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遠い声Ⅲ  作者: てんの翔
13/15

VOICE.5 狙われた一週間 前編

       1


 その相談をされたとき、麻衣は深刻に受け止めることができなかった。また先輩がおかしなことを言っているな、という程度の認識でしかなかった。

 先輩というのは、同じ大学の玲奈先輩のことだ。同じ居酒屋でバイトもしている。というより、さきにバイトのほうで知り合ったのだ。あとになって、同じ大学だということを知った。

 思い起こせば、あの事件……青山のブランドショップで遭遇した殺人事件でもいっしょだった。先輩に誘われて、あそこで並ぶことになったのだ。

 で、相談内容というのが……。

 先輩は、命を狙われているかもしれない、と言い出した。

 当然、だれに? と質問した。

 それはわからない。でも、狙われているのは確実だ、と。

 さすがにそれは……。

 命を狙われた経験のある麻衣でも、信じることはできなかった。

 しかしそれが──。

 バイトの帰り道、先輩と歩いているときに、異変がおこった。背後から近づいてきた車が、急にスピードをあげた。

 エンジン音に気づいて振り返ったとき、ヘッドライトの光がすぐ間近まで迫っていた。

 悲鳴をあげながら、先輩ともども横に逃げた。車は、なにごともなかったかのように通過していった。

 はたしてあれは、先輩の命を狙ったのだろうか。それとも、たまたま暴走車にでくわしただけなのか……。

「ね、ホントだったでしょ?」

 その翌日、大学で先輩が言った。

 麻衣は、すぐに返事ができなかった。

「……命を狙われる心当たりはないんですか?」

 一応、たずねてみた。

「まったくないんだよねぇ」

 その言い方も軽いから、真剣味も感じない。

「信じてないっしょ」

「いやぁ……」

「でもさ、危なかったでしょ?」

「それはそうだけど……」

 実際にはなんの怪我も負っていないから、あれだけで命を狙われているというのもオーバーだ。

「うーん……そういうの相談できる人が、いるにはいるんですけど……」

 こんなことで警察を動かすことはできない。

 しかし麻衣には、知り合いに警察よりも頼りになる人物がいる。

「ねえ、紹介してよ」

「でも……依頼料とか、けっこうすると思いますよ」

「知り合いなんでしょ? 安くするように言って」

「は、はあ……」



「──というわけなんです」

 まずは一人で世良探偵事務所を訪れていた。このところ、よく遊びに来ているので、それほど特別なことではない。

「どう思います?」

 率直に、麻衣は問いかけた。

 眼の前に、世良が座っている。助手の峰岸は、その斜め後方で立っていた。

「んー……」

 世良は、難しい顔をしていた。瞼は開いているから、眼が見えないことを知らなければ、普通の健常者にしか思えない。少し視線がズレているだろうか。

 殺し屋に両眼を潰された元警察官の探偵──。

 まるで、映画のヒーローのようだ。

 年齢は、三十代のなかごろだろうか。最初に出会ったときにたずねておけばよかった。いまさら歳を聞くのも不自然だ。

 見た目は……そうだ、似ていると思った俳優がいた。名前は忘れてしまったが。探偵というミステリアスな肩書きに似合うような渋さが漂っていた。モテるだろうな、と素直に思える。

「心当たりはないんですよね?」

 世良の後ろにひかえていた峰岸が口にした。

「はい……」

「でもね、そういうのは本人が知らないだけかもね」

 世良が意味深な発言をした。

「知らないうちに、なにかに巻き込まれたってことですか?」

 世良はうなずいた。

「今度、うちにつれてきなよ。料金は気にしなくていいからさ」

 まず自分一人で来てよかった。これで依頼料については、確約をとった。

 着信があったのは、その数秒後だった。

 ごめんなさい──と、ことわってから携帯に出た。バイト先の居酒屋からだ。今日はシフトに入っていないが、急にだれかが休んでしまって、今日入ってくれないか、という連絡かもしれない。

