VOICE.6 三年後の未来③
5
「え? どういう意味ですか?」
馬込は混乱しているようだ。いや、その反応のほうが正常だ。
「そのままの意味ですよ」
また悲鳴があがったのは、そのときだった。
「なんですか!?」
「また死んだのでしょう」
東郷兼良は、恐ろしいことを、さも冷静に語っている。
「どういうことですか?」
世良にも、その冷静さが伝染していた。
「この家のなかで、次々に人が死んでいくということですか?」
返事はない……あきらめかけたタイミングで、兼良は答えた。
「そういうことかもしれません」
「あなたは、犯人を知っているんですか?」
そう訊かずにはいられなかった。
「……」
これについては結局、答えはなかった。
嵯峨にかかってきた電話……。
殺し屋をさがしていたのは、どうやら本当に兼良だったらしい。
「殺害されるのは、だれなんですか? あと何人ですか?」
「……わかりません」
とぼけているわけではないようだ。
「あとで説明してもらいますよ!?」
世良は、そう念を押して、悲鳴のあがった場所へ急いだ。廊下へ出て、さらに奥へ進んだ。峰岸から指示はないから、なにもない通路が続いているはずだ。
「扉があります」
自分で開けた。
人の気配はない。
「……たぶん、死んでます」
後ろから覗き込んだであろう峰岸が、そう告げた。
ほかにだれもいなかったということは、悲鳴は、ここで死亡している人物が放ったものということになる。
「女性?」
「そうです」
悲鳴は女性のものだった。
「どうしますか? かなりマズい状況ですよね?」
世良は、うなずいた。
「犯人を特定しなければ、このまま殺人が続いてしまうんじゃないですか?」
馬込の荒い息づかいが聞こえた。
「ど、どうなっちゃうんですか!? はやく、警察を呼ばないと!」
自らが捜査をするという考えはないようだ。だが世良が現役だったとしても、応援を呼ぶ。いや、応援というよりも、公安ではない警察に連絡をとる。
「窓は?」
「そういえば……見当たりませんね」
しかし、どこにも窓のない建築物はないだろう。
「あ、でも二階の部屋なら……さがしてみましょうか?」
世良は、峰岸にうなずいた。
「お、お待ちください……」
執事の声だった。
「二階になら窓はありますが……高いところから飛び降りることになります。お客様にそんなことはさせられません」
「出てもらいたくないんですよね? 橋が落ちたというのは、嘘ですよね?」
「……」
どんな表情になっているのか想像できた。
「東郷兼良さんの目的はなんですか? このイベントは、なんのために?」
「……わたくしは、仕えるだけですから」
積極的ではないようだが、この執事も『企画側』の人間だということだ。
「話を整理しましょうか」
世良は言った。
「みんなを安全な場所に集めてください。それぐらい、いいですよね?」
「……わかりました」
すぐに、最初に案内された部屋に生きている参加者が集められた。残り十一人、それに世良たち三人。執事と兼良もいるはずだ。
「なんなんだ……なにがおこってるんだ?」
たまらずに、といった声音が飛び交った。
「なんで出られないんだ!?」
「警察は、呼ばないのか?」
兼良も、執事も、それらに答えるつもりはないようだ。
「東郷さん、あなたは殺し屋をさがしていましたね?」
世良の発言は、ほかの参加者にとっては唐突に聞こえたようだ。静まりかえった。
「……どうして、それを知っているのですか?」
「あなたが電話をかけたことは知っています」
沈黙が数秒。
