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ガム山ガム男  作者: 土魚円
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第2ガム「ガムの神様」

 ガムが大好きな少年の松井義影は、フーセンガムが破った裂け目の中に引きずり込まれた。

 目を開けると真っ暗だった。ガムの新たな可能性の発見に興奮したためか、引きずり込まれた時に頭を打ったためか、しばらく眠っていたようだ。



「ガムッ!!」


 

 カバンの中をゴソゴソと探るとボトルガムの手ごたえがちゃんとあった。どこかに落としていなかったようで義影は安心する。

 そして自分をここに引きずり込んだフーセンガムはもう口から離れているようだ。暗くて見えないのでわからないが、口の周りにガムがある感触はない。


 ひとりでに膨らんで、空中を暴れまわり、しまいには空間を引き裂いた現象。

 あれらは一体なんだったのだろうか。


 すべてがガムに秘められた未知なる可能性なのだろうから、しっかりと考えて、調査して、実証していきたい。

 だがその前に…



(ここほんと暗いなー…どっちがどっちかもわからない……)



 そこらじゅうを手で探ってみるが何もない。光が届かない何もない場所なのだろうか。

 それはさすがにまずいと思う。純粋に怖かった。一刻もはやくここから離れて、元の場所に戻らないといけない。



「どっちへ行けば、ここから出られるんだろうか……」



 何も見えないために方向感覚もつかめない。おまけにどの方向からきたかわからないときた。なにか、明かりを灯すものがあれば…



「そうだ、スマホの光に頼ろう。どこにあったっけ」


『なにっ』


「えっ?」



 突然誰かの声がした。自分以外に誰もいないと思っていたので、義影は驚いて尻もちをついてしまう。

 声は義影の背後から発せられたものだ。義影が振り向くと、見えないが何者かがいる感覚がする。スマホの光で照らして確認しようと思ったが、慌てているために見つからない。モタモタしているうちに相手がしゃべりだした。



『てっきり儂が出張るしかないと思っていたが、自分で状況を打開しおったな。さすがは選ばれしものだ。だが悔しいので儂が役に立とう』


「どうも……でも見えない……ん!?」



 急に目の前が発光する。眩しくて逆に何も見えなかったが、しばらくすると目が慣れてきた。

 ようやくハッキリと見えるようになった視界には、白く長い髪で長身の人が立っていた。中性的な顔立ちのため、性別はわからない。


 そして服は着ていなかった。


 全裸というのはなぜ何も身に着けていないのに、こんなにも目と記憶にこびりついてしまうのだろうか。


 目の前の男は変態だろう。

 こんな暗がりでこんな変態に出会ってしまった。防犯ブザーも持っていないし、今すぐ逃げなければいけない。

 しかしなぜだろう。そんな気持ちにならない。むしろ目の前の全裸に平伏しろと本能が告げている。

 硬直している義影をよそに、目の前の全裸はこうつぶやいた。



『儂はガムの神である』


「ガムの…神様……!?」



 その瞬間、義影はヒザをついて、頭を下げる。義影の中ですべて合点がいった。

 相手はガムの神様だから自然と敬ってしまっていたのだった。いつもだったら舞い上がって正気じゃいられなかっただろうが、こんな格好を先に見てしまったために落ちつけていた。プラスとマイナスの相殺。



「しかし、ガムの神様に出会えるなんて…光栄です……!」


『ほう、信じるか』


「はい。格好だけ見たらガム要素ゼロですが、そんな神様がいると聞いたこともないんですが……全身から立ちのぼるオーラはまさにガムの頂点という感じです。偽物にはできないものです」


『合格じゃ、其方なら任せられる』



 ―――任せられる。

 ガムの神様が子どもである自分に一体何を任せるというのだろうか。



『真実を話そう。確かに儂はガムの神じゃが、正確には其方らの世界の神ではなく「イング界」の神である』


「イング界……?ど…どの辺の方ですか?きいたことがないです…」


『最初から説明せねばならぬか、まあわかっておったことじゃ。よいよい』



 どうも話のスケールが大きくなってきたと義影は思っていた。神様というくらいだからファンタジーの世界の出来事のような説明が来るのだろうか。


『この界には、時空の壁を隔てていくつもの世界がある。其方の住む「日本」も、その他の国も、其方の世界の地図にのっている部分を、「チュー時空」という。時空を超える術を開発できていない其方らが認識しているのは「チュー時空」だけだろうな』


「初耳です……ガムの神様は博識ですね」


『そうじゃそうじゃ、「チュー時空」の神々は人間の前に滅多に姿を現さないと言うからの。このことを人間が知らないのも仕方がない。そして儂らの世界は「イング界」と呼ばれておる。「チュー時空」の隣にある世界じゃ。このイング界にも普通に人間をはじめとした生物が暮らしておる。いろいろ違いはあるがな……しかし今…』



「……いま?」


『その世界が、今魔王の侵略をうけているんだ』


「……まおう」


『その魔王は「イング界」に住む生物だけではなく、神すらも圧倒した。破竹の勢いで魔族の領土を広げておる。つまり、其方への頼みというのは…』

 

「……その魔王を倒すこと」


『そうじゃ』



 やはりスケールの大きな話が展開されている。時空の壁というのは、さっきフーセンガムが破ったものだろうか。とりあえず何をやればいいのか分からないので、義影は黙って話の続きを聞くことにした。



『そのために其方には儂のガムの権能を与えた。先程ここへ来たフーセンガムを見たじゃろう。儂が使える力を其方も使えるようになっている』


「あれガムの神様のしたことだったんですか!?」


『儂の与えたガムの権能で、其方が無意識にやったことじゃがな』



 多くの疑問が瞬く間に解決していく。

 話は相変わらず難しいが、相手はガムの神様だからそういうものなのだろうと思えば理解できないこともない。


でも少し疑問の解決とは別に不安が渦巻いている。



『不安……当然じゃな。儂ら神ですらなんともできなかった存在に人間が適うのか?』


(心を読まれた……これもガムの権能のひとつなんだろうか…)

 

『いやこれは神の力じゃ…そして其方の不安への回答じゃが……確かに人間は神に比べて小さな存在じゃ。間違いも起こすし、何年経ってもこの程度の文明しか築けないのかと落胆することもある』


「て…てきびしい……」


『じゃが……未完成な存在でありながら、何かを成し得ようとする前に進む気持ちをもっておる。その心が、神にも成しえなかった奇跡を起こせるのだろうと、儂は思う……そしてなにより』


「なにより…」


『ガムの力は無限じゃ』


「そうですね!」



 人間の可能性とやらは正直ピンとこなかったが、ガムの力は無限大であるということは頷けた。ガムは世界を救う。それだけは義影の中で絶対だった。

 そして義影は決意した。



「やります。正直不安もありますけど……不安でいっぱいですけど、魔王のやっていることは許せないし、ガムの神様からの命令ですので……ガムとともにやり遂げてみせます。それにガムは世界を救うと思うので」


『よくいってくれた……ありがとう』


「……?」



 最後だけ神様っぽくないしゃべり方だったなと思ったが、次の瞬間にそのことが忘れていた。



『それではこれから詳しいことを説明する。この説明書を見ながら聞いてくれ』



 これから壮大な戦いが始まるのだから。


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