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短話集 禊  作者: 怪童実篤
9/9

パワハラロボット

 ロボットは動きを止めた。

 「早ク、コノ仕事ヲシナイカ。ドウシテ、コンナコトモ、デキナインダ。」

 今やこのロボットが私の上司というわけだ。私がここに就職した時はよかった。人間の上司がいて、すごくよくしてくれた。以心伝心で仕事が捗ったものことを思い出す。しかし、今やこのロボットが私の上司というわけだ。冷酷で傲慢なこの上司だ。私があくせくと資料を集め、見積もりを出していると同期が声をかけてきた。

 「オッ、ヤッテルジャナイカ。ドウダ、今日、飲ミニイコウ。」

 どこからか、ロボット、ト人間ガ、同ジモノ、食エネエダロとの声があがった。ロボットたちは大笑いだ。こいつもかつての同期とは違う。かつての同期はこんな嫌味ったらしいロボットじゃなかった。気軽に同じ釜の飯を食った。しかし、前の同期は体を壊してしまったらしく、しばらく職場に来なくなった。まだ見ないうちに私はこの部署に移動になった、。そいつとはそれ以来会えていない。あの頃が恋しい。あの同期が恋しい。周りは人間ばかりで、ロボットなんて数台しかいなかったあの頃が恋しい。しかし、今は違う。周りには私以外ロボットしかいない。ロボットの方が優秀だからだ。こんなに難しい仕事は人間にはできっこない。

 私はヘトヘトになって、家に着いた。ロボットの仕事ぶりは早い。追いついていくのもやっとで、サッサッと動くものものなので目を回した。帰り際、ヘトヘトな私の近くに、傲慢な上司が喚いていた。

 「ナニ、今日モコレダケシカデキナイノカ。持チ帰ッテヤレ。多少無理シテモ、死ニャシナイ。」

 なんともまぁ傲慢なことだ。上司はロボットだから死にゃしないが、私は人間だ。体力の限界というものがある。ロボット風に言えば、充電切れだ。コロって眠りこけてしまうではないか。そう残った仕事をしながらぼんやりと回想した。そうしていると、仕事もひと段落ついたので寝床の上で眠った。

 しかし、あまりにも現実は無常だった。 

 「ミス、多スギダ。コンなノジャ、ツカエナイ。モウ一度ヤり直シテこイ。」

 ミスだった。傲慢な上司はあまりにも非情。人間の私には情けなどかけてくれない。私が同期たちよりよく仕事ができるからって1人ロボットの職場に移されたが、やはりこんなもんなのだろうか。人間だけの特別な席に戻って、ため息をつく私を見て同期がこう言った。

 「イヤァ、ミスが続クねェ。タメ息も、出スヨウニなったのか。」

 そんな嫌味しか叩かない同期は無視をして、ミスを訂正した。上司に見せると反応が返ってきた。

 「なんだ、やればデキるじゃなイか。始めカラやれ。コノ野郎。」

 私の怒りは頂点に達して、とうとう、こいつを破壊してやろうと思った。まず、右手を挙げた。すると、目の前が真っ暗になった。


 「部長。このロボット全然使えませんね。5回も充電落ちしましたよこいつ。」

 「うむ、そうだな。最新型のAIを積んでるのにな。直って欲しいもんだ。」

 「あ、部長。昨日新しくバージョンアップしたらしいですよ。でも、ミスしてましたよね。あんま変わってねえんじゃないですか。」

 「いや、今日はミスをすぐに、しかも正確にカバーしていたぞ。」

 「まじすか。てっきりため息をつく機能が増えたのかと。」

 「ふふ、お上の方針で来たロボットなのだ。そんなことあるわけないだろう。」

 「それもそっすね。最初は意思疎通すらできなかったですもん。進歩してます。」

 部長がロボットを席の充電器に指しといてくれと言うと、2、3人がやってきてロボットを充電器に座らせた。特別の充電用の椅子と机だ。他の2人がロボットのラボを点検しにいったようだ。

 「しっかし、あいつらから見て僕たちどう見えてるんですかね。クマでしょうか。やっつけられちゃいますよ。」

 「そんなことはあるはずないだろう。危害を加えようとしたらセーフティが動くのだから。」

 2人が仕事に戻ってしばらくして、ロボットは目を開けた。あたりを見回して、その目を部長へ向けた。ロボットは書類を渡しにいった。部長がもうこれは確認したじゃないかと言うと、ロボットは戻っていった。周りの人間並の早さで仕事をこなしている。かすかにその口元が下がった。ロボットの中で何かが蠢いている。

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