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ガム山ガム男  作者: 土魚円
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第6ガム「困っている人」

 ガムが大好きな少年の松井義影は、ガムの神様から魔王を倒すように言われ、「ガムの代理人」として「イング界」に旅立った。

 そこで同じく「壁の代理人」のコレットと協力関係になった。コレットは自分と同じく「状態異常」の「トランスモード」持ちである。同じ状態異常持ちだからこそ、どちらか片方が「トランスモード」の予兆が出たら、片方が止めようと約束した。



「でもコレットさん、両方とも一斉にトランスモードになったらどうするんです?」


「あー、そっか、でもまあそんなことにはならないんじゃない?」


「そうかな……」


「そうだよヨシカゲ」



 二人は協力関係となった。



———



「ヨシカゲ!これ見て!」


「ただの石にしか見えないですけど……もしかして壁ですか」


「そのとおり、よくわかったね!これは昔この森に住んでいた人たちが築いた壁の跡なんだよ。すごく貴重なんだ。その人たちについては、まだ分かっていないことが多いらしいのね。ちゃんと調査したら、この森でどんな生活をしていたのかが、わかるかもしれないんだ」



 義影とコレットは、スゴクの森の中を歩いていた。ハジメの町で騒ぎを起こしてしまった義影は、町へ謝りにいこうとしている。その謝罪にコレットも一緒に来てくれるのだ。

 コレットは今のようにこの森の壁を見つけるたびに、足を止めて解説してくれる。



(本当に壁が好きなんだな……)


「あっ、そうだ、急がないとね。ちゃんと謝りにいかないとね」


「本当にいいんですか。コレットさんも一度騒ぎを起こしたんですよね。立ち寄りづらくないですか?」



 義影はひとりで謝りにいこうとしたがコレットは仲間だから一緒に行くという。



「いいのいいの。ひとりよりふたりの方が心細くないでしょう?」


「でも……」


「もう気にしないで。私より町の人のことを気にしよう……あれ?」



 コレットは何かに気づいた。また新しい壁でも見つけたのかと思ったが違った。コレットの気にしている方向には、木にぶら下がっている中年男性がいた。しかも木の枝に片方の足だけを器用にひっかけてバランスを保っている。



「なんだろう、あの人……なにをしているんでしょうか?」


「サーカスの練習とか!?」


「こんな森で?」


「分からないから質問してみよう、すみませーん」



 義影とコレットが男性に近づくと、中年の男性も二人に気が付く。男性は慌てたように手をブンブンと振る。



「はいはい、こんにちは、私はコレット……」


「ち、違う!こっちに来るんじゃない!早く逃げるんだ!」


「え?」



 すると突然、コレットが足から引っ張りあげられた。



「うきゃあ!?」


「コレットさん!?」



 つりあげられたコレットの足は、木の枝にピタリとくっついた。コレットも中年の男性と同じく逆さづりの状態になった。



「うぅ、びっくりしたぁ……あ、おじさん。私もサーカス団の仲間いりしました~、よろしく」


「違うわっ!ここには隠れ蛇がいるんだっ!!」


「隠れ蛇……!」



 隠れ蛇。魔族の蛇。人の目には見えない。

 その特性を利用して人にいやがらせをする。公共の場にゴミを散らかして去っていったりする。どんなイタズラをするかは蛇のその時の気分次第と考えられている。しかし人に危害を加えることもあるので放置できない存在。



「なるほど。コレットさんとおじさんの足が枝にくっついているように見えるのは、蛇がそこに巻き付いているからか……隠れ蛇は群れることもあるからな、もしかしてここにいるのも一匹だけじゃないのかな」



 義影は手のひらからガムを出す。そのガムは足元へと落ち、義影を中心に周囲に薄く広がっていく。すると広がったガムの一部がグニグニと動く。どうやら何かがガムにくっついたようだ。



「ひっかかったか蛇。「ガムの巣」に」


「ほんと!?確かにそこらじゅうモゾモゾしてる、こんなにいたんだね」


「……ガム?」


「すぐそちらも助けます」


「……!?」



 話についていけない中年男性をよそに、義影は両手からガムを一つずつ出す。そのガムはそれぞれコレットと中年男性の足元へ向かって伸びて、木の枝に二人の足を縛り付けている蛇にくっついた。



