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幼い女神の迷宮遊戯  作者: 悠戯
第二章『幼い女神の新たな世界』

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61.幼い女神の無理難題


 発売直前のタイミングで注目を集められたおかげもあって、『LG(リトルゴッデス)WB(ワールドボード) ~幼い女神の遊戯盤~』の滑り出しは好調。昨今の異世界ブームとゲーム内容の噛み合わせの良さも手伝って、十分に大ヒットと言えるだけの売上を叩き出すことができました。



『さっすが我のアイデアね! 我は最初っからこうなるって分かってたの……あれ? でも、何をどうすれば勝ったことになるのかしら?』



 当初の目的であったゴゴやモモが協力している『似十堂』のゲームへの勝利、それがキチンと成ったのかについては……正直よく分かりません。

 ウルとしては売上本数や金額での勝負には当初からさほど関心がなく、面白さで勝つことをこそ目的としていたわけですが、双六系ゲームと格闘ゲームや恋愛ゲームの面白さをどのように比較すればいいのやら。

 他の何かで例えるとするならば、いわばステーキとショートケーキのどちらが美味しいかを決めるようなモノ。どちらかに明らかな瑕疵があるというのなら比べようもありますが、一定以上のクオリティに達しているのなら、あとはもう個々のプレイヤーの好み次第でしかないでしょう。ウル以外の面々は最初から薄々気付いていたことではありますが。



『まっ、それはもういいの。それよりもゴゴ達ってば我に相談って何かしら?』



 現在ウルがいるのは関西某所にある『似十堂』の本社ビル。

 本日は妹達からの招待を受けて、遥々新幹線で東京から足を運んできた次第です。わざわざ交通機関を使わずとも自分の足で走るなり空を飛ぶなりしたほうがずっと速いですし、なんならゼロ時間での瞬間移動とかもできるのですが、それでは旅情も何もあったものではありません。

 ついでに言えば、駅弁や車内販売してるアイスは家よりも列車の座席で食べたほうが美味しく感じられます。東京駅で三十個ほど購入した『崎陽軒』のシウマイ弁当は、次の横浜駅に着く頃にはもう全部カラッポになっていました。



『やあ、姉さん。わざわざ呼び出してしまってすみません』


『いいのいいの、お安い御用よ。我を頼るとは流石ゴゴは見る目があるの。さあ、思春期ならではの将来への不安とか恋の相談とか、そういうアレを遠慮なくお姉ちゃんに吐き出してみるの! 楽しそうだから、できれば後者を希望するのよ』


『ご期待に沿えずに申し訳ないですけど、残念ながら今日はそういうアレとは別件でして。具体的には後でこの会社の皆さんや他の方々を交えて説明があると思いますが、ゲーム関係の話ですね』



 この『似十堂』本社ビルに呼び出された時点で察しそうなものですが、ゴゴ達の用件は思春期ならではのそういうアレではなかったようです。

 まあ、そういうアレは忘れるとしても、ゲーム関係の相談とは如何なるものか。なにしろ、ここは天下の超一流ゲームメーカー『似十堂』。優秀な人員はいくらでもいるでしょうし、今や二柱の神までもが手を貸しているのです。彼ら彼女らですら手に負えず、わざわざウルを呼び出さねばならぬほどの難題があるとでも言うのでしょうか。



『あっはっは、我にドーンと任せておけば全部安心なの!』


『ふふ、流石は姉さん。頼りにさせてもらいますよ』



 もっとも、そんな深読みから無駄に心配して頭を悩ませるウルではありません。まだ用事を聞く前から自信満々に解決を請け負い、その薄い胸を張るのでした。






 ◆◆◆





 翌日。

 東京都内のウルのマンションにて。



『うわーん、どうしたらいいか分かんないのよ!?』



 ウルは早くも昨日の安請け合いを後悔していました。

 元より、大抵の無理難題ならゴゴやモモが片手間であっさり片付けていたはず。昨日の用件とは、彼女らでも簡単には解決できそうにないほどのシロモノだったのです。



「こらこら、ウル君や。そうやって床を転げ回ったりしたら埃が舞うだろう。無様に転げ回るなら外でやりたまえ外で」


『そんなことしたら神様の威厳が台無しなの。我ってば最近こっちでもこの美貌で有名になってきたでしょ? いつどこで週刊誌のカメラマンに激写されちゃうか分かんないの』



 安請け合いを後悔してマンションの床を転がっていた神様に容赦のない声をかけたのは、ウルの同居人にして保護者である女性。もっともウルとしては自分こそが保護者であると常々主張しているのですが。



