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ガム山ガム男  作者: 土魚円
3/6

第3ガム「ガムの代理人降り立つ」

『では説明は以上じゃ』


「はい!」



 ガムが大好きな少年の松井義影はガムの神様から、これからの冒険に必要となる知識をたくさん教えてもらった。絶対に覚えきれない量だから説明書もくれた。


 説明教室となったこの場所は、義影の世界である「チュー界」とガムの神様の世界の「イング界」を隔てる時空の壁の中ということもわかった。



『この説明書はなくすなよ。いろんなことが載っている。ここから儂は手伝えないし、再発行もできんぞ』


「神様が直接動き続けると魔王に動きを察知されやすいからですね、おぼえてます」


 今から義影は旅に出る。「イング界」に現れた魔王を倒して、平和の世を取り戻す。不安もあるが、ガムの力があれば乗り越えられると考えていた。



「そうだ。父さんと母さんにはよろしくお願いします」


『もちろん。このガムの精霊が其方の代わりになる。心配は一切させぬ』


『ガ…ガ…ガ…!』



 丸いガムの身体をしているガムの精霊は、ぐにゃぐにゃと形を変え始め、義影と一寸たがわぬ姿になった。


『義影さん、留守は僕に任せてください。家族に心配はさせません』


「……」


『説明でも言ったが、其方は「ガムの権能」を使った「時空超え」をしてはいけない』



 「時空超え」とは、ここに来る時に、フーセンガムが空間を破った技のことである。

 あの時はガムの神様の補助があったから成功したが、それ無しで使ってしまうと、最悪時空が修復不可能になる。繊細な操作が必要になる高等技のひとつなのだ。気軽に使うことは推奨されない。

 もし雑に時空を開けると、魔王が気づいて「チュー時空」も即標的になる可能性がある。



『旅立つ前に挨拶していくか』


「いやいいです。会ったら逆に名残惜しくなって、旅立てなくなりそうですし…ただガムの精霊にお願いしたいことがあって」


『なんでもお申し付けください』


「豆腐、買ってから帰宅してほしい。言いつけられていたの、忘れてたから」


『了解しました』



 義影は寂しさをぐっとこらえる。

 男はいつか独り立ちしなくてはいけないのだ。これくらいで泣いている場合ではない。


『……よし、ガムの神より命ずる!「ガムの代理人」松井義影よ!ガムの力をもって世界を救うのじゃ!』


「はい!「ガムの代理人」!男・松井義影!いきます!」



 目の前の光へ向かって走る。

 これより魔王を倒すための冒険の始まりだ。



「……っ」



 光の先は一面の草原だった。見渡す限り草原であり、それ以外は何もない。晴れた青い空が広がり、心地よい風が吹いている。とても魔王に侵略されている世界とは思えない和やかさだった。



「着いた「イング界」……ここは、スゴク草原か」



 義影はガムの神様から、壁を抜けた先がどんな場所か知らされていた。

 ここから北に進めばハジメの町に着く。ガムの神様にはそこでいろんな準備をするように言われた。



「ガム」



 呪文を唱えると手のひらからガムが出てくる。

 義影は「ガムの権能」を譲渡されたことにより、自在にガムを出すことができるようになった。そして出したガムを食べると



「ガムのコンパス」



 再び呪文を唱える。

 「ガムのコンパス」とは「ガムの権能」のひとつ。ガムが伸びてコンパスの針のように北を指し示してくれる。これは調合されたガムが一定の方角へ伸びる習性を利用したものである。

 まだ人類はこの習性をもつガムを開発していないため、ありえないと言うかもしれないが、ガムの神様ができるというのだからそうなのだ。

 実際できている。義影の口の中からガムが細長く飛び出して、北の方角を指し示し続けている。



「よし、あっちか。行こう」



 ある程度の説明を受けたとはいえ、ここは未知の世界だ。情報収集や下準備は絶対必要である。野宿は避けたいので、今日の寝る場所を早く確保しないといけない。今日中にはハジメの町に到着しておくべきだ。


 あと新しいガムを買っておきたい。ハジメの町まで歩いて移動するのだが、きっとその途中で買ったボトルガムはなくなってしまうだろう。一日でもガムがないのはきっと耐えられない。

 ガムの神様に質問してこの世界でもガムは普通に売られているようなので安心している義影なのであった。



「ん?」



 目の前の草がガサガサと動く。自分の膝くらいまである草で隠れているが、動物でもいるのだろうか。だが義影の予想は外れた。

 草に隠れていたのは、草だった。ミミズのような体をした草の魔物がウネウネと顔を出した。



『シーーーッ、ギュルグルグルルル!!』


「これは……魔物だっ!」



 義影は戦闘態勢に入る。ここに来てすぐ魔物との戦闘になるとは予想外だった。あらためて本当に危機的状況なのだと思い知る。

 草のミミズは口を大きく開いた。義影を食べるつもりなのかもしれない。



「そうはいくかっ!「ガムの鎧」!!」



 手のひらからガムをたくさん出して全身を纏う。

 このガムの鎧はガムの弾力性と耐久性を特化させた先進的ガムである。どんなものもほぼ通さず弾き返す。「チュー界」で売り出されたら噛み応えのあるガムが好きな人に人気が出るだろう。



(準備万端だ!このまま食いかかってきたら、弾き返して地の果てまで飛ばしてやる!)