『シャーーッ!!!!』


「わっ、ビックリしたあ!?」



 蛇の叫び声が響く。

 義影が蛇に貼り付いたガムを思いきり引っ張ると、蛇が引き剥がされたのだろう。拘束されていたコレットと中年男性は木から落下する。



「うわああああああ……むぐっ」


「すみません。さっき敷いた「ガムの巣」をクッションがわりにしたんですが。怪我はないですか?」


「大丈夫だよヨシカゲ、メルシー」


「私も問題ありません……ありがとう」


「じゃあ……ガムを丸めて……」



 「ガムの巣」と「ガムの鞭」を一つの包み紙にまとめる。するとそのガムから、ボンボンと煙があがった。これは魔物が消滅したときに起こる現象だ。どうやら捉えられていた隠れ蛇たちを倒すことができたようだ。



「とりあえずこの一帯の隠れ蛇は全部倒したと思うんですが……一応離れましょう。僕の元を離れないでください。ガムで常に警戒してます」


「わかった、離れないよ!」


「はい」



 義影たち三人は、スゴク草原へ抜けるように歩いている。義影がガムで警戒しているので、魔物に奇襲をかけられることはない。



「こうやって「ガムのレーダー」を出していれば心配ありません。たとえ見えなくても、レーダーに教えたものが近くにいれば、反応して対象の場所を割り出せます」


「ほえ~ガムってすごいんだね」


「でしょう?」



 コレットにガムの凄さを知ってもらい、誇らしい気分になる義影だった。ガムのことを褒めてもらえるのはうれしい。



「聞いたこともない変わった魔法を使う人ですね。でもありがとう君たち、本当に助かりましたよ」


「どういたしまして。いや私は何もしてないか。でもおじさん、こんなところに一人でいたら危ないですよ。ハジメの町の人なんだろうけど……なんの装備もせずにきちゃだめ」


「そういう君たちはハジメの町の住人ではないね。冒険者ですか?」


「はい、そんなものです。松井義影といいます」


「コレットです、よろしくお願いします。好きなものは壁です!」



 義影とコレットは「代理人」とは言わないようにした。神様から極力自分の身分を隠すように言われているからだ。「冒険者」で通すことにした。



「私の名前はマルクスと言います。おっしゃる通りハジメの町の住人です。危なくても私にはやらないといけないことがあるんだ」



 マルクスと名乗った男性はやはりハジメの町の住人であった。義影とコレットは向き合って頷きあった。そして……



「すみませんでした!!」


「え……?」



 突然二人から土下座をされてマルクスは困惑する。どういう言葉をかけていいのか分からないようで、しばらく考え込み、そして数秒経ってから言葉を発した。



「とりあえず顔をあげてください。どうされたんですか、謝られるようなことをされた覚えがありませんが……」


「実は……」



 義影は自分がしたことをマルクスにすべて話した。閉店間際の時間帯に来店して、その店に売っているガムをお金が許すかぎり買いまくったらしいこと、色々と迷惑をかけたこと、などをすべて話した。そして今からその店に謝りにいくことも。



「そうですか……でも私はその迷惑をかけられた店の者ではないですし、正直突然謝られてもという感じです」


「……そ、それもそうだねヨシカゲ……」



 きっぱりと言われてしまった。義影は町の人全員に謝りたいと思っていた。だが確かに関係のない人にまで謝ってまわるのは、逆に迷惑かもしれない。



「失礼しました……」


「いえ、こちらこそ。よく見たらそちらのコレットさんは存じてます。ハジメの町で有名人ですからね。ハジメの町の壁の材質とか年月とかを事細かに解説してたという……」


「えへへ、照れますね」



 少しだけ顔を赤くするコレット。ハジメの町でトランスモードになり、そのことが知れ渡っているのは本当のようだ。しかしマルクスは義影の起こした騒ぎは知らない様子である。とすると最近旅にでて、それ以降ずっとハジメの町に帰っていないということなのか。



「それよりマルクスさん?やらなくてはいけないことって何ですか?困っていることがあったら力になりますよ。ね、ヨシカゲ」


「そうですね……こちらから話を切っといてあれですが……気になってました」


「……」


「マルクスさん……?」



 マルクスは急に険しい顔になる。その表情から深刻な事情があるのだと察した義影。黙ってマルクスの話に耳を傾ける。



「実はですね、娘が魔物に攫われてしまったのです」


「!」


「この先にある、スゴク洞窟に棲む魔物にさらわれて……娘を返してほしくば金を寄こせと言われてね……」


「脅迫……ですか」


「はい、しかもその要求額はとんでもなく、とても自分一人が支払えるようなものじゃない」



 魔物もそういうことをするんだなと義影は思う。そうやって人間を脅すようなことをしている魔物は特に見過ごせない。義影とコレットは再び向き合って頷きあう。



「ハジメの町で迷惑をかけた人たちごめんなさい、目の前の困っている人を助けます。そのあとにすぐに謝りに行きます」


「私も助けます!」


「……ありがとうございます」



 義影とコレットは、マルクスに協力することになった。


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