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幼い女神の迷宮遊戯  作者: 悠戯
第二章『幼い女神の新たな世界』

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39/62

39.幼い女神達の生放送


 『似十堂』の新作タイトル発売当日。

 日本各地のゲームショップや家電量販店には、開店前から長蛇の列ができていました。

 これは『ダンジョンワールド』の時にもあったことですが、『ゲームの世界に入れるゲーム』の必須アイテムである指輪をソフト同梱の形でパッケージに入れないといけないため、昨今のゲームでは当たり前の形式となってきたダウンロード版での販売ができないのです。


 ソフトをダウンロードした購入者に後日郵送するような形も検討されたのですが、結局は二度手間になって面倒が増えるだけ。『ブイブイゲームス』や『似十堂』からも、現状ではダウンロード版の販売予定はないと公式にアナウンスがされていました。



「いやぁ、こんな風にゲームのために並ぶのも久しぶりですなぁ」


「うんうん、これはこれで独特の趣があるっていうかね」



 まあ、そんなわけで熱心なゲーマー達は平日であるにも関わらず、発売当日の朝から行列を作っているというわけで。授業や仕事を休んだりサボったりと、このあたりの光景は昭和のファミコン時代と変わらないようです。

 違いといえばリモートワークがようやく市民権を得てきたこともあってか、待機中にもノートPCやタブレットで何やら労働に励んでいるらしき人物が列の中に増えたくらいでしょうか。情報漏洩の危険性を考えると、不特定多数の前で社用PCを開くのはあまり褒められた行為ではありませんが。



「おっ、そろそろ始まりそう」


「開店前に新情報出るかな?」



 時刻は現在午前八時半。

 開店が一時間後まで迫った秋葉原の大型電気店の前で列を成していた人々は、一斉にスマホの動画アプリを立ち上げました。平日朝というタイミングは変則的ですが、この時間から動画サイトの『似十堂』公式チャンネルで特別生放送をするという告知が事前にされていたのです。


 わざわざ発売日の朝から行列を作るようなゲーマーであれば、当然のようにチェック済み。

 どうせ開店時間までは暇ですし、もしかしたら新作に関する重大な告知もあるかもしれません。こういった反応も当然と言えましょう。




 司会進行を務めるのは、ゲーム業界では有名な『似十堂』の名物プロデューサー。

 過去に何度も似たような役割をこなしてきただけあって、流石に場慣れしています。簡単な挨拶と既出の新作情報のおさらいから始まって、放送開始から五分ほど経過したところでスタジオに招待した特別ゲストの紹介という流れになったのですが……。



「このゲストってウルちゃん様じゃね?」


「本当だ、ありがたやありがたや。朝からツイてますわ」


「あれ、でも一緒に出てきたこの子達は?」



 プロデューサー氏に呼ばれてスタジオに姿を現したのは、ウルとゴゴとモモの3/7ななぶんのさん姉妹。今やゲーマー層に絶大な知名度を誇る有名人、もとい有名神となったウルはともかく、他の二柱は日本ではまだあまり知られていません。知っているとすれば彼女達のホームグラウンドである世界に旅行に行って、その神殿に詣でたことのある人間くらいでしょうか。



『みんな、おっはよう! 今日は可愛い我の可愛い妹たちを紹介するの!』



 『似十堂』からウルに出演依頼が来たのは、つい先週。

 もちろん強制ではなくお願いなので拒否権はありましたし、いわばライバル社に協力する形にもなってしまうわけですが、『ブイブイゲームス』の社内でも相談して、あえて話に乗ることに決めていました。


 これは先日『似十堂』から提供されたα版ソフト、実質上の果たし状に対する『ブイブイ』側からの言外の返答でもありました。勝負はあくまでゲームの面白さで決める。そのための協力なら喜んでする。正々堂々、真っ向から受けて立とうじゃないか……みたいな具合です。



『日本の皆さん、初めまして。我はこちらのウル姉さんの妹でゴゴと申します』


『モモはモモなのです。神様だからと身構えずに、仲良くしてくれると嬉しいのですよ』



 すでに知名度のあるウルに身内として紹介されるか否かで、ゴゴ達に対する一般ユーザーの見方が少なからず変わってくるのは想像に難くありません。『似十堂』に協力しているのは、縁もゆかりもないどこか知らない世界の知らない神様ではなく“あの”ウルの妹である、と。

 こうすれば『似十堂』のゲームへの信頼感や安心感も増しますし、今回のようにメディアを通じてゴゴやモモが活動する際もずいぶんと動きやすくなるはず。ウルからすれば、ちょっとした家族サービスといったところでしょうか。



「ゴゴちゃんの金髪サラサラでお人形みたい……かわよ。一生推す」


「モモ様、髪の毛すっごいな。何メートルあるんだ……あ、髪を触手みたいに伸ばしてジュースとかお菓子持ってる」


「ウルちゃん様、七姉妹だったんだ。他の妹ちゃん達も顔見せてくれないかな」



 その後で先日の『ブイブイゲームス』訪問時のような紹介と協力の経緯を簡単に。

 具体的なゲーム内容とは関係がないにも関わらず、生放送のコメント欄は大盛り上がり。各種SNSにも彼女達の顔を映したスクリーンショットがバンバン貼られ、トレンド欄のランキングでは姉妹三柱の名前がどんどん順位を上げてきています。



「いいなー、幼女の女神様が治める世界。旅行いくらくらいかかるか調べてみよ」


「いっそ住みたいわ。あ~、でもネット通じるかな?」



 視聴者間ではどんどんと話題の脱線が進みつつありましたが、番組内ではプロデューサー氏が熟練の舵取りで話題の方向をコントロールしつつ、新作タイトルの初出情報をいくつか紹介していきました。

 なるべくネタバレを避けて面白さを損なわないように、なおかつ面白そうだと思わせて興味を引くように。ゲーム業界に限らずエンタメ関連全般に言えることですが、この矛盾をどうクリアしていくかに広報担当のセンスが問われるのです。



『あれっ、もう終わりの時間なの? じゃあ、画面の前のみんな「似十堂」の新作と、あと我の「ブイブイゲームス」もそれに負けないすっごい新作を創ってるから、どっちも応援よろしくなのよ!』


『あはは、まあ、そういうことで。ユーザーの皆さんはあまり深く考えずに、好きなゲームを好きなように楽しんでいただければと。では、本日はどうもありがとうございました』


『うふふ、バイバイなのですよ』



 そうして一時間の生放送は終了。

 現在時刻は午前九時半。秋葉原の大型電気店も開店の時間を迎えていたようです。

 権能が使われたわけでもないのに待ち時間中に期待感を一段と“強められた”ゲーマー達は、走らないよう注意する店員の声を受けながら、早歩きでゲーム売り場を目指すのでした。



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