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ガム山ガム男  作者: 土魚円
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第4ガム「出会い」

「なんだー、私の叫び声を聞いて助けにきてくれたんですね。いい人ですね、ありがとうございます」


「いえお構いなく……大丈夫でしたか」


「ケガはありません!」



 ガムが大好きな少年の松井義影は、突然女性の叫び声がしたので、助けるためにそこへ向かった。しかしその女性が自分で魔物を倒したため、義影の出る幕はなかった。

 大きな声でのんびりと喋るブロンド髪の女性は、さっきの大声は確かに自分が叫んだものだと答えた。「イング界」で初めて出会った人間だが、普通に意思疎通ができた。



(言葉は日本語が通じるって聞いたから普通に喋ったけど、本当に問題ないようだ……)



「いやあ、ずーっとあっちの方に良い壁があったのでね、じっくり観察していたらね、いきなりあの石頭がきたの。びっくりするよね。で、その壁が壊されそうになって思わず大声あげちゃったんだ、こんなところまで聞こえてたとはごめんね。うわ、探検服すっごく汚れちゃってる。ていうかここは草以外なんもないね」


「壁……?そうだったんですか、災難ですね……その壁って大切なものなんですか?」


「見る!?」


「いえ、ごめんなさい。急いでいるので…」



 かなり食い気味にこられたので、義影は顔を背けて断る。

 今はハジメの町へ到着するのが大事だ。その女性はすごくションボリしていて、少し罪悪感がわいたが、野宿をするのは勘弁したかった。



「でもそうだね、私も早く帰らないと。そろそろ暗くなりますからね」


「ハジメの町ですか?」


「いえ違います、この近くに私だけの寝床があるのですよ。名付けて「幸せ空間」っていうんですけど…」


「……?この近くに寝泊まりできる場所なんてなかったはずですけど……余計なお世話かもしれませんけど、魔物がうろついている場所に一人で寝泊まりするのは危なくないですか。きっちりした町にいたほうが」


「いや……私にかかれば問題ないのですよ!なんならここでもこうして……」


「!?」



 女性が地面に手をかざすと、二人の周囲を囲むように四枚の壁が現れた。四方を塞いだその壁は、義影の身長の倍以上高く、とても飛び越えられそうにない。そしてあっという間に蓋をするように頭上にも壁が敷かれ、女性と義影の二人しかいない密室が完成した。真っ暗で何も見えない。



「ね?」


「ね?って?」


「いやでも、ここは魔物のドンドンダッシュが酷くて、安眠できないだろうからやめよう、なしなし」



 彼女がそう言うと、周りを囲んでいた壁たちが一瞬にして消える。


 「イング界」には魔法が現実にあると聞いた。義影の「チュー界」だと創作の中だけのものとされているが、ここではひとつの技術として認知されている。

 しかし使用できるのは限られた人間だけと聞いていたので、いきなりその魔法が使える人と出会って義影は驚いた。思わずため息をついてしまう。



「すごい魔法でした」


「まあ……借り物なんだけどね?君と同じですよ?」


「え?」

 

「私は君と同じ「代理人」なんです。「壁の代理人」コレットです、よろしく」


「壁の代理人……!?」



 そう言われて義影はカバンの中に入れているガムの神様から貰った「説明書」を取り出す。その説明書は青く光っていた。この反応は確か……



「たしか「代理人」同士が出会うと、説明書が光る…」


「そう、だから君も「代理人」と分かったのですよ。私の説明書もギャンギャンと光っていますし……というかどうやったら止まるんですかね、これ。お互いを「代理人」と認識したら消えると思ったのにいつまでも主張してきて……ちょっと嫌ですね。夜寝る前には消えてほしいです」


「……」



 コレットと名乗った女性は、肩に提げているカバンから分厚い本を取り出して、こちらに見せてくる。その本も義影と同じように青く光っている。表紙のデザインが少し違うが、義影の持つ「説明書」と同じものなのだろう。

 義影がガムの神様から「ガムの代理人」に任命されたように、コレットも神様から魔王を倒すように命令を受けた「代理人」ということなのか。



「どうです?ウチの壁でも……見に来ませんか?」



---



 義影はスゴク草原を抜けて、スゴク森の中を歩いていた。目的地のハジメの町からどんどん遠ざかっている。コレットの薦める壁を見に行くことにしたためだ。



(でも野宿決定かな……)



