12.世界の罪
「花嫁の望む通り、まずは母のもとへ」
数回の呼吸の後に、地面に足がついた。彼は飛ぶ前に言った通り、確かに丁寧に飛んでくれた。あとはこちらの慣れの問題なのだろうとひとつ呼吸をこぼす。
母のもとへ……それはかつて彼から聞いた"常春の国の一番清い場所"だった。夜だというのに空は澄み渡るように青く、花は美しく咲き乱れている。小川には清い水が流れていた。感嘆の声が漏れそうなほどそこは美しいのに、少し先の広間に彼女がいることだけはすぐに分かった。オベロンは呪いは弱まっていると言っていたけれど、それでも彼女が世界のすべてにとって毒であるということは容易に見て取れた。
「怖いかい?無理をしなくてもいい」
「……いいえ、行くわ。今会わなくてはいけないの」
オベロンは心配そうに私の顔を覗き込んだけれど、それ以上止めようとはせずに、私の手を取って歩き出した。
彼女は水晶の棺の中で静かに眠っていた。オベロンと同じ黄金の髪は美しい花とともに編まれ、胸元には花冠が置かれている。朱がさした頬も赤い唇も彼女が世界にとっての毒であることを否定しているようなのに、身にまとう雰囲気がそうではないことを証明している。きっと常春の国の妖精も、オベロンも彼女を愛している。だから彼女は永き眠りの中にあっても美しいままなのだ。神話の国の時代から、彼女は死にながら、その憎悪のまま生き続けている。そばに代えがたい愛があるというのに。
「ティターニア様、私はオベロンを幸せにします。あなた様が彼に与えた愛以上の愛を彼に与えます。そうしてあなた様にも」
小さく詠唱し魔力を編む。これは初めてオベロンに教わった花を生む魔法だ。白い百合を数本生み出し、彼女の棺の中に収める。当然ながら返事はない。周りの呪いが薄くなるということもない。ほんの少しだけ、傲慢にも自分によって彼女が救われるのではないかという望みはあっけなく消え去った。
「どうかあなた様の呪いが、いつか消え去りますように。そうしていつか、安らかに眠れる日が来ますように」
オベロンが肩を抱く。私はもう一度だけ彼女のことを見つめてから、彼の手を取った。
「ティターニア様はいつか救われる?」
「ああ、きっと。その時彼女は本当に死を迎え、そしていつか生まれ変わって来るだろう」
世界の終りのほうが早いかもしれないけどね、とオベロンはいつものように笑って言った。
「さあ、結婚式は明日だ。この前も言ったけどお節介な妖精たちが待っているよ。ドレスも靴もアクセサリーも、腕のいい妖精が用意しているんだ」




