実食!『初』三輪そうめん体験記
2012年8月某日、私は奈良駅にいました。この日は10時から奈良市内某所で用事があったのです。ただ、夜行の高速バスで朝5時過ぎに京都に着いたので、現在の時刻はまだ7時にもなっていません。
少々腹が減ってきましたので、飯でも食おうかと思ったのですが、果たしてこの時間にまともな店が開いているでしょうか?
ファストフードやコンビニなら開いているでしょうが、せっかく奈良に来たんだから、名物を食いたいものです。
そこで、はたと気が付きました。
……はて?
そもそも奈良の名物ってなんでしょう?(失礼!)
奈良漬け? そんなにたくさん食う物ではありません。
茶がゆ? ゲル状の物体(※偏見)ではなく形がしっかりした米が食いたいです。
柿の葉寿司? 美味いけど、駅弁で売ってるものをわざわざ?
鹿せんべい? 無茶言うな! アレ不味いんだよ‼︎
三輪そうめん? アリ! うん、決定!
折しも季節は夏。夏と言えばそうめんの季節です。三輪駅まではそこそこかかりますが、まだ7時前だし、余裕はあります。それに、店が開いていなかったとしたら、『大神神社』でも参拝してくれば良い話です。夏休みの観光地ですから、流石に8時を過ぎれば開く店もあるでしょう。
すぱっと三輪行きを決断した私は、桜井線ホームに駆け込むのでした。
用があるのは奈良市街なのにもかかわらず(笑)
三輪駅は結構鄙びた感じの駅でした。ただ、駅前の商店街はきちんと機能しているようで、流石は門前町といったところです。
案内に沿ってしばらく歩くと、すぐに商店街は終わり、清浄な雰囲気が感じられるようになってきます。
そして、立派な鳥居(二の鳥居)をくぐると、ここからは下界から隔絶した『神域』の趣が感じられるようになります。流石は最古の神社です。
参道にある摂社に参ったり、「夫婦岩」を見たりしながら進み、石段を登ると……! ありました。拝殿です。
大神神社の祭神は大物主様です。そして、大物主様が鎮座する山として、三輪山全体を神として祀っています。ですから、大神神社には、神そのものである三輪山を拝むための拝殿はあっても、本殿は存在しません。これは、神道の古い形態を現在に伝えるもので、大変貴重なものです。
ご神体である三輪山には許可を得れば登ることが出来ます(※注:当時の話。2023年3月現在、新型コロナウイルスのため登拝受付停止中)。しかし、案内によれば、2時間はかかるらしいとのこと。まだ8時前とは言え、10時に予定がある身としては、登拝は流石に無謀です。登拝口だけ拝んで、戻ることにしました。
それでも、まだ8時にもなりません。せっかくですから、数百m離れた、摂社『檜原神社』も参拝していくことにします。ちなみに、行こうと思ったきっかけは、漫画家の『熊倉隆敏』さんが、作品『もっけ』の主人公の苗字の由来にしたという話を聞いていたからなんですけどね(笑)
檜原神社は、伊勢神宮の前身の1つとされ『元伊勢』の異名が付けられています。(※注:京都府宮津市の籠神社など、他にもいくつかあります)。
そして何よりも凄いところは、大神神社にもある拝殿すら存在しないことです。三ツ鳥居という神域と現世を分ける境界を通してご神体の磐座を拝むという、より古い信仰の形が残されているとされています。
終了時刻が決まっているため非常に急ぎ足の参拝でしたが、帰り道には大和盆地を見下ろす展望所もあって、非常に満足な寄り道となりました。
そして、とうとうお待ちかねの三輪そうめんです。
10年も前のことですので、どの店で食べたのかは忘れてしまいましたが、私が入った所は、普通の食堂みたいな店構えだったように覚えています。
本当は、もっとそれっぽい店で食べたかったのですが、朝8時台では、観光客向けの店は開いておらず、しかたなく、1軒だけ開いていた食堂に入りました。
その店、見た目が普通の食堂でしたので、まったく期待はしていませんでした。朝から何も食っていませんので、この時点では、コンビニ飯や惣菜パンではないまともな飯があるならどこでも良かったのです。それでも流石は本場です。カツ丼やカレー、ざるそばなどと並んで『三輪そうめん』の文字が!
(ここは大衆食堂、味に期待は出来ない)
(でも、来たからには食さねば)
(この後も長いし、腹に溜まるものの方が……)
こんな葛藤はありましたが、ここで食べなければ、次はいつ食べられるか分かりません。
そうめんにしては高いと思いましたが、「これは観光地価格だ!」と腹をくくって、注文することにしました。
さて、食べた感想はこれです。
……今、口にしているコレが『そうめん』だとしたら、今まで俺が食っていたものはなんだったのだろう?
初めて食べた三輪そうめんは、ゆでられて膨らんでいるいるはずなのに、めっちゃ細い。この段階では乾麺の状態が想像できなかったくらいです(※後で見たら針みたいな細さでした)。しかも、本当に糸のように細いのに、きちんとコシは残っている。
飲んで良し、噛んでよし。驚きの連続です。
そうめんには『○○の糸』って、名前が付いていることが多いです(※特定の商品をディスっているわけではありません)。この三輪そうめんが『糸』だとしたら、よくそこいらで見かけるアレらは『紐』もしくは『綱』でした。それくらいの差を感じます。
すっかり感動した私は、おかわりまで注文し、満足して店を出ました。そして、10時の予定に間に合わすため、9時過ぎの電車で再び奈良に向かったのでした。
手には商店街で大量に買った『三輪そうめん』の袋をぶら下げて。
今も定期的に取り寄せてます。