女子高生、雫澄
「なんで?ひどいよ……」
夜の雨に打たれながらとぼとぼと、あたしは街を歩いていた。
持っているのは、名前の欄に雫澄と書かれた県立日那高校の生徒手帳だけ。
家を追い出されたのが午後の9時だけれど、今が何時でどれくらい歩いたか確かめる術は無い。
スマホもお財布も持たないまま、家から放り出されたのだった。
理由は単純で、この定期テストを間近に控えているこの時期に勉強をしていなかったから。
うん、確かに悪い。
分かっているけど、それにしたってこの雨の中、外に叩き出した理由が分からない。
親、特に父親は、あたしの事を理解してくれる素振りなんてなかった。
好きな歴史本を何度、勝手に捨てられたか分からない。
家で本を読めなくなったあたしは、仕方ないから学校や公立図書館で読んでいた。
だけど、今回はそれをやりすぎたってことらしい。
でも、門限は破ってないし、買っていた本の代金だってバイト代から迷惑のかからない範囲で自腹。
何にも家に迷惑、かけてないのに。
『こんな役に立たない無駄なことに、時間とお金をかけるな!』
そう言われて、帰った途端に叩き出されちゃった。
雨に打たれて頭冷やして反省しろってことだけれど、そんなの無理。
何で自分の好きを、こんなにも簡単に否定されたのに『はい、そうですね。あたしが悪かったからもう止めます』って受け取らなくちゃいけないんだろう。
ふざけないでよ!って反骨心より、どうしてっていう戸惑いがあたしの頭をぐちゃぐちゃに乱していた。
この時間だからお店はどこもやっていないけど、コンビニに逃げ込めば制服がぐっしょりになるほど濡れなくていい。
でも、あたしはただ茫然と雨に打たれて街に中をさまよっていた。
それはまるで、自分に『こんな悪い事したんだから仕方ない』っていう罰を与えているみたいだった。
* * *
歩き疲れたあたしは、たまたま見つけた神社のお堂の軒先に座り込んでいた。
ちょっと人気が無くて怖いかもしれないけど、逆に言えばここは神様仏様に守られてる場所。
そう思うと、少しだけ安心できた。
制服は雨でぐっしょりと重くなり、セミロングの黒い髪からはぽたぽたと滴が垂れている。
「歴史は、役に立たないか……」
不意に、父親に怒鳴られた言葉がフラッシュバックする。
歴史を知ることは、本当に役に立たないのかな?
先人の人達に想いを馳せ、どんな想いや事柄が積み重なって今があるのかを知る。
それは、本当に役に立たないんだろうか。
確かに本の中の人達はもうこの世にはいないし、当時の考えは古い。
今の世の中に、そのまま持ってこられる筈はない。
でも、本当にそうなんだろうか。
彼等彼女達が一瞬一瞬を一生懸命に生きて、繋いできた歴史を知ること。
その中で今生きるあたし達が学べることだって、沢山ある筈。
あたしはそういうことを知る事が楽しいのに、どうして分かってくれないんだろう。
「あうっ……?」
突然、あたしの身体が熱くなり、あたしはべちゃんと倒れこんだ。
戸惑ってる内に、なんか急に体が動かなくなった。
「何、これ……どうしたの?」
え?勝手にお堂に入ったのはバチ当たりだから死ぬの?
何も悪い事なんて、してないのに?
でも、どんどん体の熱さは強まっていって呼吸もできなくなっていく。
ああ、死ぬんだ。
でも死んだら、親も邪魔な子がいなくなるって、喜んでくれるかも。
なら、いいや。
どうせ死ぬなら、そうだな、あたしの大好きな戦国時代に行って、自分の目でどんな時代か確かめたいな。
途切れる意識の前、あたしが願ったのは今考えるとバカみたいな願い事だった。




