都合のいい女
「私は彼氏にとって都合のいい存在やわ。」
この上のなく、不貞腐れた顔で彼女はいった。彼女は最近彼氏さんといいかんじではないようで全くもって面白くないらしい。
「私、いつもいつも気を遣ってるん。彼氏が仕事疲れてるかなって思ってるから大体のことは大目にみてるん。でもな、私が電話すると切る癖に、自分は電話かけてくるんよ。夜中に。」
彼女の頭には火がついているようで、それはそれはこの上のないお怒り具合だ。どうどうとなだめるので精一杯に近い。
「電話したとしてもな。うんしか言わんだりすんのよ。でもな、相手が話したいことはめちゃめちゃ話すんさ。やれどのアイドルがいいとか、やれどの同僚がかわいいだとか。ちっとも私のいうこと聞いてくれへんの。」
あぁ、なんて可哀想な人なんだろう。彼氏に足蹴に扱われる彼女に同情の念を抱く。彼女はいつのまにかその唇を噛んでいた。そして、野獣のような眼光が光る。
「極め付けはな。この前2人でカフェに行ったんよ。んで色々と話してたんやけども。いや、違うわ。私がずっと聞いてたんや。職場の愚痴とか色々と。」
彼女はとうとう白く甘いミルクセーキを不貞腐れたように飲み干してしまった。ストローの音がかすかに鳴る。私は頃合いだと思ってコーヒーを飲んだ。苦い。
「でもな。最後にやで。最後に、会計の時になったんさ。んでな、彼氏がな。職場の飲み会で金ないから払ってていうんさな。信じられやへん。私のが給料低いのに。流石に帰りは送ってくれたけどさぁ。納得できやん。」
それもそのはず彼女は高校を卒業して一年目の社会人だ。彼氏は大学を出て5年目の社会人。一方、私はまだ大学一年生だ。すごいなぁ。
とうとう彼女の怒りの虫も駆除されたようで最後には全く憑き物が落ちたかのように大人しくなった。なぜカフェでこんな話をしているのかと聞かれればこうだ。
よく集まる私たちだが電話で話したい時もある。先日はこうだった。最近いいことがあったので彼女には電話をしようと昼頃に電話をかけた。三度のコールの後にプツッと電話が切れてしまった。まぁ仕方ない。彼女も働いてから日が浅い、土日といえども仕事で疲れているだろうから大目に見てあげよう。それから夜中になると唐突にスマホの通知がなる。バイブルの音がベッドを伝って私の腕は伝わる。彼女からだった。
「もしもし。聞いてよ。この前のクレーンゲームあるよな。結構頑張ったのに取れへんだから、今日とってきたんさ。しかも2個。あげようと思うんやけど。」
午前の話をする私の心は弾む。
「うん。」
「それでね。今度スキー行こうと思うんやけど。どう。滑れないかな。」
運動神経のない彼女だきっと滑れないだろう。
「うん。」
「おっけー。じゃあ教えるから来てくれるかな。」
ノリのいい彼女だきっとくるはず。
「うん。あっそうだ。このルックスのいいアイドルよくない。歌も上手いし、踊りもできるんさな。BAKっていうグループなんやけどさ。」
「すごいやん。めっちゃ踊るし、めっちゃ歌う。」
とまぁこんなふうに話して、話があっちこっちいってるうちにカフェで話をすることを彼女が提案してきたわけだ。
そして今こうして彼女の身の上を聞いていたわけだ。
時間は流れてもう店を出ることになった。彼女は私に会計を頼んだ。その際に彼女は初年度は給料が低いそうで私に払って欲しいと言っていた。もちろん私は快く払った。それに車で彼女を家まで送ってやった。疲れている彼女を歩いて帰らせるなんてとんでもない。
彼女は最後にこう言うのだった。
「いつもありがとう」
いかがでしたでしょうか。彼女の話から聞くに彼氏からの扱いはぞんざいでしょう。彼女と彼氏の関係性から見ると彼女はよく扱われてはいません。それを都合のいいと思う彼女の意見は否定はできません。しかし、彼女と私の関係性から見ると彼女にとって私は都合のいい存在でしょう。彼氏に対して彼女が言っている内容と私に対する彼女の態度を照らし合わせてみてください。彼女は彼氏と同じどころか足としてまで使っています。誰に対しても思いやりを持って接したいものです。