パワハラロボット
ロボットは動きを止めた。
「早ク、コノ仕事ヲシナイカ。ドウシテ、コンナコトモ、デキナインダ。」
今やこのロボットが私の上司というわけだ。私がここに就職した時はよかった。人間の上司がいて、すごくよくしてくれた。以心伝心で仕事が捗ったものことを思い出す。しかし、今やこのロボットが私の上司というわけだ。冷酷で傲慢なこの上司だ。私があくせくと資料を集め、見積もりを出していると同期が声をかけてきた。
「オッ、ヤッテルジャナイカ。ドウダ、今日、飲ミニイコウ。」
どこからか、ロボット、ト人間ガ、同ジモノ、食エネエダロとの声があがった。ロボットたちは大笑いだ。こいつもかつての同期とは違う。かつての同期はこんな嫌味ったらしいロボットじゃなかった。気軽に同じ釜の飯を食った。しかし、前の同期は体を壊してしまったらしく、しばらく職場に来なくなった。まだ見ないうちに私はこの部署に移動になった、。そいつとはそれ以来会えていない。あの頃が恋しい。あの同期が恋しい。周りは人間ばかりで、ロボットなんて数台しかいなかったあの頃が恋しい。しかし、今は違う。周りには私以外ロボットしかいない。ロボットの方が優秀だからだ。こんなに難しい仕事は人間にはできっこない。
私はヘトヘトになって、家に着いた。ロボットの仕事ぶりは早い。追いついていくのもやっとで、サッサッと動くものものなので目を回した。帰り際、ヘトヘトな私の近くに、傲慢な上司が喚いていた。
「ナニ、今日モコレダケシカデキナイノカ。持チ帰ッテヤレ。多少無理シテモ、死ニャシナイ。」
なんともまぁ傲慢なことだ。上司はロボットだから死にゃしないが、私は人間だ。体力の限界というものがある。ロボット風に言えば、充電切れだ。コロって眠りこけてしまうではないか。そう残った仕事をしながらぼんやりと回想した。そうしていると、仕事もひと段落ついたので寝床の上で眠った。
しかし、あまりにも現実は無常だった。
「ミス、多スギダ。コンなノジャ、ツカエナイ。モウ一度ヤり直シテこイ。」
ミスだった。傲慢な上司はあまりにも非情。人間の私には情けなどかけてくれない。私が同期たちよりよく仕事ができるからって1人ロボットの職場に移されたが、やはりこんなもんなのだろうか。人間だけの特別な席に戻って、ため息をつく私を見て同期がこう言った。
「イヤァ、ミスが続クねェ。タメ息も、出スヨウニなったのか。」
そんな嫌味しか叩かない同期は無視をして、ミスを訂正した。上司に見せると反応が返ってきた。
「なんだ、やればデキるじゃなイか。始めカラやれ。コノ野郎。」
私の怒りは頂点に達して、とうとう、こいつを破壊してやろうと思った。まず、右手を挙げた。すると、目の前が真っ暗になった。
「部長。このロボット全然使えませんね。5回も充電落ちしましたよこいつ。」
「うむ、そうだな。最新型のAIを積んでるのにな。直って欲しいもんだ。」
「あ、部長。昨日新しくバージョンアップしたらしいですよ。でも、ミスしてましたよね。あんま変わってねえんじゃないですか。」
「いや、今日はミスをすぐに、しかも正確にカバーしていたぞ。」
「まじすか。てっきりため息をつく機能が増えたのかと。」
「ふふ、お上の方針で来たロボットなのだ。そんなことあるわけないだろう。」
「それもそっすね。最初は意思疎通すらできなかったですもん。進歩してます。」
部長がロボットを席の充電器に指しといてくれと言うと、2、3人がやってきてロボットを充電器に座らせた。特別の充電用の椅子と机だ。他の2人がロボットのラボを点検しにいったようだ。
「しっかし、あいつらから見て僕たちどう見えてるんですかね。クマでしょうか。やっつけられちゃいますよ。」
「そんなことはあるはずないだろう。危害を加えようとしたらセーフティが動くのだから。」
2人が仕事に戻ってしばらくして、ロボットは目を開けた。あたりを見回して、その目を部長へ向けた。ロボットは書類を渡しにいった。部長がもうこれは確認したじゃないかと言うと、ロボットは戻っていった。周りの人間並の早さで仕事をこなしている。かすかにその口元が下がった。ロボットの中で何かが蠢いている。