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幼い女神の迷宮遊戯  作者: 悠戯
第一章『幼い女神の迷宮遊戯』
3/62

03.幼い女神と共同制作


 落ち物パズルの世界を創って消した数日後。



『――――ということがあったのよ』


「なるほど、そういうことがあったのですな」



 都内某所の高層マンション。

 ウルの住処に、とある知人が訪ねてきていました。


 見た目上の年齢は二十歳前後の若い女性。

 長い銀髪に、どこか人工的な印象がある銀色の瞳。あまりにも容姿が美しく整いすぎていて、ある種の畏怖すら抱かせるほどの美人です。ほとんど変化することのない無表情がその印象に拍車をかけています。

 もっとも、自ら手土産として持参したはずの『ミスタードーナツ』のポン・デ・リングを、早食い競争でもしているかのようにモリモリ食べている様子でだいぶ台無しになっていましたが。



『我はエンゼルフレンチ……ううん、やっぱり一周回ってシンプルなフレンチクルーラーが今の推しね。次は百個くらい買ってきて欲しいの!』


「承知しました。ああ、そうそうウル様。ちょっと冷凍庫を貸していただけますか? 前にネットで見たオールドファッションを凍らせるやつを試してみたいもので。もちろん二つありますのでご安心を」



 本物の神様の会話にしてはあまりにも俗っぽい内容ですが、それについては今更でしょう。一応、神様として出るところに出る時はちゃんと外面を整えているので、今のところ問題になったことはありません。いつか問題になったとしても、その時はその時です。



「ふむ、しかし先程のアイデアには見るべきものがあるかと」


『アイデアって、ドーナツを凍らせるやつ?』


「いえ、そちらではなく。それはそれで素晴らしい発想ではありますが。神の権能で限りなくリアルなゲーム体験を、というほうです。実にバ……天才的な独創性にあふれておりますな」



 さて、ここからが本日の主題です。

 ウルが創って失敗したゲームの世界。

 それ自体は失敗だったものの、その発想と能力は大変に利用しがいがある……もとい、大いなる可能性を感じたと、女性はそう口にしました。



『そ、そう? いやぁ、やっぱり我もそんな気がしたっていうか~』



 なんともウルの操縦法を熟知している話の運び方。

 根が素直で褒められたがりの彼女は、こうして話の合間合間におだてておくと、明らかな悪事などでなければ上手く使われてくれるのです。



「ああ、しかし残念です。先程のお話によるとウル様は一度の失敗だけでもう懲りてしまわれたのでしたっけ。まさか偉大なる女神の一柱であらせられるウル様が、たった一度の失敗に臆して手を引くなどということがあろうとは……」


『はぁ~、誰がビビッてるの!? 我はそんなこと言ってませんけど~?』



 ついでに少々の煽りを入れてモチベーションを高めるという応用テクニックも存在します。こちらは加減を間違えると拗ねてやる気をなくすので扱いが難しいのですが、どうやら今回は成功したようで。



『前はちょっと失敗しただけなの。我が本気を出せば成功間違いなしよ!』


「おお、よくぞ仰いました。察するに、前回の失敗はそもそものジャンル選択を誤っていたのが原因でしょう。リアルに体験することに向いているジャンルを選ぶだけでもかなり違うのでは?」


『奇遇ね、我も今それを言おうと思ってたの。向いてるジャンルっていうと、やっぱりRPGとかかしら?』



 ウルが本当に同じ意見を言おうと思っていたのかはさておき、最初のジャンル選択を見直すというのは順当な改良案でしょう。

 五感で体験することで楽しさが上がりそうな分野というと、まずはウルが挙げたロールプレイングゲーム、他には格闘ゲームやガンシューティング、推理アドベンチャーなど事件現場にいるような臨場感が楽しめそうです。



「ここはやはり定番から攻めていくのが定石かと」


『となると、ファンタジーRPGね! 魔物モンスターがいる世界を冒険者になって探検したり、魔王とか勇者が出てくる感じの』


「ふふふ、つまり我々の地元みたいな感じということで」



 まだまだゲーム世界の創造に不慣れなのはウル自身も認めるところ。比較的イメージしやすい世界を、ゲーム向けの仕様に寄せるくらいのほうがやりやすいはずです。



「どうやら、前回の失敗は設定の詰め方が甘かった点にあるようで。今回はしっかり設定を作り込んでから実際の世界を創るようにいたしましょう」


『うん、頑張って考えるの。主人公は自分達だから……街の人のプロフィールとか、世界の歴史とか。そのあたりの作り込みが重厚な世界観に繋がるって前にインターネットの人が言ってた気がするの』


「なるほど、インターネットの人が言っていたのなら間違いはありますまい。せっかくゲーム風の世界なのですから、システム面も考えましょう。そうだアレやりましょう、アレ。『ステータスオープン』って言ったら自分のステータスが見えるやつ」


『ああ、アレね! やっぱり、お約束は守らないといけないの!』



 こういった設定を考えるのはとても楽しいもの。

 二人は大学ノートのページに街の住人一人一人の詳細なプロフィールや、これから新しく創る世界の壮大な歴史的背景、その世界の内部で機能するシステム関係のアイデアを次々と書き留めていきました。


 が、それが今回の失敗の元。

 こうした設定を考えるのはとても楽しい。

 けれど、いくら神とはいえ相変わらずゲーム制作に関してはズブの素人なのです。思いついたアイデアを片っ端から詰め込んで、果たしてまともなゲームが完成するかどうか。あえて言うまでもないでしょう。



『ふぅ、いっぱい考えたわね。それじゃ、このノートを元になんとなく良い感じの世界を創って……っと。よし、完成よ!』


「カップ麺よりお手軽ですね。ところで、行き来はどのように?」


『ああ、そうね。それじゃあ、チョチョイのチョイっと。そこの机の引き出しを開けたら、今創った世界に繋がるようにしておいたの。』


「ふふふ、なにやら、SFすこしふしぎな風情を感じます」


『じゃあ、我が先に入って問題なさそうならコスモスお姉さんも来てほしいの』



 さて紹介が少し遅くなりましたが、ウルを唆していた銀髪美女の名はコスモス。出生の経緯やら所属やらについては今回の件と特に関係ないので端折りますが、とにかく面白いことが大好き。無駄にあり余っている能力・財力・権力のほとんどをイタズラや悪ふざけのために使う変人とだけ理解していれば問題ありません。


 今回もまず間違いなく失敗するのを分かった上で、あえて邪魔をすることなくウルの創世を見守っていたのです。




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