「とにかくあなたは、殺人を請け負ってくれる人間をさがしていたんでしょう。そのうちの一つは、ただの噂です。いや、ほとんどがニセモノです。ですが、あなたは本物をさがしあててしまった……ちがいますか?」
「まさか、王海さん……これって、その殺し屋の仕業ですか?」
それを兼良に問いただしているのだ。
「どうなんですか、東郷さん」
「そのとおりです」
その返事には、なんのためらいもなかった。こうまであっさり認めるとは、世良にも想定外だ。
「お、おい……なんなんだよ!」
「われわれが集められたのは、どうやら標的にされるためだったらしい」
声をあげた人物──いや、この場にいる参加者全員に向けて、世良は発言した。
「標的って……」
馬込の唾を飲みこむ音が聞こえた。
「東郷さん、これは無差別の殺戮ですか?」
「ちがいます」
「では殺し屋には、なんと依頼したんですか?」
「殺してほしいと……父を殺害した犯人を」
「犯人?」
作家の東郷道雄の死因を、世良は知らない。
「殺害されたのですか?」
「ええ、そうです」
兼良は、きっぱりと答えた。
「病死だった……と思うんですけど」
馬込が言った。そして、参加者の何人かも、そうだ、とつぶやいている。
「説明してください」
「父は、殺されたんですよ」
「だれに?」
「……それは、わかりません」
「わからないのに、殺し屋を雇ったんですか?」
「父を殺した人間なら、必ず宝をさがそうとするはずですから」
そういう答え方をしていた。
「宝の話は、本当なんですか?」
「はい。そのために父は殺されたんです」
そこのところが、よくわからない。
「それは、なんなのですか?」
「その正体を知らないことも、本当です」
怒りの声が響いた。
「おい、じゃあ……あんたの復讐のために、おれたちは集められたっていうのか!?」
「ええ、そうです」
兼良は、あくまでも冷静に怒りをうけとめていた。いや、受け流したというほうが正解か。
「ふざけんなよ!」
「おまちください」
執事があいだに入ったようだ。
「旦那様を殺害されていなくても、今回のことを邪魔しようとする方も狙われてしまいます……」
旦那様というのは、兼良のことではなく、東郷道雄のことを指しているようだ。
「だからあなたは、従っているんですか?」
世良は、執事に問いかけた。
返事はなかったが、うなずいたのだろうと予想した。
「そういうことですから、みなさんにはこのまま宝さがしを続けていただきます」
「続ける?」
この状況で、だれも動こうとはしないだろう。だが、やらなければ殺し屋に狙われるというのだろうか……。
「うちの近藤が言いましたよ。今回のことを邪魔した人間も──と」
執事の名前は、近藤というらしい。
「ですが、さがしだしても殺されるのでしょう?」
世良は、指摘した。
「勘違いなさらないでください。あくまでも殺すのは、父を殺害した犯人だけです。宝を自力でさがしあてたのなら、それについては発見した人のものですよ。賞金の三億も、さしあげます」
意味がわからない。どうやって、それを見分けるというのだ。
「そうですか……説明が不足していましたね。父を殺した人物たちは、宝のヒントを父から耳にしているんですよ」
「ヒント?」
「くわしい内容は、私でもわかりません。ですが、確実にヒントを聞いています」
「では、簡単にみつけられるのではないですか?」
「不完全なヒントしか耳にしていないはずです。父は死の間際に、そう言い残しました」
どうやら即死ではなく、息絶えるまでに時間があったようだ。
「ですが、その内容までは言わなかった」
「あなたは、どうやって判断しているんですか?」
もっといえば、雇った殺し屋は、どうやって見分けているのだ?
