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幼い女神の迷宮遊戯  作者: 悠戯
第二章『幼い女神の新たな世界』

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53/62

53.幼い女神の遊覧飛行


 鷲獅子(グリフォン)の背に乗っての遊覧飛行。

 まさにファンタジーの世界ならではといったレジャーです。地球や他の異世界からの観光客のみならず、この世界の地元民からも大変な人気があります。


 性質上、高所恐怖症ならずとも恐ろしさを感じる人は少なくないでしょうが、飛行中は特注の鞍に頑丈な革ベルトで身体を固定するので過去に落下事故が起きたことはありません。

 しいて言えば、街を一望できる高度だと風が強く身体が冷えやすいため、冬場は防寒対策をしっかりしておかないと後で体調を崩すかもしれない、程度でしょうか。



『今日はお願いを聞いてくれて助かったの』


「いいって、いいって。ウルの姉ちゃんが乗ったってだけで売上も伸びるしなー」



 鷲獅子の御者、兼観光ガイドを務めるのは赤茶色の髪の美少年。

 のんびりとした口調で、神様であるウル相手にも気負ったところはありません。

 顔立ちの幼さからしてまだ十一、二歳ほどと思われますが、その背丈はウルより頭ひとつ分以上も高いようです。義務教育が当たり前の日本人からすると意外に思えますが、この世界だとこのくらいの年齢の子供が働いていること自体はそれほど珍しくありません。



「レイル君、こっち向いてー!」


「お仕事終わったら一緒にお茶しましょ!」


「はいはい、今仕事してるから後でなー」



 だから、発着場の周りで黄色い声を上げている少女達は、児童労働の物珍しさではなく純粋に御者の少年目当てで集まっているのでしょう。

 日本に連れて行けばアイドルやモデルにもなれそうな美形ぶりですし、気だるげな物腰も同年代の少女達からは大人っぽい落ち着きとして映るようです。もっとも当の少年本人は大して興味なさそうに、手慣れた風にあしらっていましたが。



「うおっ、でっか!」


「上野で見たゾウよりデカい。コレ、本当に飛ぶの……?」


『きゅるるる?』



 ウルを除く『ブイブイゲームス』御一行様の興味は、やはりこれから乗って飛ぶ鷲獅子にあるようです。鷲の頭と翼にライオンの身体。しかし、そのサイズは普通のライオンを十頭合わせたよりも大きいでしょう。

 どう見ても日本の動物園にいるゾウやキリン以上。

 大の大人をいっぺんに六人か七人は乗せて飛べるといえば、なんとなく想像がつくでしょうか。比較対象としては、陸上動物よりもクジラあたりが相応しいものと思われました。

 この遊覧飛行事業が始まった数年前は今よりも小さかったのですが、成長に伴って何度も鞍を作り直しています。いくら身を低くしてもかなりの高さがあるため、発着場には不慣れなお客が背中まで登るためのハシゴまで常備されているくらいです。



「はい、ちゃんとベルト締まってるねー。これで全員確認っと。じゃ、ロノ」


『くるるるるっ』



 手慣れた様子で乗客全員の安全確認を終えた少年は、自分はハシゴを使わず大きな翼を足場にして背の上に。一番前側の鞍にまたがって安全ベルトを締めると、相棒の鷲獅子に合図を送りました。

 手綱や鞭などは必要ありません。

 声帯の構造上、残念ながら喋ることはできませんが、とても利口なこの鷲獅子は人間の言葉をかなり正確なところまで理解しています。兄弟同然に育ってきた御者少年が一声かければ、それだけでリクエスト通りに飛んでくれるというわけです。



「うわっ……って、意外と揺れないんだな」


「景色すっご! 写真は……デジカメ落としたら危ないし自重しとくか」


『うんうん。我は久しぶりに乗ったけど、自分で飛ぶのとは違った良さがあるの』



 離陸の際にはそれなりに強い衝撃を感じたものの、以降は意外にも安定した乗り心地。翼を無駄に動かさず、上手く風を捉えているのでしょう。



「リクエストはあるー? 無いなら適当に街の周りを一周する感じでいくけど」


『そうね、それでお任せするの』



 幸い、本日は飛行に最適な快晴微風。

 街の東を流れる大河や北方の大きな森までよく見えます。

 河幅が何キロもある大河では漁船や商船が行き交う他、ちょっとした戸建てほどもあるカメの魔物がのんびり日光浴をしていますし、森へと目を向ければ成人男性よりも大きい虫の魔物が木々の間を飛び回っている様子が。後者に関しては虫が苦手らしい女性スタッフが悲鳴を上げていました。



「あのでっかい建物が劇場な。うちの兄ちゃんの嫁さんが歌手やってて、先週まであそこで歌ってたんだー」


「先週までっていうと……え、マジで!? 多分それライブ配信見たよ! 俺、超ファン! 日本で出たCDも持ってる!」


『うんうん、まったく便利な世の中になったの。あ、ちなみにこの辺なら普通にネットに繋げるのよ』



 各地に点在する界港からある程度の距離までという制約はありますが、たとえば現在いる街の付近であればスマホやPCで地球のインターネットに接続することも可能。都市内の宿屋でも高級なところには、Wi-Fi環境や充電設備が整っていたりします。

 ファンタジー世界の風情という点では残念かもしれませんが、そこは利便性を優先した結果ということなのでしょう。流石に数は限られますが、今どきは武器屋の隣にスマホショップが並んでいることだってあるのです。



「あれがカジノで、あっちがウル姉ちゃんの神殿で……っと、そろそろ一周かー」


「えっ、もう? あっという間だったね」


「うん、これは絶対新作のイベントに入れなきゃ!」



 楽しい時間はあっという間に過ぎていきます。

 御者少年の説明を聞きながら物珍しい光景を眺めていたら、あっという間に街を一周していたようです。名残惜しいですが、そろそろ地上に……の前に。


 最後に、ちょっとしたサプライズがありました。



「あれ、何か飛んできてない?」


「本当だ。小っちゃいけど、この子と同じ鷲獅子?」


「か、可愛い……」



 元の発着場に戻る間際、地上から二頭の鷲獅子が飛んできたのです。

 どちらもまだ幼い子供。大きさはゴールデンレトリバーくらいでしょうか。今乗っている成獣の鷲獅子とは比べ物になりません。飛び方もまだあまり上手くないのか、背中の翼をバサバサと力いっぱいはためかせています。



「レノにニノ。父ちゃんの姿を見かけて家から飛んできちゃったかー」


『くるるっ』


『きゅるるる』



 どうやら幼い二頭は一行が今乗っている鷲獅子の子供だったようです。

 親子三頭が並んで空を飛ぶ姿は、なんとも微笑ましいものがありました。






◆◆◆◆◆◆



≪おまけ≫


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
兄ちゃんの嫁 ライブなら希にメタル系とかやっていそう。 火を操れるので 〉本当の炎のライブを見せてやんよ!○タ共 って影響されて、たまに地下でヘビメタやっていたりとか? つまり、けい○○!の某メタル系…
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