第二十五話 体育祭第一種目『借り物競争』
はあ……来たか〜。皆の目が「っしゃ!やったるで!!」とか「ちょっと今のうちに走っとくか!!」とか「今日の応援合戦頑張ろ!」とかなってる中、俺だけ「父親来んのかよ…」とか思ってた。
正直気が乗らない。父が「頑張れ翔太〜!!」とか遠くから応援とかされないことを願っている。
「どしたの?元気なさそうな顔して」
「綾瀬さんか、いや今日父親が見にくるんだってさ」
「え!良いことじゃん!!私も挨拶しに行こうかな?」
「いや急に綾瀬さんが『いつもお世話になってます』とか言っても意味わからんて!」
「でもいつかはそうなるでしょ」
………………ビビった〜。危うく変な意味で捉えるところだったぜ。多分綾瀬さんが言いたいのは、「みなっちと会ってたらいずれみなっちのお父さんとも会うよね!」って言いたかったんだろうけどその言い方は危ないです!!
「あ、そろそろ開会式だよ。いこ!」
「う、うん」
校長の話なげ〜…
「今日は雲ひとつない青空ですね。皆さんの頑張りを十分に発揮して—」
もうこんなテンプレのセリフ何回聞いたことか。耳にタコできるどころか住んでるくらいのレベルだろ。
脳内でそう突っ込みながら、話を聞くこと15分…
やっと終わったよ、マジなげぇ……
その後はプログラム通り準備運動を行い、全校生徒が各団のテントに着く。
終わって少し時間が空く。その間に俺は裕也と喋っていた。
「今のでHP4,50%くらい持ってかれた気がするわ」
「はえーわ。もう50%とか燃費悪すぎるやろ」
「太陽光のせいで余計に持ってかれるんよな」
「ソーラーパネル背中につけて発電しながら動けば?」
「んな無茶な!」
電気で人が動いたらそれは人じゃねぇよ!
そろそろ第一種目の『徒競走』だな。
見た目は110mしか走らなくて楽そうに見えるがいざやったら大分キツいんだよなー。全力疾走って意外とやらんし。
次々と走者が「バンッ!」という音と同時に走り出していく。
頑張ってんな〜…って!のんびりしてたら、もう俺が出る『借り物競走』じゃん!
「走り終わるまでにバテんなよ翔太」
「ほんまそれ。マジであり得そうで怖いわー」
なんか急に自信無くなってきた—
「あ、みなっち!頑張ってね!!」
前言撤回。あぁ…気力がみるみる回復していく……今ならなんでもできる気がするぜ!!!
「うん、行ってくる!」
ふっふっふ…今の俺は今までの俺とは違う!なんせ綾瀬さんが応援してくれたからな!!スピード1.5倍くらいにはなってるに違いない。当たり前だが、1〜4組で団が分けられているため4人で走る。俺と一緒に走る人は、陸上部,野球部,俺,文化部(っぽい人)である。控えめに言って絶望しかない。3位が妥当だろうな—
いや違う!今の俺は今までの俺とは違う!(二回目)
しかも綾瀬さんが遠くから手を振ってくれている!!……これが俺に向けてるものじゃなかったら恥ずすぎるけど!
「綾瀬さんが手を振ってくれている…」
「マジ!?やるしかねぇな!!」
「デュフフ………」
皆綾瀬さん1人で張り切りすぎな…人のこと言えんけど。あとさりげにキモい奴が居た気がするが放っておこう。デュフフって現実で言ってる奴いるんだな。(何を素直に感心してるんやろ)
あとお題っていう運ゲーも絡むから脚力だけで順位は決まらなそうだし。
そうこうしていると、遂に自分の番が来た。前に行けば行くほど緊張してたけどいざレーンに立つと…いややっぱ緊張するわ。
「いちについて!よーい、どん!!」
うるせぇ!そのバンッ!ってやつ真横で聞くとうるさ過ぎる!!と走りながら突っ込むワイであった。
ルールは簡単。借りるものが書いてある紙まで走ってお題のものと一緒にゴールする、ただそれだけ。
走った先に、陸上部と野球部が先に紙を持って走っている。
残っている2枚のうち一枚を開く。
『自分より背の低い人』
……………は?思い当たる人、んー…誰だ??俺そんな背高くないし。
そうなると男子より女子の方が…女子にどう話しかければ良いんだよ!!最悪だ、最悪のお題を引いたかもしれん。
取り敢えず緑団のテントまで走る。
……全員知らん人だ、どう話しかけよう。
「あのー、」とか言って「は?」って返ってくることを想像すると胃が痛い。
「すいません、俺より背の低い人探してるんですけど…」
そういうと、1人の女子が「ここにいっぱいいんじゃん」と一蹴する。それを聞いた他の女子は爆笑する。やばい、このノリついていけねぇ…完全にアウェイなんですけど—
「あの!私でよければ!!!」
1人の女子が立ち上がりながら言う。
「え?あ、ありがとう。じゃ、行こうか」
「う、うん…はい」
「え?」
女子が差し出した手を見る。…どゆこと?なんで手をこっちに—
「借り物競走ですし、手を繋ぎながらゴールするのが一般的じゃないんですか?」
「あ、そっか…なるほどね」
そんなひとくだりがあった後、名前も知らない女子の手を握る。え?!女の子の手ってこんな柔らかいのか!?しかもちっちぇ…!ラノベのこういう表現、今なら分かる。マジで共感できるわ。
………ただの借り物競走で女子の手を繋ぐなんてイベントがあるとは…ありがとう神様!(これはキモい)
そうして走り終えた順位は2位だった。後ろ2人のお題が見えた—
『片想いしてる人』
『最近知り合った友達(異性)』
おい誰だこれ作った奴、出てこいや!(急な高田○彦風)
最悪じゃんこれ。危なかった…一個は綾瀬さんでも探してこれは良いだけだけど、もう一個おい。俺はゴールしているため外野で見守る。
「あの!俺、あなたの事が好きです!!」
「わ、私も…」
はいここに新たなリア充が爆誕しましたおめでとう。
………片想いじゃないからやり直せ!!(泣)
「あの…」
「ん?」
「手……」
「あ、ごめん!」
全然気づいてなかった。ゴールした後も手そのままだったわ。よく見るとこの子、可愛くね?なんでそんな子が協力してくれたのかは知らんけど。
「協力ありがとう」
「いえ…私が気になってたから……」
小声になってたので思わず聞き返す。
「何が気になってたの?」
「え!?い、いやなんでも!!じゃ、私はこれで」
えぇ…なんか知らんけど避けられた。まあ言いたいこと言えたからいっか。
僕の学校でもこういうイベントあったなぁ…と思い出しながら書きました………自分にはなかったけどね!!!(泣)
『片想いしてる人』とか引いたことないけどマジで可哀想と思うわ。
自分の友達がまるっきり同じ事になってて、いつも保健室にいる先生に「好きです!!」ってでかい声で堂々と言ってるの書いてて思い出した。
体育祭、青春だなぁ…




