57.幼い女神のリアルイベント
この日、千葉県の幕張にて大規模なゲームイベントが開催されていました。
ゲーム業界各社の新作発表や試遊会、開発関係者を招いてのトークショーなど、見どころは盛り沢山。会場限定のグッズ販売やeスポーツの大会、人気歌手や声優のライブなども開催され、会場内のどこへ行っても大混雑。大勢のゲームファンや業界関係者が詰めかけて、それはそれは大きく盛り上がっていました。
「あっ、ちゃん様いる!」
「本当だ、小っちゃくて可愛いー!」
『うんうん、みんな見る目があるの。握手とかサイン待ちの人はそっちの列にお行儀よく並んで欲しいのよ』
ここ数年のゲーム業界で注目を集める『ブイブイゲームス』も公式ブースを出展。既存タイトルの関連グッズの物販やウルのサイン&握手会などで、開場直後からなかなかの賑わいを見せていました。
「ウル様、いつも応援してます!」
『ありがとなの……って、あれ? もしかして、カステラのお姉さん?』
「よく分かりましたねぇ。ゲームの中と見た目全然違うのに……」
『魂の色とか匂いとか、そういうので何となく分かるの。うん、こっちの姿も結構可愛いと思うのよ。今日は楽しんでいって欲しいの』
「ど、どうも、恐縮です……」
リアルイベントとあってか、普段はゲームの中でウルと顔を会わせているプレイヤー達もチラホラと訪れているようです。もっとも本人が名乗らない限り、そうと分かるのはウルやその妹達くらいでしょうが。
例えば『ダンジョンワールド』でウルとよく話す『カステラ侍』嬢などは、今日は普段の長身の女武者イメージとは打って変わって、中学生と間違えられそうな童顔に小柄な体格。本人がウルに語ったところによると一応は成人済みの大学生だそうですが、居酒屋に行くたびに年齢確認を求められるのが大変だと苦笑いを浮かべていました。
他にもウルは知り合いの姿を見かけるたびに声をかけ(一応プライバシーに配慮して、周りに聞こえないくらいの声量で)、幾度となく相手を驚かせて、あるいは喜ばせていたものです。
『やあ、どうも姉さん。精が出ますね』
『どもども、お疲れ様なのです』
『あっ、ゴゴ達も来てたのね。そっちもお仕事?』
『ええ、「似十堂」もブースを出展しているもので、そのトークイベント要員ですね。今はプロデューサーの方と制作の裏話など語っているところです』
開発側も多数参加するイベントだけあって、競合メーカーの『似十堂』に協力しているゴゴやモモも来場していたようです。こうして『ブイブイ』のブースに顔見せに来ている今も、実は彼女達の分身がトークイベントに参加している最中なのだとか。
ウルもサインや握手のペースアップのために自分の数を五人にした上で、まるで千手観音のように肩や背中から追加の腕を生やしていたりするので、まあ大体似たようなものでしょう。その姿に驚いたファン達がビックリして腰を抜かしそうになっていましたが、見た目はともかく効率的ではあります。
と、現時点でもそれなりに盛況ではありますが、本日の『ブイブイ』ブースの目玉は物販でもサイン会でもありません。本命は、ゲストとして招いた声優やゲーム好きの芸能人、それからこの会場で立候補した一般のファンを交えての新作ゲーム試遊会。つい先日に完成し、もう数日後には発売日を迎える異世界双六ゲームのプレイ体験会こそが、本日最大のビッグイベントというわけです。
試遊会の一回あたりの想定プレイ時間は九十分前後。
それを開場時間内に三回か多ければ四回ほど繰り返す予定で、一般参加の抽選券は開場時から配られていて、そろそろ初回の受付を締め切る頃合い。プレイ中の映像はブース前の大型モニターに映し出されるため、抽選に漏れた人達もそれなりに楽しめるのではないでしょうか。
「たしかウルちゃん様の他の妹ちゃん達も出るんだっけ」
「うん、SNSでイラスト上がってたよね。ちなみに誰推し?」
「箱だな。そっちは?」
「青、いいよね」
「いい……」
地道な宣伝の甲斐あって、発売前の時点から推しキャラができているファンも少なからずいる様子。ちなみに、こういう場合の「箱推し」というのは特定の誰か一人ではなくグループ全体を等しく推すこと。「青」というのは姉妹神を髪の色で区別しているのでしょう。
ウルは緑色、ゴゴは金髪、モモは桃色などのように、彼女ら姉妹はそれぞれ違うカラーの外見的特徴を有しているのです。彼女達の地元世界では、それぞれの神の信者が象徴色として該当する色合いの服や小物を好んで身に着けていたりするのも一般的です。
『おっと、注目注目! そろそろ一回目の抽選結果が出るみたいなの!』
抽選は数字が印刷された紙をスタッフがくじ引きスタイルで引くアナログ方式なので、不正の心配は無用。純粋なリアルラックが試される場面です。
恐らくは神頼みのつもりなのか、ブースの周囲にいた人々が一斉にウルやゴゴやモモに向けて手を合わせて拝んでいたりもしましたが、今回の趣旨を考えると特定の誰かだけ贔屓するわけにもいきません。モモがクジ運を『強化』するようなこともなく、純然たる偶然に結果を委ねることにしていました。
『はい、結果が出たみたいね。当たったのは……十一番、二十四番、それと少し飛んで七十番の人なのよ! 当たった人はステージの上に出てきて欲しいの』
一応、もし当選者不在の場合はくじを引き直す取り決めになっていましたが、流石にそんなことはなかったようです。運良く試遊プレイの権利を引き当てた三人の人物がステージ上に出てきました。
『あっ、カステラのお姉さんも当たったのね』
「あはは、どうもおかげさまで」
ゲーム内ならともかくリアルで大勢から注目されるのに慣れていないのか、『カステラ侍』嬢ほか二名の一般参加者は照れ臭そうにしていますが、いざ始まってしまえば気にならなくなるでしょう。
なにしろプレイ中は本来の肉体は眠ったようになって、専用に創られたゲーム世界で遊ぶわけです。実際、彼女達がステージの端に用意されていたソファに腰かけ、スタッフからの指示通りにゲームを起動すると、すぐ眠りに落ちたように全身の力が抜けました。
それに加えてステージ上に登場した男性声優や芸能人が、簡単な挨拶の後で同じようにゲームの中へ。こちらは社外の人間ではありますが、一応メーカー側からの参加者ということになるでしょうか。
彼らには事前にテストプレイをしてもらっており、ゲーム内情報についてもある程度説明済み。自らもプレイヤーとして参加しながら、初プレイで右も左も分からない一般参加者のサポート役や司会実況の役割を担ってもらう段取りになっています。
『みんな無事にログインできたみたいね。それじゃあ、我もあっちに行ってくるの!』
最後にウルもゲームの中へ。
なんとモニターの画面にピョンと飛び込んだら、そのまま抵抗なく液晶をすり抜けてゲームの中へ。今はタイトル画面が表示されているゲーム世界の中から、カメラ目線で会場の見物客に手を振っています。なんだか新作ゲームよりもウル自身のほうが注目を集めてしまっているような気もしますが、それはさておき。
いよいよ、『ブイブイゲームス』の新作異世界双六ゲーム。
その名も『LG・WB ~幼い女神の遊戯盤~』のはじまりはじまり。