「目的をもってさがしているかどうかですよ」
「そんな曖昧な基準なんですか?」
「そうです」
「まちがえることもあるんじゃないですか?」
「そこは関知していない」
あまりにもひどい言動だ。
「お、おい! なんだそりゃ!? まちがって殺されるかもしれねえのか!?」
そう声をあげた男性の気持ちも理解できる。
「犯人は、だれなんだよ!?」
激昂していた。
「私にもわかりません」
兼良は、またしても意味不明の反応をみせた。
「面識はないということですか?」
「そうです」
「依頼は、電話で?」
「それは言えません。私が狙われてしまう」
電話なのか、メールなのか、とにかく直接会ってはいないのだ。嵯峨に電話をかけたところからも、同じようにして本物の殺し屋を引き当てたということなのだ。
「王海さん……確認したほうがいいんじゃないですか?」
峰岸の言う意味を、すぐには理解できなかった。
「《U》ってことはないですか?」
兼良が依頼したのがヤツだったとしたら、犯行をとめるのは困難になる。
「いや、それはない……」
峰岸に伝えた。
「念のため、ぼくが確かめますね」
どうやって確かめるというのだろう。もし兼良が《U》と名乗る人物をさがしあてたとしても、それを本物だと判断することはできないはずだ。
会ってもいない。会っていたとしても、ヤツの顔は知られていないし、声だって世良でなければ聞き分けられない。名前も、あくまで他人が《U》と呼んでいるだけだ。
「あの、東郷先生を殺害した犯人は、悪人だと思いますか?」
「え?」
「悪人ですか?」
「……なんのことなのかわからないが、悪人でしょうね、私の父を殺したんですから」
たぶんそれは、峰岸の求めている答えではない。
「いや、もっと、こいつは悪いヤツだ、みたいなものはないですか?」
「さあ……、だって私は、その人たちを知らないんですから」
だそうです、と峰岸は小声で囁いた。すくなくとも《U》が、すすんで仕事をするようなシチュエーションではないはずだ。
「人たち、っていうのが気になります」
世良は、話を進行させた。
「犯人は、一人ではないとうことですよね?」
すでに二人殺害されているから、すくなくとも東郷道雄を殺した犯人は、三人以上ということになる。
「はい。人数も、性別も、年齢もわかっていません」
当然、雇われた殺し屋も知らないはずだ。
だが、その殺し屋にしろ、兼良にしろ、複数だと考えているのだ。
「あと、もう一つ大事なことをお聞きします」
「なんですか?」
「本当に、いま殺害された二人は、東郷道雄氏を殺した犯人なのですか?」
「……」
即答はされなかった。
すべての判断を、殺し屋にゆだねている。
殺し屋が、そうだと思えば、その人物を殺していく。それがまちがっていたとしても、死んだ人はもどってこない。殺し屋にとって、そんなことはどうでもいいのだ。
やはり《U》ではない。
「そ、そんな……無関係なのに殺されるって……」
嘆き声が、遠雷のように響きわたった。
「王海さん……まずは、殺し屋を特定するべきですね」
「ああ」
その会話が耳に届いたのか、兼良が忠告した。
「そんなことをしたら、あなたが殺されますよ」
「その心配はありません」
世良は言い返した。
「どうしてですか? 私は、邪魔をする者も殺してくださいと頼んであります。そして依頼が完遂するまで、内容の変更はありえないとも伝えています。たとえ依頼主の私でも、そのかぎりではない」
相当の覚悟をもっているということなのだ。
「なにがおかしいんですか?」
どうやら、意識せずに笑っていたようだ。
「王海さんは、そういうの怖がりませんから」
かわりに、峰岸が答えていた。
「このなかに殺し屋がいるのかどうかわかりませんが──」
世良は、声量を一段階あげた。
「私たち三人は、これからおこるかもしれない殺人を阻止します」
三人というのは、世良自身のほかに、峰岸と馬込をふくめたものだ。
「もし報復するのでしたら、私だけを狙ってください」
もちろん、返事はない。が、そこの部分は殺し屋を信じるしかない。警察官である馬込はべつとして、峰岸に危害をくわえられることだけは避けたかった。