「はい、利根です」

『麻衣ちゃん? 玲奈ちゃんがさ、怪我したって』

「え?」

 麻衣は、頭のなかが真っ白になった。その後の店長の言葉も耳に入らなかった。かわりに出てくれと言われたはずだが、なんと答えたのだろう。

 急いで先輩にかけてみた。出ない。入院してるのだろうか。

「どうしよう……」

「軽傷みたいだから、大丈夫だよ」

 世良が言った。すぐにわかった。携帯からもれていた音声を聞いたのだ。この人の耳なら、朝飯前だろう。

「まだ病院にいるんだと思うよ」

「どの病院だか言ってました?」

「来る途中で、と言ってたけど」

 気が動転して、まったく覚えていない。

 ということは、先輩の家から居酒屋のあいだにある救急病院だろうか。いや、軽傷というのが本当なら、救急車を呼んでいないかもしれない。だとすれば、外科をやっている通常の病院に駆け込んだのかも……。

「ここかな……」

 携帯で病院を検索した。それらしいところをさがしあてた。

「わたし、行ってみます」

 責任を感じていた。もっと親身になって対策を考えればよかった。

「では、おれも行こう。峰岸君、車を用意してくるかな」

 先輩が襲われたのなら、そのほうがいい。その申し出に甘えることにした。

 すぐに事務所を出た。ワゴン車で向かっているときに、先輩と電話がつながった。

「玲奈さん、大丈夫ですか?」

『あ、へーきへーき』

 先輩の声は明るかった。

「まだ病院ですか? わたし、行きますから」

『え、いいよ──』

 そう口にしていたが、そういうわけにはいかない。これは、自分の責任でもあるのだ。

 それから十分ほどで、病院についた。そこにいるものと思い込んでいたのだが、先輩の姿は見えなかった。

「電話で病院を聞いておけばよかったんじゃないですか?」

 峰岸の指摘には、そのとおりだと思った。

 かけなおした。

「あ、先輩……いまどこですか?」

 詳しい場所を聞き出した。すぐ近くのべつの病院だった。しかも、すでに眼の前の公園に移動しているという。

 麻衣がその公園についたときには、陽が暮れかかっていた。

「先輩! なにがあったんですか!?」

 まずは、それを知ることが先決だと考えた。

「いやあ、自転車でコケちゃって……」

 先輩は、足を引きずっているようだ。

「自転車……?」

 思っていたのとはちがった。

「え……だれかに襲われたとか、そういうのじゃないんですか!?」

「う、うーん……そういうわけじゃ……」

 先輩は、困ったような顔になっていた。

「だから来なくていいって言ったのに……」

「あの、ちょっといいかな?」

 これまで情勢を無言で見守っていたような──いや、聞守っていたような世良が、会話に入ってきた。

「ねえ、この人たちは?」 

「あ、このあいだ話した探偵さんです。世良さんと、峰岸さん」

 麻衣は、順番に紹介した。

「ああ!」

 先輩のテンションが、一段高くなった。

「探偵って、はじめて見た」

 失礼な態度ではあるが、彼らなら怒らないでくれるだろう。世良の表情を確認したが、笑みを浮かべていた。

「おれのほうは、青山で会ってるけどね」

「え?」

 先輩は、きょとんしている。麻衣にはわかった。声だ。ブランドショップで並んでいたときに先輩と話していた会話を、彼は耳にしているのだ。麻衣の小さなつぶやきも聞き逃さなかったのだから。