 だが草のミミズは義影の方には向かわず、近くの雑草をムシャムシャと食べ始めた。



「……」



 どうやら義影のことはどうでもよかったのだろう。義影への襲撃が目的ではなく、食事中だったのだ。そのまま遠くへ行ってしまった。



「……まあ……戦いは起こらないにこしたことはないか」



 このまま町に着くまで、平和に事が運べばよかったが、そうはいかなかった。



「ダレダーーー!!」


「!?」



 草のミミズが草を食べ散らかした跡に、「食べ残し許さないマン」が現れたのだ。人型で全身緑のタイツを着て、棘の付いたこん棒を持っている。そして非常に怒っている。



「貴様か……食べ散らかしたのは……」


「違います!」



 食べ残し許さないマン。人型魔物の一種。

 たとえ謝っても食べ残しをしたものを殺そうとする。誰かが食べ残しをしたところに現れる魔物。出没地域は非常に広い。対策は食べ残しをしないこと。

 


「問答無用!死ね!!」


 食べ残し許さないマンはこん棒を義影にたたきつけようとしたが、しかし… 



「!?」



 そのこん棒は「ガムの鎧」に弾かれる。手ごたえがないどころか、自分の攻撃が弾かれたことに食べ残し許さないマンは不可解な顔をする。まさか義影のような子どもに自分の攻撃が弾かれるとは思わなかったのだろう。



「今度こそ戦闘になるかもな。でも俺にはガムがついている。だから負けない、怖くない。そしてガムを食べ残しはしない。最後の一滴まで食べつくすよ」


「死ね!」


「言葉は通じないか」



 食べ残し許さないマンは、義影の言葉に耳も傾けず、再び攻撃を仕掛けようとした。

 もはや言葉による平和的解決は無理であると悟った義影は、もう一つの「ガムの権能」を発動する。



「永遠のガム」



 義影は手のひらからガムを飛ばして、食べ残し許さないマンの口へ放り込んだ。



「ムゥウッ!?」



 食べ残し許さないマンは与えられた食べ物を必ず完食するのが信条だ。

 たとえ食べ残しをした罪人からの施しでも食べる。そしてガリガリとガムを砕く。そして噛み続ける。甘い味が口の中に広がる。また噛んだら甘い味が広がる。そして噛む。いまだに味が広がる。そして噛む広がる噛む広がる噛む……。



「よし」



 食べ残し許さないマンは、このままガムを噛み続けるだろう。

 義影が食べさせたガムは、いくら噛んでも味が無くならないガムである。それを食べた者はいつまでも噛み続けてしまい、やらなければいけないことも忘れてガムの味を楽しみ続けてしまう。


 こうして相手をしばらく行動不能にする技が「永遠のガム」である。

 味が無くならないガムという人類の希望を実現したものなのだ。その希望すら、ガムの神様にかかれば実現するのである。



「本当にこんなガムができるなんて……いつか人類はこのガムにたどり着けるんだろうか…」



 貴重な体験をさせてもらえていることの喜びに震える。


 だが今は、急いでガムを噛み続けるだけの存在となった食べ残し許さないマンのもとから離れて、ハジメの町へと進まなければいけない。

 ここに居続けると「永遠のガム」の効果から解放されて動き始めるかもしれないし、第二、第三の魔物がやってくるかもしれない。


 そしてさらに歩き続けること一時間。あれから魔物には遭遇していない。



「……まだ見えないなぁ…」



 ハジメの町までまだ距離がある。空が薄暗くなっている。もうすぐ日が暮れるのだろう。

 なによりスーパーで買ったボトルガムがなくなりそうなのである。ガムがなくなったら一気に疲労が押し寄せてきて歩けなくなる。常にガムは持ち歩いておきたい。



「できるだけ日が沈むまでに町に着きたい。急がないと……」


「うあああああああああああっ!」


「……!?人の叫び声!?」



 突然女の人の叫び声が聞こえた。義影は周りを見渡すが人の影は見つからない。相当遠くにいるのだろうか。魔物に襲われているのかもしれない。



(いくら急いでいるといっても困っている人を見捨てちゃ、神様にも、父さんにも母さんにも顔向けできないぞ!)



 叫び声のした正確な方向は分からないので、とにかく義影は周囲を探しまわる。

 すると、ガンガンと何かを叩く大きな音が聞こえてきた。義影がその音のもとへと走っていくと、頭がすごく大きな人が、四角の立方体へ思いっきり頭突きをしていた。



「っ!?」


「ンダ!フザ!ヨベ!」



 頭突きをしている大きな奴は、よく見ると人ではなかった。大きな頭はゴツゴツした石の塊だった。八本もある足で地面を蹴って突進している。

 これは「石頭」という魔物だと義影は断定した。石を手に持っている生き物をみると自分が石頭だと馬鹿にされた気がして襲うという魔物だ。


 だが襲われている女性らしき姿は見当たらない。これは先程の叫び声とは別の騒動なのだろうか。それともすでに…?



「もうっ……いい加減にしてください!!」


「危なっ……!」



 急に声が聞こえたと思ったら、空から大きなコンクリートの壁が降ってきて、石頭を押しつぶした。



「ア…ソ…ナ…」



 コンクリートの壁に圧し潰された石頭は力尽きるように動かなくなり、煙を巻き上げ消えてしまった。コンクリートの壁が魔物を倒した。

 そして石頭に頭突きされていた四角の立方体のうち一面が倒れる。中は空洞になっていたようで、そこからブロンド髪の女の子がでてきた。



「ええっ!?」


「よいしょっと、やっと出られるよ……って、うわっ…!?……ん?」



 義影は予想外のことに身構えた。女の子も義影がいるとは思わなかったのか身構えた。

 お互い身構えあう。



 義影はイング界ではじめて人と出会った。

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