯人なのですか?」

「……」

 即答はされなかった。

 すべての判断を、殺し屋にゆだねている。

 殺し屋が、そうだと思えば、その人物を殺していく。それがまちがっていたとしても、死んだ人はもどってこない。殺し屋にとって、そんなことはどうでもいいのだ。

 やはり《U》ではない。

「そ、そんな……無関係なのに殺されるって……」

 嘆き声が、遠雷のように響きわたった。

「王海さん……まずは、殺し屋を特定するべきですね」

「ああ」

 その会話が耳に届いたのか、兼良が忠告した。

「そんなことをしたら、あなたが殺されますよ」

「その心配はありません」

 世良は言い返した。

「どうしてですか? 私は、邪魔をする者も殺してくださいと頼んであります。そして依頼が完遂するまで、内容の変更はありえないとも伝えています。たとえ依頼主の私でも、そのかぎりではない」

 相当の覚悟をもっているということなのだ。

「なにがおかしいんですか?」

 どうやら、意識せずに笑っていたようだ。

「王海さんは、そういうの怖がりませんから」

 かわりに、峰岸が答えていた。

「このなかに殺し屋がいるのかどうかわかりませんが──」

 世良は、声量を一段階あげた。

「私たち三人は、これからおこるかもしれない殺人を阻止します」

 三人というのは、世良自身のほかに、峰岸と馬込をふくめたものだ。

「もし報復するのでしたら、私だけを狙ってください」

 もちろん、返事はない。が、そこの部分は殺し屋を信じるしかない。警察官である馬込はべつとして、峰岸に危害をくわえられることだけは避けたかった。

「そうですか……まあ、それはあなたの勝手です。それであなたが殺されたとしても、私は責任を負いませんよ」

 兼良は言った。が、そもそもこんなイベントを開催した段階で、無責任の極みなのだ。みな、おまえが言うな、と思ったはずだ。

「では、勝手にやらせてもらいます」

「ええ。ほかのみなさんは、ぜひ宝をさがしあててください!」

 仰々しく、そう続けた。

「ふ、ふざけるな! さがしたら殺されるんだろ!?」

 抗議の声があがる。

「いえ、そんなことはありません。みなさんが犯人でないのなら、殺されることはないのですから」

「そいつにまちがわれても、殺されるんだろ!?」

「そこは、神にでも祈っててください」

「イヤー!」

 女性の参加者が泣き崩れたようだ。

「さあ、みなさん、再開してください!」

 当初とちがい、脅迫による強制参加ということになった。

 ゆっくりと、みなが動きはじめた。すすり泣いていた女性も、立ち上がったようだ。

「で、王海さん……犯人は──この場合の犯人は、今日の犯行のことですけど、目星はついてるんですか?」

「いや、まったく」

「王海さんにも、不審なところを感じさせないなんて……本当に、あの男なんじゃないですか?」

「それはない」

 悪人うんぬんもそうだが、もし《U》がこの場にいたとして、世良の存在を知っていたとしたら、必ず挑発してくるはずだからだ。

 言葉にはしなかったが、峰岸にも真意は伝わったようだ。

「でも、王海さんに仕事を邪魔されたくないから、あえて無視しているかもしれませんよ」

「いや、それは──」

 世良は、言葉を途中でのみこんだ。

 ヤツなら、そんな卑怯な真似はしない。だがそれを口にしたら、また似た者同士だとか、わかりあっているとか言われそうだからやめたのだ。

「ここに入ってから、なにか不審な物音は聞いていませんか?」

「とくにない……」

 ただし、世良は全能の神ではない。聞き逃すこともあるし、気づかないこともある。

「死因を明確にしたほうがいいと思うんですけど……」

 馬込が遠慮がちに発言した。これまでの流れについてこれなかったようだ。

 世良は、馬込の意見に同意した。

 一人目の被害者のもとへ移動した。

「頭から血を流してますけど……凶器はなんですかね? 刃物とか、鋭利なものではないと思うんですけど……」

 事件捜査の経験がない馬込には、現場検証は荷が重いようだ。

「鈍器のようなものは、どこにもありません……」

 二人目の現場──。

「こっちも、同じですね……」

 なにかで頭部を殴られているようだ。

「凶器は、なんですかね? 犯人がいまでも持ってるんでしょうか?」

「これからも同じ殺害方法をとるのなら、そうだろうね」

 世良は、峰岸に答えた。

「じゃあ、それらしい凶器を持っている人が、殺し屋のはずです」

 ただし、あからさまに所持してはいないだろう。

「隠し持っているのを、どうつきとめるかですね」

「身体検査しますか?」

 馬込の提案には、穴があった。

「おとなしく従うわけがない。もしくは、従うふりをして、こっちを殺しにくるだろう」

「でも、こちらには警察官が二人もいるんです」

 馬込にとっては、世良も現役に数えているらしい。

「あの、馬込さん……一応、確認しておきますけど──王海さんの眼のことは、知ってるんですよね?」

 そういえば、そのことの確認はしたことがなかった。公安に所属しているのなら知っているだろうと、浅く考えただけだ。

「普通じゃないってことは知ってます。なんでも見通してしまうって」