「はいはい。それでゴゴ君達の相談って結局なんだったのさ?」


『えっとね、実は……』



 昨日のゴゴ及び『似十堂』からの相談。いえ、より正しくは『似十堂』に仲介を依頼した、同業他社からの相談と言うべきでしょうか。


 同業他社とは、すなわち他のゲームメーカー。

 それも一社や二社ではありません。昨日集まっていただけでも十社近くから、それぞれの代表者が来ていたのです。顔を出していなかったメーカーや海外メーカーを含めると、今件に関心を持ちそうな会社は大幅にその数を増すことでしょう。事によっては法人のみならず、個人や小規模のサークルでゲームを作っている人間にまで影響が及ぶ可能性も出てきます。



『あのね、他の会社のヒト達も、我の「ブイブイ」とかゴゴ達の「似十堂」みたいなゲームを創ってみたいんだって』


「ふむ。私はあんまりゲームやらないからそっちの業界には詳しくないけど、それ自体は別におかしなことじゃないんじゃない?」



 以前から予想できていたことではありますが、他のメーカーだって話題のゲームに一枚噛んでみたいと思うのは当然。売上面の事情のみならず、クリエイターとして純粋にそうしたゲームを作ってみたいと考えるのも自然なことでしょう。

 『ブイブイゲームス』一強の独占状態から『似十堂』を加えた寡占へと移行したとはいえ、まだまだそうした業界内からの需要に応えきれているとは到底言えない状況です。



「なるほどね。だからこそ、そうしたメーカーで同盟を組んで、ゴゴ君達ないしはその『似十堂』さんとやらに話を持ち掛けたわけだ。ゲーム業界全体の発展がどうとか口実を設ければ、相手だって断りにくいだろうしね。なんでウル君のほうに話を持ってこなかったのかは……」


『ふっ、きっと我が美しすぎるせいで声をかける勇気が出なかったのね。高嶺の花っていうのも大変なの』


「はいはい。まあ過程はともかく、そのまま素直にゴゴ君達が頼みを受けなかったってことは、そこで何かしらの懸念点があったわけだね。大方、このまま新作ゲームを創るたびに新しい世界をポコジャカ生やして良いのかどうか、今更ながらに気になってきたってところかな」


『うん、大体そんな感じなの』



 今更ですが、本当に今更ではありますが、わざわざ新作ゲームのために神様が新たな世界を創造するというのは如何なものかと。そういうもっと早い段階で検討すべき疑問が湧いてきたのでしょう。

 いえ、別にやろうと思えばできなくもないのです。

 創る時点でしっかり注意しているので、そうしてポコジャガ生やしたゲーム世界が他のゲーム世界や地球や他の異世界に変な形で干渉して、自然環境やプレイヤーの心身に悪影響を及ぼしたりといったこともありません。そこは一番最初の『ダンジョンワールド』開発中からしっかり気を付けています。



 また、神様達の側に能力面の不足があるわけでもありません。

 世界の創造に要する神力コストは決して安くはないにせよ、ウルや姉妹達であれば十分に余裕を持って生み出せる範囲内です。



「なんなら適当な異世界で、人類を滅ぼしたり弄んだりする系の、ボコボコに叩きのめしてもあんまり心が痛まない邪神とか魔神とか破壊神とかから神力をカツアゲしてきてもいいしね。ウル君なら問題なくできるでしょ?」


