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1、私が悪役令嬢になった日

新作を読んでくださってありがとうございます!


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 私の名前はエリス。13歳。平民だ。


 両親を流行り病で失った私は、病弱な弟と二人で生きていくことになった。


「おねえちゃん、ぼくも、ママやパパみたいに死んじゃうのかな……」


 私とお揃いの麦穂色の髪を乱し、すみれ色の瞳を(つら)そうに潤ませた7歳の弟が、弱っていく。

 ――助けたい。でも、どうしたらいいの。

 

「だれか。助けてください。弟が病気なんです」


 街中を歩きまわり、日雇い仕事をする。稼いだお金は食材や薬で、あっという間になくなってしまう。


「やだ、乞食ですわね。ほら、恵んで差し上げますわ」

「ありがとうございます」

「プライドとかないのかしら。見ているこちらが恥ずかしくなりますわ」


 恥ずかしい生き物だと笑われる。

 でも、構わない。


 私が頑張らないと、弟は死ぬから。

 私が頑張ったら、弟は生きられるかもしれないから。


 だから、私はどれだけ笑い者になっても、いい。

 

「薬を売ってください。お金は……ありません。あの、働いて返しますから、どうか……」


 もっと働かないといけない。

 薬を飲ませて、栄養のある食事を作ってあげないと。

 あたたかい毛布も、買ってあげたい。


「年頃の娘が、髪も服もボロボロで……みっともない」

 頑張らなきゃ。

「薬がまた欲しい? でもあんた、前の薬代も払えてないだろう」

 なんとかしなきゃ。


「お姉ちゃん。ぼく、お腹すいてないよ」


 弱々しい声の弟に、こんな風に気を使わせて嘘を言わせちゃいけないんだ。

 

「……っ、ひっく……」


 泣いちゃだめ。


「おかあさ……ん。おとうさ……っ」


 助けを求めても、お母さんもお父さんも、いないんだ。



 ……そんな必死な私に手を差し伸べてくれたのは、『悪役令嬢』だった。


「あなたたち、ずいぶん大変な境遇みたいね。公爵家で保護してあげる。養子にしましょう! 代わりに、エリスには悪役令嬢になってほしいの」  


 彼女の名前は、公爵令嬢アマンダ・エスカランタ様。

 私と同じ年齢で、手入れの行き届いた黄金色の髪に澄んだサファイアの瞳をしている。

 とびっきり高貴なお姫様だ。


 アマンダ様は、私を気に入ったと仰った。

 

「エリスに教えてあげましょう。わたくしには、前世の記憶があるの。この世界は『君と僕がドルチェ』というタイトルの乙女ゲーム。主な舞台は、わたくしが春に入学する学園『ローズウッド・アカデミー』よ」


 教えられる内容は非現実的で、「本当かな?」って首をかしげてしまう。


 乙女ゲームってなんだろう、と思った私に、アマンダ様はその概念を教えてくれた。

 異世界の貴族のお嬢様みたいな方々が(たしな)遊戯(ゲーム)らしい。


 ふむふむ、と理解する私に「理解力が高くて、いい子ね」と微笑み、アマンダ様はお話を続けた。

 

「エスカランタ公爵家は、祖父の代に『孫娘を王室に嫁がせる』と約束をしています。そのため現在、わたくしには第一王子パーシヴァル様と婚約の話が出ているの」


 平民の私にとっては、雲の上の世界のお話だ。

 すごい方が、すごい方とご結婚するのだなあ……くらいの認識。


「でも、原作ではわたくしは悪役で、婚約者を聖女に奪われて、嫉妬に狂って嫌がらせをし、断罪されてしまう」


 何を言われているのか、だんだんわからなくなってくる。

 えぇと、この世界がゲームの世界。アマンダ様がゲームの悪役?


「そんなのは嫌。……わたくしは王子との婚約を回避したい! だから、エリスはわたくしの妹になって、第一王子と婚約してちょうだい」

 

 ――待って?

 なんだか、すごいことを言われていない? 

 他人事が、急に自分のことになったよ?


「わ、私が公爵家の養女になって、王子様と婚約……っ?」

 

「そうよ。エスカランタ公爵家の令嬢と王子が婚約しないといけない。でも、『公爵家の令嬢』ってわたくしじゃなくてもいいと思うの」


 アマンダ様はそう仰り、大きな扇をぱらりと開いて、ちょっと私を見下すような眼をした。

 

「平民が公爵家の令嬢になれて、わたくしの役に立てるのよ? 弟だって助けてあげる。いい話でしょう? 感謝なさい」

  

 この国は身分階級社会で、貴族のお嬢様は、とっても偉い。

 貴族の中でも、「公爵」の爵位は最上位……。

 

 高熱で真っ赤になった弟の顔を見て、私はすぐに決意した。


「……やります。だから、どうか……弟を、助けてください」

 

 私はアマンダ様の手を取り、『悪役令嬢』になった。

 

 父と母が亡くなり、たったひとりの家族となった弟を守るために。

 

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