 どっちともとれる言葉が返ってきた。

 部屋の外の足音をとらえたのは、そのときだった。忍んでいるような歩き方だ。

 世良は口に人差し指をあてて、二人を静かにさせた。

 扉は開けたままになっているはずので、すぐ前に立っていれば二人の眼に映っているはずだ。

「だれですか?」

 世良は、声をかけた。

 扉のわきに隠れているようだ。

 峰岸と馬込に、さがるように手でを合図をおくった。

 入り口に近づく。

 おそらく、右手側にいると思われる。

 所持しているのは打撃武器のはずなので、部屋を出た瞬間に殴りかかってくるはずだ。

 ただし、どのような形状かわからないし、極端に長かったら、対処が難しい。もしくは、飛び道具を持っていたとしたら、どうすることもできない。

 そこは、賭けだ。

 耳に全神経を集中させた。

 室外へ一歩踏み込んだ。

 ゴオ、と風を揺らす音がした。

 鋭利ではなく、重いものが頭上を通過した。

 事前に察知していた世良は、頭を沈めていたのだ。

 鈍器を所持していると考えたのは、正解だった。だが、なにかがおかしい。

 逃げていく足音がした。

 体重から、男性だということはわかる。そして、凶器は右腕に持っていた。普通に推理すれば、右利きということになる。

「王海さん!」

 世良は、襲撃者が逃げた方向を指さした。

「だれもいません」

「追いかけよう」

「危険じゃないですか?」

「武器は確認した」

 世良は、そういう答え方をした。

「誘導してくれ」

 あくまでも、先頭には世良がつく。

 前進した。後ろから二人がついてくる。

 最初に案内されたホールに入った。

「あっちは?」

「細い通路になってます」

 そこへ向かった。

「突き当りに部屋があります」

 手をのばしたら、扉に触れた。

 耳に集中して、扉を開けた。

 数人の気配がする。

 なかに踏み込んでも、襲いかかってくるようなことはなかった。

 世良の後ろから、峰岸がなかを覗き込んだようだ。

「五人いる?」

「そうですね……五人います」

 みんなの動きが止まっていた。突然、部屋に入ってきた世良のことを凝視しているようだ。

「この部屋に最後に入ってきたのは、だれですか?」

 世良は訊いた。

 声としての反応はない。

「みんな、一人の男性を見ています」

 峰岸が説明してくれた。

「な、なんですか?」

「すみませんが、歩いてもらえませんか?」

「は?」

「あなたの足音を確かめさせてください」

「足音? なんのためにですか?」

 男性の声は落ち着いている。特徴のある声ではない。無味無臭という表現が声音には適していないとわかっていても、その言葉が脳内を埋めていた。

「さきほど、おれは襲われました。その人間の足音を記憶しています。ですから、確かめさせてください」

「なぜ、ぼくが疑われているんですか?」

「いまさっき、この部屋に入ったはずですから」

「そ、そうですけど……」

 憤慨している様子が、見えなくてもわかる。

 はたしてそれは、演技なのだろうか?

 声音だけでは見抜け──聞き抜けない。

「でもぼくは、なにもしてません……」

「王海さん、そんなふうには見えません」

 峰岸が耳元で囁いた。が、彼にも演技である可能性があるのはわかっている。あくまでも、見たままの感想を口にしたにすぎない。

「凶器を持っていませんか?」

「そんなものありません……」

 衣擦れの音がした。両手をあげてアピールしたのかもしれない。

「なさそうです」

 峰岸の助言のあと、馬込と思われる足音が進んでいく。

「調べさせてもらっていいですか?」

「どうぞ」

 馬込が、ボディチェックをするようだ。

 三十秒ほどが経った。

「……なにも凶器らしいものはないです」

 調べられているあいだ、男性の呼吸に乱れはなかった。

 だが、そこがむしろ引っかかる。

「もういいでしょう?」

「疑ってすみませんでした……」

 馬込が謝罪をした。

 世良は、あえてなにも言わなかった。

「いえ、いいんです。ぼくたちも、早く犯人をみつけてもらいたいので」

 その男性は、部屋を出ていった。

「王海さんが、まちがえることないですよね?」

 そうまで信頼されると、さすがに困る。

「いまの人ですよね、たぶん」

「……」

「でも、凶器を持ってなかったですよ」

 馬込が指摘した。

「どこかに隠したんですよ。それをさがしましょう」

 峰岸は前向きな発言をした。

「いや……それよりも、いまの男があやしいなら、ずっとマークしてたほうがいいと思います」

 馬込の意見も一理ある。

「でも、凶器がなければ犯行はおこなわれないですよ」

 世良は、二人がいるであろう空間へ交互に顔を向けた。

 凶器がなくても人を殺せる技術があるのならば、馬込の意見をとるべきだ。だが、やつ──《U》のような凄腕が、ほかにいるとも思えない。

「凶器をさが──」

 新たなる悲鳴で、世良の言葉はさえぎられた。

 まちがいなく、例の男性が進んだ方向から聞こえていた。

 世良は、悲鳴の発生源へ急いだ。


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