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幼い女神の迷宮遊戯  作者: 悠戯
第二章『幼い女神の新たな世界』

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46/62

46.幼い女神と小さな住人


 『似十堂』のゲームはその後も毎日絶好調。

 発売前の宣伝時点では伝わりきっていなかったゲームの魅力が、実際に遊んだゲーマー達によって口コミやSNSで拡散され、一時はソフトの品切れや転売も相次いだほどの人気ぶり。ソフトの生産ラインは連日二十四時間体制で稼働していました。


 とはいえ、流石に発売から二か月も経つと、そのあたりの騒動も沈静化してきました。落ち着かないのはゲームの外ではなく内側だけ。『ダンジョンワールド』の時にも多々あったことですが、開発側すら想定していなかった遊び方が広まったり、攻略情報やストーリーの考察が拡散されたり。ネットの攻略サイトやプレイ動画のアクセス数はどこもかしこもウナギ上りである、と。



『ふっふっふ、今のうちに良い気になっているがいいの』



 そんな内容が書かれたネット記事を読みながら、ウルは『ブイブイゲームス』のオフィスでスマホ片手に『菓道』の蒲焼きさん太郎を齧っていました。本物のウナギの蒲焼きとはだいぶ方向性が違いますが、魚のすり身シートに後を引く甘じょっぱい味が染み込んでおり、これはこれで案外捨てたものではありません。


 いえ、今注目すべきは駄菓子よりもウルの余裕の理由でしょう。

 ライバル社の各タイトル発売直後には、嫉妬心も顕わにお汁粉に逃げたこともありましたが、それも今となっては過去の話。『ブイブイゲームス』の新作タイトルの開発が順調に進んでいることもあり、ライバル社が好調であればあるほど倒し甲斐があって面白い……くらいの気持ちになっているのです。



 『ブイブイ』の第二作目は、いわゆる箱庭系シミュレーション。

 プレイヤーはゲーム開始と同時に小学校のグラウンドくらいの領地を与えられ、魔法で召喚した妖精達にあれこれ指示を出して自由な街作りを楽しもう、というのが作品のコンセプト。

 魔法といっても異世界の人々が実際に使う同名の技術ではなく、ゲーム内のメニュー画面から必要な項目を選択するだけなので、もちろん何年もかけて修行する必要はありません。



『休憩終わりっ。さあ、みんなキビキビ働くの!』



 そして、これは嬉しい誤算と言うべきか。

 プレイヤーを補佐する役回りである妖精達、ウルがゲームのために新しく創造した生命体が、思った以上の優秀さでゲームの開発面を大いに助けてくれていたのです。



『今度はあの岩をどかして、そこになんかこう良い感じのカフェを建てて欲しいの』


『はーい』


『りょ』


『かしこま』



 ウルのふわっとした具体性のない指示であっても、それを自分達で良い具合に解釈して上手く形にしてくれます。いちいち開発者用のメニュー画面を介さずとも口頭で言うことを聞いてくれますし、開拓や建築の作業そのものも非常に迅速。作る建物の大きさも彼らの体長に合わせたドールハウスサイズなのが玉に瑕ではありますが。


 それでも内装外装ともに本職の工務店が手掛けたような出来栄えですし、プレイヤーが街を歩き回る時は、魔法使いという設定を活かして妖精と同じくらいの小人に変身できるようになっているので特に不便や不満はないでしょう。



 妖精は持ち前の知能の高さでウル以外のスタッフの指示にも従ってくれますし、メニュー画面の項目から操作すれば、少年型や少女型、羽根あり羽根なしのような容姿の選択・変更も個別に可能。

 ヒト型以外がお好みならば、能力は据え置きのままイヌやネコ、ウサギやハムスターやペンギンといった小動物の姿にすることもできます。

 元々想定していた遊び方ではありませんが、アレルギーや賃貸住宅の規約などといった諸事情で、ペットを飼いたくても飼えない動物好きにも人気が出るかもしれません。



「ウルちゃん様、今日はもう上がりの時間っすよ」


『あれ、もうそんな時間なの? じゃあ、我は帰るけど明日までに言っておいた分をやっておいてね』


『あいあい、まむ』


『ばーい』


『さいなら』



 他でもないウルによってそう創られているとはいえ、妖精達に休みは無用。食べ物も自分達で耕した畑から収穫した作物を勝手に料理して食べるので、お世話の手間もかかりません。

 人の役に立つことが何より大好きな彼ら彼女らは、ウルやスタッフ達が定時で帰宅した後にも自主的に労働を続けてくれるので、ゲーム開発の進捗状況も当初の予定より何倍も早く進んでいます。



「助かるけどさぁ、なんかこう……」


「うん、ブラック企業の経営者になったみたいな気分」


『そ、そんなことはないのよ!? あの子達の自主性を尊重した結果なの!』



 開発が順調に進むほどに制作陣が謎の罪悪感に襲われるという想定外の問題はあるものの、『ブイブイゲームス』第二作目の完成はもうすぐそこまで迫っていました。



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