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7、興味を持ってもらえたら、嬉しいな

 昼とも夜の狭間。


 沈みかけの太陽が西の空を燃えるように染めていて、東には夜の青が漂い始めている。


 二人で歩く庭園は、満開に咲く花々の香りが甘くさわやかだ。

 地面に映る影は、長くゆったりと伸びている。


 ところで、私たちの後ろがちょっとカオスだ。

 

 パーシヴァル様の騎士らしき人たちが距離を開けて「邪魔はさせません」と両腕を広げてガードしていて、アマンダお姉様やレイヴンお兄様が文句を言っている。

 しかも、フローラさんまでいるような……?

 

「エリス嬢は、私の顔は嫌いかい? 君はいつも私を見ないね」

「ふぇっ」


 そういえば、隣にはパーシヴァル様がいたのだった。

 視線を向けると、ちょっと寂しそうな笑顔が……あぅっ、美しくて困るーーっ!


「パーシヴァル様のことは、嫌いではありません」

「それならよかった」


 思えば、パーシヴァル様は王子様で、年齢も上だ。

 なのに、とても失礼な態度をしてきたと思う。

 けれど、パーシヴァル様には私を責めるような気配はなかった。

 

「エリス嬢はとても努力家だと聞いているよ。それに、人柄がいいのだろうね。公爵家の養女になって日が浅いのに、ずっと前から家族の一員だったみたいに溶け込んでいてすごいな」

「家庭教師の先生が優秀ですし、お姉様もお勉強をみてくださるのです。公爵家の皆様は良い方ばかりで、私も弟も優しくしていただいています。奇跡のような毎日です……」


「あっ、そうそう、弟さん。引き取られる前から、とてもよく世話をしていたのだってね。ご病気はよくなったかい? 先ほど話した様子だと、元気そうだったな」

「はい。おかげさまで、弟はすっかり健康を取り戻しました」

 

「それは良かった。ああ、それに、フローラ嬢を助けたところ、見ていたよ」

「招待したパーティで嫌な気持ちにさせてしまって、フローラさんには、申し訳ないと思っています」


「君はちゃんと助けたじゃないか。フローラ嬢も、すっかり君に心を奪われているよ。見てごらん、騎士と揉めてる……」

「フローラさんが心奪われているのは……パーシヴァル様では……」


 言いかけて、私はちょっと迷った。

 アマンダお姉様の説明だと、乙女ゲームは「どの殿方と恋仲になるかがフローラさんしだい」らしい。


「そういえば、悪役令嬢との友情や百合ルートというのもあるとアマンダお姉様が仰っていたような……」 

「悪役令嬢? 百合の花がどうしたんだい?」


「あっ、いいえ。なんでもありません」

「ふうん。君って、ふしぎな子だね。つかみどころがなくて、他の子と違ってて、面白いな」


 パーシヴァル様はそう言って、私の前に膝をついた。

 

「これは、君が私の婚約者だという証だよ。なかなか初対面を済ませられなかったから、今日まで渡せなかったけど」


 そう言って私の左手の薬指に填めてくれるのは、ピンクダイヤモンドの婚約指輪だった。

 とても綺麗で、可愛くて、特別って感じがする。私の胸がきゅんっとなった。


「どうして、ちょっと悲しそうなんだい」

「私、悲しそうな顔なんて……」

「してる」


 指摘されて、私は自分の心を探った。

 

 そして、思い至った。

 

 ……私、きっと、フローラさんの存在が気になっているんだ。


「フローラさんが……」

「エリス嬢って、もしかして女性愛好者なのかい……?」

 

「え、いえ、そうではなく、パーシヴァル様とフローラさんが恋仲になるかなと思っていまして」

「なぜ? 私は彼女と話したこともないのだけど?」

「えっ」


 息を呑んだ時、騎士のガードを突破してフローラさんが駆けてきた。


「婚約者だからって独占はいけないと思いますーーーっ、私、お友だちになろうとしてたのにーーっ」


 ほら、フローラさんは嫉妬してる。

 パーシヴァル様を独占するなと言っているじゃない?

 

 と、私が思った時。フローラさんはなぜか、私に抱き着いてきた。

 あれっ、何事っ?

 

「ああっ、やだー! エリスさんの指に指輪が! ふえええん!」


 えっ、泣いてる。なぜ?

 

「ほらね。フローラ嬢は君が好きなんだよ」


 パーシヴァル様は言い聞かせるような口調になった。


「フローラ嬢。エリス嬢は私の婚約者なので、わきまえていただきたいな。そちらのブラコンとシスコンも」


 ……ブラコンとシスコンとは?

 

 私が首をかしげていると、遠くでお兄様とお姉様が文句を言うのが聞こえた。

 さてはお二人を指す悪口だったに違いない。

 

 騎士が追い付いてきてフローラさんを私から引っぺがすので、パーシヴァル様は「あっちの噴水を見に行こう」と言って、私の手を引いた。


「レイヴンは君のことが結構好きみたいだけど、兄と言う身分だから対象外だよね?」

「対象外とは、なんですか?」

「うん。わからないならいいんだ」

 

 透明な水が綺麗な飛沫をあげている、噴水の前で。

 噴水の音をききながら、パーシヴァル様は私に「君に興味がある」と囁いた。


 意味ありげな甘い声に、どきりとする。

 この王子様は、魅力的だ。いけないと思っても、惹かれずにいられない。


 ……頬が熱い。

 

「君も私に興味を持ってもらえたら、嬉しいな。そうだ。エリス嬢、もしよろしければ、生徒会への入会を検討してくれないか?」

「生徒会ですか?」

「君がいれば生徒会も活気づくだろうし、君と一緒に過ごせる時間が増えるから」


 こうして、その日。

 たぶん、破滅からは遠い状態で、私とパーシヴァル様の新たな学園生活は始まったのだった。


 ――End!

 

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最後まで読んでくださってありがとうございました!


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