54.幼い女神のワクワク取材
遊覧飛行の後もまだまだ楽しい時間は続きます。
『ブイブイ』一行がお次に向かったのは、いかにもファンタジー世界ならではといった武器防具を扱うお店。店内には剣や槍や戦斧といった定番から、一体どう使うのかも判然としない奇妙な武器までより取り見取り。
『変な触り方をすると怪我しちゃうから気を付けるのよ』
「こっちじゃ美術品じゃなくて実用品だもんねぇ」
ウルが見学先として選んだ店だけあって、店内は清潔ですし客層や店員の質も悪くないようです。いかにも慣れていない観光客といった一行に対しても、嫌そうな目を向けずに親切にあれこれ説明してくれています。
界港近くの街だけあって慣れているのでしょう。
流石に日本語ペラペラとはいきませんが簡単な単語の羅列やジェスチャーでもある程度の内容は理解できますし、それに加えてなんと店員氏が自前のスマホで翻訳アプリを立ち上げて補助的に使っているのだから、ウルの通訳を介さずとも意思疎通に不便はありません。
「もっと高いモンかと思ったけど、意外とお手頃なやつもあるんだな。ええと、日本円換算だと……中古なら剣一本で一万円しないくらいのもあるみたい」
「安いからって考えなしに買っちゃダメだからね。日本には持って帰れないし」
武器の値段というのは、それこそピンキリ。
使い手個人に合わせたオーダメイドだったり、武器そのものに魔法の力が込められた魔剣であれば、それこそ一振りで高級車や家が買えるくらいの値段になることもありますが、使い古された中古品なら一般的な会社員や学生のお小遣いでも手が届く程度。
とはいえ、銃刀法との兼ね合いもありますし、日本へのお土産に買うわけにはいきません。下手をすれば、せっかくお金を出して買った物を帰りの界港で没収されてしまいます。
厳密には、煩雑な手続きや書類の山と格闘することで美術品として合法的に持ち込める可能性もあるのですが、審査の時間や費用も相応にかかりますし、今回は見送るほかないでしょう。
まあウルが一緒にいる限りは、この世界で魔物や悪人に襲われるような危険は万が一にもありませんし、わざわざ護身用の武器を買う必要などありません。
それに、わざわざ買わずとも楽しむ方法はあるのです。
「わはは、似合わねー! コスプレ臭ハンパないな」
「おっとと、鎧って結構重いんだなぁ」
『うん、みんな着替え終わったのね。それじゃあ、はい、チーズ!』
パシャリ、と。
店員氏の持ったデジカメがシャッター音を鳴らしました。
好きな剣や鎧を身に着けての写真撮影。
このサービスが地球からの観光客向けに好評なのです。
通常は日本円換算で写真一枚三千円ほどと結構いいお値段がするのですが、今回はウルの口利きのおかげでそれもタダ。店側としても神様が足を運んだというだけで良い宣伝になるため損はありません。
『お~、よく撮れてるの!』
撮った写真は店内のプリンターですぐさま印刷。
実は地球と繋がる前から写真そのものは存在していたものの、肝心のカメラが職人の手作業により作られていたという希少性ゆえ、一昔前までは実質的に新聞社や裕福な好事家くらいしか自由に写真を撮ることができませんでした。
しかし地球との交流が開始されて以降は、大きく値下がりして一般層にまで普及。プリンターの使用やバッテリーの充電のためには、それなりの費用を支払って電線を引かねばなりませんが、趣味や仕事でカメラを活用する人はずいぶん増えました。
それと引き換えに元々カメラの製作で食っていた職人が割を食って一時収入が落ちたりはしたものの、電気を使わない魔力式カメラの物珍しさや利便性、性能の高さが地球の職業カメラマンやその手のマニアに大ウケ。現在では輸出によって以前より儲けが増しているほどです。
「そういう職人さんの話とかも聞いときたいね」
「個人的には鍛冶師が剣を打つところとか見学したいかも」
『うんうん、みなまで言わずとも我はちゃーんと分かってるのよ』
日本を発つ前にやりたいことや見たいことを各自リストアップしてはきたのですが、やはり現地の空気感に触れると新たな望みがどんどん出てきてしまう様子。
『神殿にいる我から神官のヒトにお願いして、見学を受け付けてもらえそうな工房を探してもらうの。その間にご飯を食べたり、あと、まだみんなと会ってない妹達を紹介したいから神殿巡りもして……そうそう、騎士団の訓練を見学したり、冒険者のヒトにインタビューできるように頼んであるのよ』
こうして並べてみると、かなりのハードスケジュールです。
まだ初日、かつ界港から最寄りの街の中だけでこの忙しさ。これから他の街や国に移動することを考えたら、こちらの世界にいる間はずっと目の回るような日々が続くことでしょう。
ですが、もちろん難色を示すメンバーは一人もいません。
ここまでの短い時間だけでも、ネットや書籍で予習してきた知識とは情報の密度がまるで違います。見聞きするもの全てが新鮮で、創作意欲やインスピレーションは常に刺激されっぱなし。ゲームに限らず、モノ作りに携わる人間にとって、こんなに楽しい時間は滅多にないでしょう。
『それじゃあ善は急げ。みんな我についてくるの!』
「「「おーっ!」」」
この取材旅行はさぞや実り多い結果になるであろう、と。
『ブイブイゲームス』御一行様は早くも確信しておりました。