「話をもどしてもいいかな?」

「どうぞどうぞ」

 戸惑う先輩を置き去りにして、麻衣が了承した。説明したとしても、理解できることではない。

「自転車をみせてくれるかな?」

「え? はい、そこにありますけど……」

 もちろん先輩は、彼の眼のことは知らない。

「王海さん、ブレーキのワイヤーが切れてますね」

「ああ、転んだときに切れちゃったのかな」

 世良がそのワイヤーの断面を指で触った。

「切断されてる」

 静かな一言が、公園内に衝撃をあたえた。

「それって……だれかが切ったってことですか?」

 麻衣は、慎重に確認をとった。

「そういうことになるだろうね」

「え、まって……故意にって……」

 これが平常時であれば、だれがそんなことをするのか、という疑問にぶちあたるが、先輩は命を狙われていると感じているのだ。

「やっぱり、だれかがわたしを……」

「心当たりはないんだよね?」

 世良の問いかけに、先輩は連続でうなずいた。

「世良さん……」

「この依頼を引き受けよう」

「え、え……お金はそんなに払えないんですけど……」

「格安でいいよ。命がかかってるからね」

 世良は言った。

「ホントですか!? ありがとうございます!」

 先輩のテンションが、さらに二段階上がった。


       2


 その夜は麻衣がバイトをかわり、先輩は探偵事務所で詳しく状況を説明したそうだ。といっても犯人に心当たりはなく、もちろん命を狙わる心当たりもないも、まったくなかった。

「ねえ、あの人……大丈夫なの?」

 翌日、大学からの帰り道、先輩と途中までいっしょに歩いていた。

「それはまちがいありません! 世良さんは、本当にスゴいんですから!」

 先輩は、彼の眼のことにはまだ気づいていないようだ。それを教えたら、見直してくれるだろうか。

「あれ?」

 麻衣の視界に、見覚えのある人物が入り込んだ。電柱の陰にいる男性だ。口にはマスク、サングラスもしているから、素顔はわからない。だが、見覚えがある。

 いつ? どこで?

「どうした?」

「んー、あの人、見たことあるような……」

「え? わたしを狙ってる人?」

 視線に気づいたのか、その男性はどこかへ歩き去っていった。

 ただの気のせいかもしれない……。

 しかし、しばらく歩いていたら──。

「あれ……」

 また既視感におそわれた。さきほどとは、ちがう人物だ。マスクはしていないが、同じようにサングラスをしている。年齢は、三十ぐらいだろうか。

「あの人も?」

 麻衣は、うなずいた。

 どこで眼にしていたのか?

 こうして、先輩と歩いているときに目撃していたのかもしれない……。

「ねえ、一人じゃないってこと?」

 二人目の男も、こちらの視線に気がつくと、逃げるように行ってしまった。

「……」

 気のせいとは思えない。

 もしいまの二人がそうだったとしたら……。

 監視?

