56.幼い女神と新入社員
最新作は実在の異世界をテーマとした双六ゲーム。
とはいえ、流石に惑星を丸々一つそのまま創るわけにもいきません。
『まあ、やって出来なくはないと思うんだけど、我も色々と学んだの。面白いゲームを創るには情報のしゅさせ……しゅしゃしぇん……取捨選択が大事なのよ!』
ただのコピーでは意味がない。
ゲームとして面白いモノにするためには、不必要な情報をあえてカットしてプレイヤーが自然と要点に注目するような仕組みにする必要があるでしょう。
具体的には、見どころがありそうな名所やイベント発生とは無関係な一般の民家や、人里から離れた土地の削除や簡略化。元々、決まったマス目の上を進んでいく双六方式ならば、想定ルート上から離れた視界外の部分は大胆にカットしてしまっても問題ありません。
「はい、ウルちゃん様! 神様達の加護についてですけど、ざっとこんなもんでどうでしょう?」
『ふむふむ……うん! これで問題ないと思うのよ。誰を選んでも不公平がないように、細かいバランス調整は必要だけど』
今作の重要なアピールポイントとなるのが、ウルやその妹達による加護システム。
プレイヤーは立ち寄った街や村の神殿で姉妹神のいずれかを加護神として選択することができ、信仰している神様の種類によってゲーム中で様々な有利効果が発生するという仕組みです。
例えば、豊穣神であるウルの場合は行く先々の土地で食料が豊作になったり。剣神である次女のゴゴなら、魔物との戦闘イベントの際に戦闘力にプラスの補正が付いたり、といった具合。
他にも水を司る妹神に帰依していると船で海マップを移動している時に移動力がアップするとか、治癒神であれば怪我や病気といったマイナスイベントを回避できるなど。姉妹それぞれの得意分野に合わせて、ゲーム中で様々なメリットが得られるようにする予定です。
まあリアル異世界の本物の神様は、特定の一柱に絞らずとも複数の神々からご利益を得ることもできるのですが、そこは創作上のウソというもの。ゲームが面白くなるように、あえて一柱ずつしか選択できないようになっています。
モデルとなった妹神達も、そのあたりの差異については了承済み。
一度決めても後から加護神を変更したりもできますし、信仰した期間が長くなったりお布施の額が多くなるほどプラス効果の量も増大。このあたりの要素で局面に合わせた柔軟な駆け引きが楽しめることでしょう。
「写真を元に妹ちゃん達のイラスト起こしたよー。こんな感じでどう?」
『おー、みんな可愛く描けてるのよ』
「ホントだ。これならそのまま宣材に使えそう。タナカさんの許可出たらSNSに上げてみようか」
姉妹神がキーキャラクターとして登場するのなら、ゲーム内キャラとしての彼女達のモデリングやイラストの出来は、ゲームの評判を大きく左右することになるでしょう。宣伝材料としても大いに有用です。
『別衣装の差分までこんなにあるの! でも、ずいぶん早く描けたのね?』
『われわれ、あしすたんと』
『いろ、ぬります』
「いやぁ、実はそういうワケでして」
どうやらウルにくっ付いて来たらしいのですが、近頃『ブイブイゲームス』社内では『ふぇありぃ王国』の登場キャラクターであるはずの妖精達の姿をちらほら見かけるようになりました。
元々の自分達のゲームでプレイヤーのお手伝いをするだけでは飽き足らず、社内の清掃や書類整理。イラストの作画資料をネットや社内の資料室から探してきたり、ペイントソフトとペンタブを使いこなして回ってきた線画に着色したり背景を描いたり。八面六臂の大活躍をしています。日々締切に追われる世の漫画家が知ったら、是が非でもアシスタントに来てもらいたがることでしょう。
『うーん、でもタダ働きさせるのもアレだし、この子達にもお給料出ないかどうか社長のコスモスお姉さんに聞いてみるの』
「まあ、そっすね。労基が出てくるかは分かんないすけど、気分的に」
元ブラック環境だった『ブイブイゲームス』は、こういう問題に対して非常に敏感なのです。本人達が、もとい本妖精達が好きでやっているとはいえ、相手の無知と善意に付け込んで無賃労働を良しとするなど、仮に労働基準法が許しても社員達が許しません。
人間でもなければ日本の戸籍もないとはいえ、労働には然るべき対価を。
それが血と怨念のインクで記された『ブイブイゲームス』の掟なのです。
◆◆◆
そんなこんなで取材旅行から早八か月。
正式に新入社員として雇用された妖精達の助力もあって順調に開発は進み、恒例の社内でのαテスト、応募者を募ってのβテストも共に完了。テスト環境で上がってきた意見を取り入れての最終調整も無事終わり、いよいよ製品版の発売日を待つばかりとなりました。