「そうですか……まあ、それはあなたの勝手です。それであなたが殺されたとしても、私は責任を負いませんよ」
兼良は言った。が、そもそもこんなイベントを開催した段階で、無責任の極みなのだ。みな、おまえが言うな、と思ったはずだ。
「では、勝手にやらせてもらいます」
「ええ。ほかのみなさんは、ぜひ宝をさがしあててください!」
仰々しく、そう続けた。
「ふ、ふざけるな! さがしたら殺されるんだろ!?」
抗議の声があがる。
「いえ、そんなことはありません。みなさんが犯人でないのなら、殺されることはないのですから」
「そいつにまちがわれても、殺されるんだろ!?」
「そこは、神にでも祈っててください」
「イヤー!」
女性の参加者が泣き崩れたようだ。
「さあ、みなさん、再開してください!」
当初とちがい、脅迫による強制参加ということになった。
ゆっくりと、みなが動きはじめた。すすり泣いていた女性も、立ち上がったようだ。
「で、王海さん……犯人は──この場合の犯人は、今日の犯行のことですけど、目星はついてるんですか?」
「いや、まったく」
「王海さんにも、不審なところを感じさせないなんて……本当に、あの男なんじゃないですか?」
「それはない」
悪人うんぬんもそうだが、もし《U》がこの場にいたとして、世良の存在を知っていたとしたら、必ず挑発してくるはずだからだ。
言葉にはしなかったが、峰岸にも真意は伝わったようだ。
「でも、王海さんに仕事を邪魔されたくないから、あえて無視しているかもしれませんよ」
「いや、それは──」
世良は、言葉を途中でのみこんだ。
ヤツなら、そんな卑怯な真似はしない。だがそれを口にしたら、また似た者同士だとか、わかりあっているとか言われそうだからやめたのだ。
「ここに入ってから、なにか不審な物音は聞いていませんか?」
「とくにない……」
ただし、世良は全能の神ではない。聞き逃すこともあるし、気づかないこともある。
「死因を明確にしたほうがいいと思うんですけど……」
馬込が遠慮がちに発言した。これまでの流れについてこれなかったようだ。
世良は、馬込の意見に同意した。
一人目の被害者のもとへ移動した。
「頭から血を流してますけど……凶器はなんですかね? 刃物とか、鋭利なものではないと思うんですけど……」
事件捜査の経験がない馬込には、現場検証は荷が重いようだ。
「鈍器のようなものは、どこにもありません……」
二人目の現場──。
「こっちも、同じですね……」
なにかで頭部を殴られているようだ。
「凶器は、なんですかね? 犯人がいまでも持ってるんでしょうか?」
「これからも同じ殺害方法をとるのなら、そうだろうね」
世良は、峰岸に答えた。
「じゃあ、それらしい凶器を持っている人が、殺し屋のはずです」
ただし、あからさまに所持してはいないだろう。
「隠し持っているのを、どうつきとめるかですね」
「身体検査しますか?」
馬込の提案には、穴があった。
「おとなしく従うわけがない。もしくは、従うふりをして、こっちを殺しにくるだろう」
「でも、こちらには警察官が二人もいるんです」
馬込にとっては、世良も現役に数えているらしい。
「あの、馬込さん……一応、確認しておきますけど──王海さんの眼のことは、知ってるんですよね?」
そういえば、そのことの確認はしたことがなかった。公安に所属しているのなら知っているだろうと、浅く考えただけだ。
「普通じゃないってことは知ってます。なんでも見通してしまうって」
どっちともとれる言葉が返ってきた。
部屋の外の足音をとらえたのは、そのときだった。忍んでいるような歩き方だ。
世良は口に人差し指をあてて、二人を静かにさせた。
扉は開けたままになっているはずので、すぐ前に立っていれば二人の眼に映っているはずだ。
「だれですか?」
世良は、声をかけた。
扉のわきに隠れているようだ。
峰岸と馬込に、さがるように手でを合図をおくった。
入り口に近づく。
おそらく、右手側にいると思われる。
所持しているのは打撃武器のはずなので、部屋を出た瞬間に殴りかかってくるはずだ。
ただし、どのような形状かわからないし、極端に長かったら、対処が難しい。もしくは、飛び道具を持っていたとしたら、どうすることもできない。