「玲奈さん、急ぎましょう!」

「う、うん……」

 家に帰るのではなく、探偵事務所へ向かうことにした。

 早歩きで、駅まで急いだ。

「あ!」

 三人目のあやしい人物がいた。その男に見覚えはなかったが、同じようにサングラスをかけている。挙動も不審だ。すくなくとも、監視者は三人いることになる。

「あの人も!?」

 こうなってくると、見る人見る人すべてが犯人に思えてくる。

「なんなの、いったい……」

 先輩の嘆きを冷静に聞いている場合ではない。

 公園にさしかかった。そこを突っ切ると、駅までの近道になる。

 園内には、遊んでいる子供たちが数人いるだけだった。それほど大きな公園ではないが、奥には緑の生い茂るエリアがあるので、そこをたせばそれなりの広さになるだろうか。

「ん? なに、あの人……?」

 近づいてくる人物がいる。さきほどまでの監視者とは雰囲気がちがう。スーツ姿で、顔にはさわやかな笑顔が浮かんでいた。年齢は、三十歳前後だろうか。

「やあ、お嬢さんたち」

 一見すると、あやしい感じはないのだが、どこかにうさん臭さが漂っているような……。

「あの……」

 警戒しながら、麻衣は声を返した。

「ああ、これは失礼。あやしい者じゃないですよ」

 男性は内ポケットから、なにかを取り出していた。

「警視庁です」

 それで信用はできない。いまどき、偽の警察手帳を用意することは、それほど難しくないだろう。

「……なんの用でしょうか?」

「本当はね、こうやって話しかけるつもりはなかったんですよ」

「……どういう意味ですか?」

「行確だけのつもりでした」

 会話が噛み合わない。男性はわざとなのか、直接的に答えてくれない。まわりくどいのだ。

「まわくどい……」

 いま考えたことを麻衣は、つぶやいてしまった。

 まわりくどい──その表現を、ユウがよくつかっていた。

「あなた……《おおやけ》ですか?」

「ほう、本当にそう呼んでるんですね」

 男性は感心したように言った。

「残念ですが、先月までの古巣ですよ。でも、お嬢さんのことは存じてますよ」

「……」

 元公安。

「どうして、先輩を監視してるんですか?」

「きみがされてるとは考えないんですね」

 男性の言葉に、麻衣は絶句した。

 ユウと関係した麻衣も、かつては監視対象になっていたはずだ。

「まあ、いいでしょう。教えてあげます。いま私は、組織犯罪対策部というところに所属していましてね。組対と呼ばれているところですよ。怖いお兄さんたちを相手にする部署ですね」

 暴力団とかヤクザとか、そういう人たちのことだろう。

「あの、それで……」

「ですから、その関係ですね」

 ということは、先輩が怖いお兄さんたちと関係している?

 恐る恐る先輩の顔を見てしまった。

「な、なんのこと!?」

 そんなはずはない。なにかのまちがいだろう。

「説明してください!」

 麻衣は、刑事だという男性に迫った。

「詳しくは話せないんですよ。こうして出てくることも特別だと思ってください」

「詳しくなくてもいいです」

「……そうですね、わざわざこうして出てきたんですから、ある程度は言わなければいけませんね」

 男性は、自らを納得させるように声を放った。

「そちらのお嬢さんがね、どうやら面倒な場面に出くわしてしまったみたいなんですよ」

「なんですか、それは?」

 先輩のかわりに、麻衣が問いかけた。先輩に思い当たっている様子はない。

「お嬢さんは少しまえに、東京タワーの周辺に行きませんでしたか?」

「東京タワー?」

「ええ」

 先輩は考え込んだ。

「周辺ですよ、あくまでも」

 麻衣は、これも「まわりくどい」ことなのだと直感した。

「玲奈さん、たぶんもっと広く考えてもいいと思いますよ。六本木とか、虎ノ門とか」

「うーん、行ったかな……? そういえば、飲み会で知り合った人と、そこらへんに行ったような……」

「どういう人ですか?」

「あ、ううん……」

 先輩は言いよどんだ。ということは、相手は男だろう。

「いやあ、最初は池袋で飲んでたんだけど、なりゆきで、もっと下のほうに行ったんだと思うけど……」

 先輩も麻衣と同じように、関東の田舎から上京している。たしか、群馬だったはずだ。麻衣より在住歴は長いが、それでも東京の地理にはうといほうだ。

 下のほうというのは、山手線の路線図を基準にしているはずだ。上京組は、だいたい頭のなかで、あの路線図を思い描いている。

「タクシーもつかったしぃ……あのときが、そうだったのかなぁ?」

 麻衣は、刑事の顔をうかがった。

 先輩の反応を観察している。もっと具体的な内容で誘導することもできるはずだが、そういう素振りはない。

 これにも直感していた。あまり思い出してもらいたくはないのだ。

「あの、先輩が東京タワー周辺に行っていたとしたら、なにかマズいことでもあるんですか?」

「そんなことはありません」

 これまでの言動を整理すると、どうやら玲奈先輩は、東京タワー周辺で、なにかを目撃してしまった。それで組織なんとかという警察の部署に監視されていた……。

 そんなところだろうか?