 本当はハジメの町へ行きたかったのだが、偶然自分と同じ「代理人」と出会った。魔王を倒すために協力できるかもしれないと踏んだ義影は、予定を変更してコレットの誘いに乗ることにした。



「とうちゃくー。ここですよ、中に入ってくださいねー」


「……これが、壁ですか?」


「はい、私の自慢の壁でつくった、寝床の「幸せ空間」であります。すごいでしょ、こんなすごい壁、元の世界にいたら生きてるうちにお目にかかれなかったよ」


(違いがわからない)



 コレットのいう幸せ空間。一軒家くらいの建物だった。

 だが外見は家と言えるようなものでもなく、とても大きな立方体にしか見えない。先程スゴク草原で閉じ込められた密室と同じ作りなのかもしれない。見る限り、入り口どころか窓すらない。



「さあ中へ入ってねー」


「あ、はい、でも……どこから?」

 

「ああそうか、よっと……こうすれば入られるんだよ」



コレットが壁に近づくと、壁に人一人分通れるくらいの穴が開いた。



「!」


「任意の相手が近づくと、こうやって自動で開いてくれるの。人物認証する壁なんだよ、すっごいでしょ。もう君のことを覚えさせたから入れるよ」



 義影が壁に近づくと、そこも自動で穴が開いた。

 人物認証する壁。コレットが「壁の権能」で作った壁なのだろう。自分の世界にはない性能を見た途端に、この立方体がとても優れたものに見えてきた。



「それ以外にもすごいんだこの壁。見て、暗くないでしょ?発光してるの、電灯いらずなんだよ、すごい便利。あとね、断熱性遮音性耐久性にすぐれていてそれはもうすごいの壁なの。いつも壁へのリスペクトを忘れず、作っております」


「……本当だ。すごく多機能な壁なんですね」



 コレットの壁の説明に関心しながら建物の中に入る。中には最低限の家具しかなかった。間取りもされておらず、広い閉鎖空間といったほうが正しいかもしれない。



「えへへ、私は「壁の代理人」なので……すごい壁で区切られた空間をつくることはできても、立派な家はつくれないから……」



 義影の思っていることを察したのか申し訳なさそうにするコレット。ちょっと露骨に見渡しすぎたかと義影は反省する。



「いえ、こちらこそすいませんでした。壁とかも素人の僕でもすごいってわかりますし……これでガムさえあれば、もうここに永住できるレベルです……!」


「ガムだけで?それは無茶な…」



 とりあえずそのことは置いといて、コレットは自分のリュックやカバンを床におろすと、義影をソファに座るよう促す。義影がソファに座ると、その横にコレットも座った。



「あらためまして、私は壁の神様から世界を救うように言われた「壁の代理人」のコレット……コレット・ショーソンと言います、よろしくね。あ、そういえば君の名前まだ聞いてなかったね、あと何の代理人?」



 コレットはマイペースに喋りたおす。そして小首をかしげて、こちらに会話を振ってきた。自己紹介を返すタイミングをつかめないでいたために、ちょうどよかった。



「松井義影です。よろしくおねがいします。えっと「ガムの代理人」です」


「ヨシカゲ、ね。それでヨシカゲは……ガム!?びっくり予想外!」


「ガムは世界を救うのに重要なピースなんですよ」


「なるほど?なるほど……なる?」



 コレットはガムについてよく分かっていないようだ。ガムのすごさについて熱弁したくなってきた。そうすればきっと分かってくれるはずである。だがその前に気になることが一つあった。


 義影は自分以外にも「代理人」がいると聞いていなかった。ガムの神様はそのことを説明してくれなかった。なぜ説明してくれなかったのか疑問だ。


 しかし「代理人」が複数いるのは心強い。コレットの「壁の権能」も大きな力を有していることは分かる。義影が今から相手にするのは、ガムの神様でさえ手に負えなかった魔王だ。できるだけ協力者は欲しかった。



(っ、考えがまとまらない……そういえば、さっきからガム食べてないな……)


「同じ代理人として……」



 色々考える義影に、コレットは急に真面目な声で話しかける。そして手を差し出してきた。



「協力しないかヨシカゲ?いっしょに、魔王を倒そう」



 義影はコレットから仲間にさそわれた。


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