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幼い女神の迷宮遊戯  作者: 悠戯
第二章『幼い女神の新たな世界』

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52/62

52.幼い女神の旅のはじまり


 異世界旅行という字面からすると、めくるめく大冒険を想像してしまいそうですが、実態は意外にもあっさりとしたものです。

 エスカレーターの平面版のような動く歩道に乗って、そのまま世界間を繋ぐ魔法装置である『門』を通過します。体感での移動距離は二百から三百メートルほど。これで動く歩道を降りたら、そこはもう異世界です。


 少なくとも要する時間については、飛行機や船で行く海外旅行よりもずっと短いくらい。東京都内からの移動時間ということなら、熱海や軽井沢に行くよりよっぽど早く到着します。それも所要時間の大半は、界港でのパスポート審査や両替になるのではないでしょうか。



「ここが異世界かぁ。なんか、思ったより普通?」


「でも、東京に比べると空気が澄んでる気がしません? やっぱ自動車とかが少ないせいかな」



 いくら異世界とはいえ界港付近は地面も真っ平に舗装されていますし、施設内の運搬用なのか自動車の類も多く見かけます。印象としては飛行機がないだけの空港とほぼ同じでしょう。

 周囲の旅行客と同じように、『ブイブイゲームス』御一行様としても安心するやら拍子抜けするやら。仕事や観光で何度も行き来している人はすぐ慣れるのですが、やはり人生初の異世界行きとあってそれなりの緊張があったようです。



『さあ、みんな! あっちに迎えの馬車が来てるはずだから、我についてくるといいの!』


「馬車かぁ。やっぱ揺れるのかな?」


「もっと馬糞とか匂うもんかと思ったけど、意外とそうでもないね。前にどっかの牧場見学行った時よりずっとマシ」



 界港から最寄りの街までは定期的に乗合馬車の便も出ているのですが、今回はウルのおかげで貸し切りの馬車が来てくれることになっています。



「おや、あの御姿はもしやウル神では?」


「おお本当だ。これは縁起が良い!」


「ありがたや、ありがたや」



 そして当然予想できたことではありますが、地元でのウルの人気と知名度は絶大なものがありました。最近は日本での知名度もかなり上がってきたとはいえ、その熱量は比べ物にもならないでしょう。ちょっと道を歩いただけで、その場に跪いたり手を合わせて拝んでくる人々が後を絶ちません。

 ウルは慣れた様子で彼らに手を振ったりしていますが、その後ろを付いて歩く『ブイブイ』スタッフ達は恐縮しきり。ここで虎の威ならぬ神の威を借りて偉そうに振る舞えるほどの度胸はなかったようです。賢明にも。

 界港前の馬車の停留所で待っていた、見るからに周囲のそれとは一線を画する豪華な馬車に乗り込むまで、彼らの神経が休まるヒマはありませんでした。



「いきなり疲れたー……」


「同感……でも、この馬車もすごいね。リムジンみたい」


「この箱は冷蔵庫か。でも、ケーブルとかバッテリーを入れるトコないし電気で動いてるんじゃないよね? 魔法の道具?」


『その中のジュースとかお酒は好きに飲んでいいのよ。大丈夫、後でお金を取られたりしないから遠慮は要らないの』



 馬車の御者を務めているのは、どうやらウル神殿の神官のようです。

 事前にこちらの世界のウルから説明があったらしく、全員が乗り込んだのを確認すると、わざわざ行き先を問うまでもなく走り出しました。


 馬車の乗り心地は快適そのもの。

 界港から街までの道に関しては丁寧に舗装されているおかげもあるのでしょうが、事前に心配していたような揺れはほとんど感じられません。カーテンを開けて車窓から周囲の馬車を見る限りだと普通はもう少し揺れや振動があるようですから、これは単純にこの馬車が相当に良いものであるのでしょう。


 内装に関しても座席は広々としたソファになっていますし、備え付けの冷蔵用魔法道具の中にはキンキンに冷えたジュースや、恐らくは相当に値が張りそうなお酒の瓶もありました。軽食や果物の用意もあるようですし、映画に出てくるような豪華リムジンの馬車バージョンという表現がピッタリです。



「……まあ、一応は仕事で来てるわけだし? 日の高いうちからお酒はやめとこっか」


「そっすね。あ、それと仕事っていうなら、こういう高級な馬車じゃない普通の馬車の乗り心地もどっかで確認しときたいかも」


「乗り物関係なら、ガイドブックによるとこっちにも電車……じゃなかった。魔力で動く鉄道があるんだっけ? それも乗っておきたいよね。ああそうだ、写真写真! 窓から見える景色を撮っとかないと」



 会社にいた時はあれほど騒いでいたスタッフ達でしたが、いざ本当に豪遊旅行が現実のものになりそうな雰囲気が出てくると、後ろめたさというか場違い感というか、そういったアレコレのせいで何も考えずに遊び惚けるのは意外と難しい様子。

 これも一種の現実逃避なのでしょうか、真面目に仕事に打ち込むことで居心地の悪い超VIP待遇のプレッシャーを忘れようとしていました。何も考えずにジュースをラッパ飲みしてお菓子を貪っているのはウルだけです。



「そういえば、ウルちゃん様。この馬車って今どこに向けて走ってるんです?」


『あれ、言ってなかったかしら?』



 とはいえ、そのウルも頭の中が完全に遊び一色に染まっているわけではありません。ちゃんと実り多い取材旅行になるように、持てる知識とコネを遠慮なく活用して様々な予定を考えているのです。



『ちょっと、そのガイドブック貸してくれる? えっと、あ、これなの』


「え、マジですか!? そりゃ興味はありましたけど、コレ、たしか大人気で何か月も先まで予約で埋まってるって」


『全然オッケーなの。あっ、でも神様の権力で無理矢理言うことを聞かせてるとかじゃないのよ? ここは我の友達がやってるところだから、普通にお願いすれば二組か三組くらいならいつでも融通を利かせてくれるの』



 さて、界港前から走り続けていた馬車がようやく動きを止めました。

 どうやら最初の目的地まで到着したようです。ガイドブックにも数か月の予約待ちが必須と書かれている、この異世界でも滅多に体験できない大人気レジャー。



鷲獅子(グリフォン)に乗ってお空を飛ぶの!』



 巨大な鷲獅子に騎乗しての空中散歩。

 それがこの旅の本格的なスタートとなりました。



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