「命を狙ったのも、あなたたちですか?」

 口にしていて、さすがにそれはないな、と考える自分がいた。

 かりにも警察が、一般市民に危害をくわえようとするのはナンセンスだ。

 だがしかし……。

 麻衣は、実際に狙われた経験がある。

 おおやけ。

 この刑事もまた、元はそこに所属していたという。

「われわれは、警察官ですよ」

「……」

「どうしました?」

 判断がつかない。ここは冷静になって、世良に相談すべきだろう。

「それで結局、わたしたちをどうするつもりですか?」

「どうもしませんよ。むしろ、守っていると思ってください」

「だれからですか?」

 流れを読み解けば、先輩が遭遇してしまったであろう人物になるはずだ。

「それは言えません」

「教えてくれないと、信じることはできません」

「信じてもらえなくても、われわれが捜査をやめることはありません」

 つまり、こちらの都合はどうでいい、ということだ。

「それなら、どうして話しかけてきたんですか?」

「こちらの活動に気づいたようですからね」

「……もう一度、確認しますけど、先輩を見張ってるのは、危険から守ってくれるためですよね?」

「そういうことだと思ってください」

 また断言をさけた。

 ちがうのだ。先輩の命は二の次。それよりも捜査が大事なのだ。

「もう行っていいですか?」

「いいですよ。あ、くれぐれも、このことは内密にしておいてください」

 刑事のもとから、早足で立ち去った。逃げた、という表現でもまちがいではない。

「なんなの、これ?」

 先輩は、混乱していた。

「とにかく、世良さんのとこに急ぎましょう!」

「まって、このことを口外したら、ヤバいんじゃない!?」

「大丈夫ですって。世良さんも、おおやけなんです」

「だから、なんなのそれ?」

「心配無用です。わたしのことを知っているなら、世良さんのところに行くのもわかってますって」

「だいたい、あんたハードボイルド臭がスゴいって……」

 グズる先輩を世良探偵事務所までつれていった。



「──ということがあったんです」

 世良に話を聞いてもらったが、既視感が強かった。

 だが今日は、先輩もいっしょにいる。

「その刑事、どう思います?」

「んー、まだそれだけじゃあ……」

 彼の返答に、先輩が厳しい視線を向けていた。

「信用しないほうがいいですかね?」

「どうだろう……」

 先輩が耳元で囁いた。

「ねえ、やっぱり頼りにならないんじゃない?」

「今日は調子が悪いだけですって……」

 こうやってフォーローするしかないのが現状だ。

「その人は、何歳ぐらいなんですか?」

 助手の峰岸が、会話に割って入った。むしろ空気を変えるのに、ちょうどいいと感じた。

「えーと、三十代だとは思うんですけど……もっと若いのかも……」

 そこのところは自信がない。

「三十歳を過ぎていれば、王海さんとかぶってるかもしれないですね」

 そんなことを言った。世良が公安にいたときの同僚ではないかと考えたのだ。

「いや、おれがいたのは、だいぶむかしだから……」

 そう前置きをしたうで、世良は続けた。

「どんな人相だった?」

「あやしいというか……特徴はあまりないです。玲奈さんを見張ってた人たちは、ちょっとチンピラっぽかったんですけど、その人はもっと真面目な感じでした。でも、あやしいような……」

「あやしい、というのが特徴みたいですね」

 峰岸が結論をまとめてくれた。

「王海さん、該当しそうな人はいますか?」

「さすがに……」

 それはそうだろう。

「ですよね。公安の人なんて、みんなあやしい人物でしょうし」

 ゴホンと、わざとらしい咳払いがあった。先輩のものだ。

「で、結局……わたしはどうすればいいんですか? あの刑事も、なにも教えてくれないし……」

「日常を続けていくしかないのかもね」

「また命を狙われたら、どうするんですか!?」

 世良は無言になった。

「まあ、玲奈さん……刑事も見張ってるわけだし、簡単に狙われませんて」

 麻衣は、そう言うしかなかった。

「……」

 先輩は不満顔だ。

「今日は、バイト?」

「これからです」

「二人とも?」

「はい」

「じゃあ、帰るときも二人でいっしょにいたほうがいいね」

 そうアドバイスを受け取って、探偵事務所を出た。

「やっぱ、ダメじゃん、あの探偵……」

 先輩の愚痴がとまらなかった。

「机の上に置いてあった携帯、ガラケーだったよ。ひさしぶりに見たわ」


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