『言い方! まあ、それはそうなんだけど。ていうか、今もたまにやってるけど。悪い神様に滅ぼされかけてる異世界を助けてあげたりとかの過程で。結果的に。あとはそうやって助けた世界の良い神様からお助け料として神力をちょっぴり分けてもらったりもしてるの』



 いくら神とはいえウル達も昔はここまでデタラメな強さではなかったのですが、まあ色々とあって、具体的にはweb小説換算で千話分近く色々あって、数多の異世界の神々の中でも上位に位置するであろうデタラメさを獲得するに至ったのです。


 なので世界の十や百を新しく生やす程度は大して難しくもないですし、もし足りなければ適当な悪神に因縁をつけて回る昭和のヤンキーめいた解決法もなくはないのですが、流石にそれは面倒が勝ります。あと創るだけなら良くても、以後ずっと適切な管理をするとなると、更に面倒臭くなってきます。

 創造コストを賄うために都度カツアゲされる悪の神々が恐怖のあまりに更生して、わざわざ退治するまでもなく平和になる世界も出てくるかもしれません。いえ、それは願ったり叶ったりですが。



 ゲームメーカー各社の希望を聞いて、十や二十の世界を創って運営するだけならまだいいのです。しかし、各メーカーとも一作目が上手くいけば次は二作目三作目と欲も出てくるでしょうし、参入を希望するメーカー自体もどんどん増えてくるはずです。

 そうなった時に全部願いを聞いていたら、管理すべき世界の数が千や万に届くやも。能力的にはその全てをトラブルなく運営することも可能かもしれませんが、いくら神様だって面倒なものは面倒くさい。「できる」と「やりたい」の間には限りなく大きい断絶があるのです。


 かといって、先行メーカーである『ブイブイゲームス』と『似十堂』に加え、あとは幸運な何社かだけに絞って願いを聞くというのも依怙贔屓をしているようで気分がよろしくない。

 今後、多くのゲームメーカーや趣味でゲームを作っているアマチュアの個人やサークル、そういった不特定多数の人々に『ゲームの世界に入れるゲーム』の開発機会を与えた上で、不用意に神々の負担を増やすことのないような名案はないものか。

 平たく言うと、昨日ウルが安請け合いしてしまった頼みとは、以上のようなものだったのです。それはまあ困り果てて転げ回りもするでしょう。



「ははは、まったくウル君は仕方がないなぁ。どうせ、ゴゴ君達に良い顔をしたくて調子の良いことを言っちゃったんだろう?」


『ぐぬぬ、悔しいけど言い返せねぇの……』


「まったく、そんな都合の良い解決法なんてさ……まあ、私は聞いてる途中で思いついてたけど。こういうのは、かえってゲーム業界から距離のある人間のほうが気付きやすいのかもしれないね。距離が近すぎるとかえって視野が狭まるというかさ。目的と手段を取り違えてるというか」


『なのっ!?』



 しかし、驚くべきことに同居人女性は、この無理難題に対する解法をあっさり思いついたと言うのです。曰く、ゲーム開発に携わる業界関係者の気付かぬうちに、手段と目的の逆転が起こっていたということですが。



「ふふふ、まあ私と他ならぬウル君の仲だし? 頭を下げて『お願いします』と言えば教えてあげなくもないかなぁ?」


『ぐぬぬぬぬ、お、お願いするの……』


「おやおや、なんだか急に耳が遠くなったのかな? もっと大きい声じゃないと聞こえないなぁぁ~~? さあ、ウル君。もう一度、元気よくいってみよう!」


『お願いします、なの! まったくもうっ、これで我を騙してたりしたらタダじゃ済まさないのよ!』



 幸い、同居人女性の言はウルをからかって遊びたいが為のでっち上げではありませんでした。そして早速この日から方策を現実のモノとすべく、ウルとゴゴとモモ、そして『ブイブイ』や『似十堂』やそれ以外のゲーム業界各位がメーカーの垣根を越えて挑む、新たな戦いの日々が幕を開けることとなったのです。



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― 新着の感想 ―
さあ、ゲーム戦国時代の幕開けじゃ~ とりあえず、ヘッドハンティングとかに警戒しないと。
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