60.幼い女神の大成功!
さてさて、試遊会もいよいよ終盤。
双六系ゲームである『LG・WB』は、プレイ開始前に参加者が設定したゲーム内時間、またはリアル時間が経過した時点で一区切り。今回の試遊会ではワンプレイ九十分の想定でしたが、プレイ前の各種説明や参加者から感想を聞くために時間を食うことが予想されたので、ワンゲーム七十五分で最初に設定されています。
『最後の一投で良い目を出して全員ごぼう抜きなのよ! ぎゃー、なの!?』
最後の自分のターンでサイコロを振るも、またもや悪い目が出てダントツ最下位が確定したウルは置いといて、残りの五人は熾烈な優勝争いを繰り広げています。イベントや魔法アイテムの引き次第では誰が最終的なトップになるか分かりません。
現在の資産額トップは一番手にサイコロを振った男性声優氏。
彼はウルの前に自分の最終ターンを終えたので、あとはもう運を天に任せて他の参加者を待つばかりです。プレイヤー兼司会進行の立場としては、ここで一般参加者を差し置いて優勝してしまうのはどうなのかという大人の事情由来の複雑な心境もあるようですが、そうなったらなったでゲームの公平性をアピールできるので決して悪くはありません。そもそも運の要素が勝敗を大きく左右するゲームでは仕方のないことでしょう。
「これで最後ですか。あっという間でしたねぇ……っと、やった!」
ウルに続いて自身の最終ターンを迎えたのは、三番手の『カステラ侍』嬢。現在は資産額で三位に付けていたのですが、なんと最後の最後で良い目を引いたようです。
もう少し具体的には、少し前に迷い込んだ迷宮マップの奥地でボスのドラゴンに遭遇したのですが、前に立ち寄っていた街の冒険者ギルドでお金を払って護衛を雇っていたので問答無用での敗走とはならず。
更には加護神として選択していたゴゴ、剣神である彼女のおかげで冒険者NPCの戦闘能力が大幅に向上。見事にドラゴンを撃破して、山のような財宝をゲットしたという具合です。
「やった、ゴゴ様ありがとう! それから会場のゴゴ様も聞こえてますかー? どうもありがとうございました!」
『いえいえ、どういたしまして。というか、こちらの我は本当に何もしていないんですが』
プレイ開始前から『ブイブイゲームス』のブース付近にいたゴゴやモモは、いつの間にかステージ上に立って司会進行のお手伝いをしていました。主な役割はゲーム内のプレイヤーに会場の反応を届ける橋渡しでしょうか。
ゲーム内にいる声優氏や芸人女史も可能な限りで頑張ってはくれているのですが、ウル以外の普通の人間はゲーム世界からイベント会場の様子を見聞きすることができないため、ブース前の見物客の反応を確認できずに少々難儀していたようなのです。
本来の予定とは違うアドリブですし、彼女達は競合他社に力を貸すライバル的立場でもあるのですが、『ブイブイ』スタッフとしても神様に退場願うのは気が引けたのでしょう。もしくは、ライバル社の一員としての立場よりも、慣れ親しんだウルの身内としての印象が強かったせいかもしれません。実際それで助けられた部分もあるので、そのまま何となく受け入れていたというわけです。
ゴゴ達にとっても『LG・WB』は今日が初見のゲームなのですが、そこは仮にもゲーム業界の一員として働いてきた経験と、それから神様として大勢の人々の前に出ることへの慣れもあるのでしょう。
ついでに言えば、ゲームの舞台は当然ながらウルのみならず彼女達の地元でもあるわけで、なんとなくの勘所くらいは説明がなくとも掴めます。
『おおっ、これで今のお姉さんが一気にトップに立ったのです。でもでも、まだ自分の番を残してるお三方にも逆転のチャンスは残されているのですよ』
『ええ、最後まで諦めずにご健闘ください』
現時点で二位以下が確定した声優氏と、ダントツのビリがとっくに確定済みだったウルはともかくとして、モモの言うように残る三名との差は十分に逆転の可能性が残る範囲内。最後まで結果は分かりません。決着を前にゲーム内外ともに熱気を増していき、最後まで白熱の競り合いとなったのでありました。
◆◆◆
『というわけで、優勝はカ……このお姉さんなの! みんな、拍手よ! ぱちぱちぱち!』
ギリギリの僅差ではありましたが、優勝はどうにか逃げ切りを決めた『カステラ侍』嬢。現在は元のイベントステージに戻ってきて簡単な表彰式の最中です。
不特定多数の前で現実の容姿とアカウント名を紐付けられるのは、コンプライアンス的に不味かろう、と。危ういところで気付いたウルが自身のやらかし未遂に密かな危機感を覚えていましたが、『カ』の一文字だけならどうにかセーフといったところでしょう。ウルはコンプライアンスに配慮できるタイプのお子様なのです。
大勢の前でゲームの感想を言うのは、人前で喋るのに不慣れな一般参加組にとって少々緊張する一幕だったようですが、そこはゲーム内と同じく司会進行の二人が巧みにフォロー。なんとか役割を果たすことができました。
『参加賞として……なんと! 一般参加の三人には今回遊んでもらった「LG・WB」のソフトを無料でプレゼントしちゃうのよ。あ、でも発売日までは起動できないようになってるから注意してね?』
「え、新作無料でもらっていいの!?」
「やったー、ウルちゃん様サイコー!」
『うんうん、無料は大事なの。あと、そのうち我がプレイヤーとしてリベンジしに行くから首を洗って待っておくのよ!』
なんと、一般参加者には新作ソフトを無料プレゼントという大盤振る舞い。
一応、これは調子に乗ったウルがチヤホヤされたいがために独断で決めたわけではなく、『ブイブイ』スタッフと事前に取り決めていた段取り。本日中にまだ数回やる予定の試遊会の参加者にも同じようにプレゼントする予定です。
リベンジ云々に関しては完全にアドリブですが、彼ら彼女らとしてもウルと一緒に遊べたのは楽しい経験だったようですし、またご一緒できるチャンスがありそうで万々歳くらいのものでしょう。
『それじゃあ、一回目の体験イベントはここまでなの。すぐに二回目の抽選を始めるから、前のみんなが遊ぶのを見て気になったヒトはどんどん参加して欲しいのよ』
一回目の試遊会を見て純粋にゲーム内容に興味を引かれた人、もしくは一回目ではサプライズだった参加賞目当ての人、あるいはその両方。二回目の抽選券は一回目に倍するほどの勢いで配られていきます。
自然と当選確率はどんどん下がっていくわけですが、これで新作タイトルの注目度が上がると考えればガッカリする人が増えるのも悪いとばかりは言い切れません。今日の抽選に外れた面々の多くも、発売日以降にはキチンとお金を払って購入してくれることでしょう。
そういった会場内の様子は『ブイブイゲームス』の公式アカウントをはじめ、近辺の来場者もSNSで話題にしているため、今回のイベントに来ていない潜在的購買層へのアピールとしてもバッチリ。宣伝としては大成功です。
ウルとしては華麗に優勝した上で、なおかつ宣伝も成功させたかったようですが、今回は後者の目的を達成できただけでも十分でしょう。
『はい、それじゃあ二回目の抽選に当たったヒトはステージに上がってきてね。今度こそは我がぶっちぎりで優勝してやるの!』
ちなみに、この日に計四回行われた試遊会において、ウルは四連続ダントツ最下位という、双六系ゲームとしてはある意味驚異的な記録を残す結果となりました。