そこは、賭けだ。
耳に全神経を集中させた。
室外へ一歩踏み込んだ。
ゴオ、と風を揺らす音がした。
鋭利ではなく、重いものが頭上を通過した。
事前に察知していた世良は、頭を沈めていたのだ。
鈍器を所持していると考えたのは、正解だった。だが、なにかがおかしい。
逃げていく足音がした。
体重から、男性だということはわかる。そして、凶器は右腕に持っていた。普通に推理すれば、右利きということになる。
「王海さん!」
世良は、襲撃者が逃げた方向を指さした。
「だれもいません」
「追いかけよう」
「危険じゃないですか?」
「武器は確認した」
世良は、そういう答え方をした。
「誘導してくれ」
あくまでも、先頭には世良がつく。
前進した。後ろから二人がついてくる。
最初に案内されたホールに入った。
「あっちは?」
「細い通路になってます」
そこへ向かった。
「突き当りに部屋があります」
手をのばしたら、扉に触れた。
耳に集中して、扉を開けた。
数人の気配がする。
なかに踏み込んでも、襲いかかってくるようなことはなかった。
世良の後ろから、峰岸がなかを覗き込んだようだ。
「五人いる?」
「そうですね……五人います」
みんなの動きが止まっていた。突然、部屋に入ってきた世良のことを凝視しているようだ。
「この部屋に最後に入ってきたのは、だれですか?」
世良は訊いた。
声としての反応はない。
「みんな、一人の男性を見ています」
峰岸が説明してくれた。
「な、なんですか?」
「すみませんが、歩いてもらえませんか?」
「は?」
「あなたの足音を確かめさせてください」
「足音? なんのためにですか?」
男性の声は落ち着いている。特徴のある声ではない。無味無臭という表現が声音には適していないとわかっていても、その言葉が脳内を埋めていた。
「さきほど、おれは襲われました。その人間の足音を記憶しています。ですから、確かめさせてください」
「なぜ、ぼくが疑われているんですか?」
「いまさっき、この部屋に入ったはずですから」
「そ、そうですけど……」
憤慨している様子が、見えなくてもわかる。
はたしてそれは、演技なのだろうか?
声音だけでは見抜け──聞き抜けない。
「でもぼくは、なにもしてません……」
「王海さん、そんなふうには見えません」
峰岸が耳元で囁いた。が、彼にも演技である可能性があるのはわかっている。あくまでも、見たままの感想を口にしたにすぎない。
「凶器を持っていませんか?」
「そんなものありません……」
衣擦れの音がした。両手をあげてアピールしたのかもしれない。
「なさそうです」
峰岸の助言のあと、馬込と思われる足音が進んでいく。
「調べさせてもらっていいですか?」
「どうぞ」
馬込が、ボディチェックをするようだ。
三十秒ほどが経った。
「……なにも凶器らしいものはないです」
調べられているあいだ、男性の呼吸に乱れはなかった。
だが、そこがむしろ引っかかる。
「もういいでしょう?」
「疑ってすみませんでした……」
馬込が謝罪をした。
世良は、あえてなにも言わなかった。
「いえ、いいんです。ぼくたちも、早く犯人をみつけてもらいたいので」
その男性は、部屋を出ていった。
「王海さんが、まちがえることないですよね?」
そうまで信頼されると、さすがに困る。
「いまの人ですよね、たぶん」
「……」
「でも、凶器を持ってなかったですよ」
馬込が指摘した。
「どこかに隠したんですよ。それをさがしましょう」
峰岸は前向きな発言をした。
「いや……それよりも、いまの男があやしいなら、ずっとマークしてたほうがいいと思います」
馬込の意見も一理ある。
「でも、凶器がなければ犯行はおこなわれないですよ」
世良は、二人がいるであろう空間へ交互に顔を向けた。
凶器がなくても人を殺せる技術があるのならば、馬込の意見をとるべきだ。だが、やつ──《U》のような凄腕が、ほかにいるとも思えない。
「凶器をさが──」
新たなる悲鳴で、世良の言葉はさえぎられた。
まちがいなく、例の男性が進んだ方向から聞こえていた。
世良は、悲鳴の発生源へ急いだ。




