59.幼い女神の七転八倒
『LG・WB』の試遊会が始まってから早数十分。
最初のうちは不慣れゆえに戸惑っていた参加者たちも早々にプレイのコツを掴み、ゲームはサクサクと進行しておりました。
ちなみに現在の最下位はウル。
自分が創ったゲームだというのにどうもサイコロ運に恵まれず、お金を落としたり列車強盗に遭遇したりモンスターの襲撃に遭ったり神出鬼没の怪盗に購入したばかりのアイテムを盗まれたりと、やたらバリエーション豊富なマイナスイベントで次々と資金が目減りしていき、今や借金の額が凄まじいことになっています。
『よし、この街の神殿で我の加護神を我にするのよ。さあ、ゲームの我。どんどん良い効果を出すの。ここで一気に一発逆転よ!』
『ねえねえ、プレイヤーの我。我が言うのもなんだけど、これは流石にややこしいと思うのよ?』
ですが、ようやく辿り着いた街の神殿でゲーム内キャラクターのウルの加護を得ることができました。なんともややこしい状況ですが。
他のプレイヤー達はとっくに姉妹神のいずれかの加護を得て、ゲーム進行に有利な効果を次々と獲得していたのですが、ウルだけは突発的なマイナスイベントに見舞われて見知らぬ荒野に飛ばされたり、サイコロの数字が大きすぎて街を素通りしてしまったりして、ここまで加護ゼロの実質縛りプレイ状態でやってきたのです。
しかし、これでようやく条件はイーブン。
ゲーム内キャラとしてのウルは豊穣神という性質を活かして、行く先々のマスで豊作になった食料を安く買い付けられたり、本来はマイナスイベントが発生するはずのマスの上に森林を創り出してスキップさせてくれるのです。
プレイヤーのほうのウルが言うように、こうした性質を上手く活用すれば最下位脱出も決して夢ではありません。
「あっ。ウルちゃん様、ごめんね」
『ぎゃー、なの!?』
が、もちろん他のプレイヤーだって着々と勝利を目指しているわけで。
ゲーム中で獲得できる魔法アイテムの中には、他のプレイヤーを妨害して神の加護を引っぺがすことのできる種類もあるのです。今回使われたアイテムは誰に対して効果が出るかランダムで決定される種類だったのですが……というか、現状ぶっちぎりでビリのウルを妨害するのに貴重なアイテムを浪費するのは順位争いの上では損なくらいだったのですが、まあ運の良し悪しが原因ならばお互い呑み込むしかありません。
ちなみに神の加護を魔法でどうこうするというのは現実の異世界には存在しない現象ですが、そこは正確性よりもゲーム的な面白さを優先した結果でしょう。というか、開発中にそうした仕様があったほうが面白そうだと思いついて、その提案をねじ込んだのが当のウルだったりします。
『あらら、今回はご縁がなかったみたいなの。それじゃあ、プレイヤーの我。残り時間的に多分もう逆転は厳しいと思うけど頑張るのよ』
『そ、そんなっ、行かないで欲しいのよ、ゲームの我!?』
せっかくの逆転チャンスが水の泡。
ですが、ウルが次々と不運や妨害に見舞われて七転八倒する様子は、他プレイヤーやイベント会場の見物客の笑いを大いに誘い、新作タイトルの販促としては成功していると見ていいでしょう。
プレイの様子は『ブイブイゲームス』のスタッフが逐一SNSにスクリーンショットを投稿しており、なかなかの閲覧数を獲得していました。この調子なら『LG・WB』の売上にも期待が持てそうです。
『ふっ、我は悟ったのよ。超可愛い我はこの世に二柱も要らないの。頂点は常に一柱! 今度は妹の誰かを選んでみるの』
普段から自分自身を気軽にポコポコ増やしているウルが言っても全然説得力がない発言はさておいて、基本的に超が付くポジティブで自信家な彼女はどれだけマイナスイベントに見舞われようが順位がダントツ最下位だろうが、それで怒って不貞腐れたり泣いたりということがありません。
正確には一時的に落ち込むことはあってもあっという間に立ち直るので、見ている側のストレスになりにくいのでしょう。リアクションが何かとオーバーかつコミカルな点も人気があるため、こうした役割には適しています。
「いやぁ、ウルちゃん良いなあ。ねっ、テレビとか興味ない? バラエティとか出たらすっごく人気出そうな気がするんだけど」
『えっと、お姉さんはお笑い芸人の人だったかしら? ふっ、我の素質に目を付けるとはなかなか見る目があるの。でも、ほら我ってばクール系のミステリアス美少女でしょ? バラエティよりもオトナなドラマとか映画のほうが合ってるんじゃないかしら……って、あれ? みんな、今のは笑うところじゃないのよ?』
司会進行を務めている女性芸人から芸能界への誘いを受けていたりもしましたが、まあ流石にそれは脱線が過ぎるというものでしょう。ともあれ、ウルの活躍ぶりのおかげもあって、試遊会は大いに盛り上がっておりました。




