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ヘルメス・シティ


「それで、名前を付ける件なんだけど…考えてくれたかな。」 

「はい。…どんな名前になるんですか?」

無切家の屋敷に向かう馬車の中、約束していた改名が行われようとしていた。

「正直、なごむじゃなければなんでもいいんだけどね。」

「え、そんな適当な気持ちで決めてきたんですか僕の新しい名前?」

「いやいや、結構真剣に決めてきたよ。人に名前を付けるなんて人生で二回目だからね。」

「二回目ってことは、…一人子供がいるんですか?」

「…娘がね。和の4つ年上の14歳、妻に似て超絶可愛い。」

創也は頭を掻きながら照れ臭そうに言った。

「最後の補足で親バカ丸出しじゃないですか。でもそうゆうこと本人に言わない方がいいと思います。その歳はデリケートな時期だって聞いてるので。」

「え!そうなの!?」

「そうなの!?じゃないですよ、図星突かれて……どんだけ親バカなんですか。早く本題に戻りましょう。」

「えっと、確か和の名前だよね。」

「かっこいい名前を期待します。」

和は身を乗り出し、キラキラした黒瞳で創也に自分の期待を伝えていた。

「…それでは、和の新しい名前を発表します。」

流れ的に僕は両手を高く組んで祈るポーズをとって強く祈っていた。


「新しい名前は…………『大平』です!!」


…………。

「…尺取るほどの名前じゃないですね……大平…。」

「尺を取るほどだ!その名前がカッコよくなるのは私の家に着いてからだ。そろそろ着くぞー」

馬車の窓から周りを見ると、商店街らしき場所から沢山の活気のある声が聞こえてきた。

この世界では、最高貴族の住む場所を中心とした半径3キロメートル前後の領地を『神のお膝下』と呼び、高さのある金属の塀で区切り、そこに住んでいる民を『神民』と呼び優遇することで街を発展させる仕組みがあるらしい。

簡単に言うと、金持ちが住める『神のお膝下』に住んでいる人が『神民』で、それ以外は全て『平民』ということだ。

そして今僕達がいる『神のお膝下』の名前が

「ようこそ私の都市、『ヘルメス・シティ』へ!」

『ヘルメス・シティ』。創也さんが管轄している半径約2キロメートルの大都市だ。


無切の屋敷は、一箇所だけある都市の入口である関所から真っ直ぐに直進した丘の上にそびえ立っていた。

それはもう大きな屋敷で、この都市の王様と呼ぶに相応しい都市一番の造りだった。

僕と創也さんは無切の屋敷の手前に到着した馬車を降り、創也さんに招かれるままに屋敷の中を歩いて進んでいた

「都市を案内したいところなんだか……まずは私の家族に自己紹介をしに行こう。」

「はい。……それにしても、活気のある都市でしたね。」

「まぁね!なんてったって日本に二箇所しかない『神のお膝下』だからね。…自己紹介が終わったら一緒に観光に行こうか。」

「はい!是非お願いします。」

僕も一年振りの外出が『神のお膝下』であることに溢れ出た興奮を隠せなかった。

しかし、目的地に近づくにつれて女の怒鳴り声が徐々に大きくなって聞こえてきた。

知らない女の声はどんどん明確になっていき

「私より弱い奴だったらぶっ殺す!!」


飛び切りの敵意を持った怒声が飛んできた。

「すいません創也さん、これってあなたの妻ですか娘ですか、もしや召使いさんとかですか?」

「超絶可愛い声でしょー、うちの娘は。」

「いや、可愛いの相互理解が出来ないんですけど。」

創也さんは笑いながら怒鳴り声のする部屋の扉を開けた

「ただいま帰っトァァァイ!!」

開けた瞬間、華麗なドロップキックが創也さんの顔面目がけて飛んできた。

創也さんはそれをモロに顔面に受けながら

「いきなり父を蹴るとは何事か!?」

少し声が弾んでいる。変態だ。

そして創也さんを蹴った女が

「昨日帰ってきていきなり『お前に弟ができる』の一言だけで納得できるわけないでしょうが!!」

超絶可愛い僕の姉らしい。


白く澄んだ髪に宝石のような青色の瞳、外見的な特徴は父親の遺伝が強かったのだろう。

しかし

「昨日いっぱい蹴ったんだからもういいじゃないか。いやでも……このままでいっかアアッ!」

「納得してないからまだ蹴ってるんでしょうが!自分勝手すぎなのよ。よし決めた、このまま蹴り殺す!!」

性格は遺伝しなかったらしい。まぁ蹴られてるのは創也さんの自業自得だけど。

創也は床に転がされて娘のサンドバックにされている。

僕は部屋に居る他の三人に響く声で

「平民の刑務所から養子として来ました、無切大平10歳です。今日からお世話になります。」

自己紹介をした。当たり前の自己紹介を。

「へ?」

蹴っていた女の脚が止まった。

「あ〜、言い忘れてたけど……」

女の顔がみるみる青ざめていく

「彼は平民なんだ。」


「平民!?…神民ならまだ可能性はあったかもしれないけど、平民の子供が私より強いわけないじゃない!なんで連れて来たのよぉ!?」

「アアッ!!」

女はそう言いながら蹴りの威力を一段と強くしていた。

「…和。連れてきた理由はすぐに分かるから、まずは自己紹介をしよウッ!。」

創也は蹴られながらも娘に宥めるように言った。

「チッ!…私、無切 なごみ、短い間ヨロシク。短い間!」

和さんの自己紹介は僕に対し嫌悪感を露わにした片言だった。

部屋に入った時から創也さんをずっと眺めていた妻らしき人が僕の前に立ち

わたくしは無切 あずさ、創也さんの妻で、和の母です。わたくしも貴方に対して思っていることは和と同じです。でも、貴方も多少は強いのでしょう。短い間ですがよろしくお願いします。」

和さん……性格は母親に似たんだなぁ。

「よろしくお願いします。」


「さて、自己紹介が終わった所で……大平がみんなに認めてもらうためにはどうすればいい?」

創也は何も無かったかのように大平の隣に立って話し始めた。さっきまでサンドバックだったのに……全く気がつかなかった。

「私はその平民が私より強ければ認めるわよ。」

和は大平を見下した瞳でそう言った。

万が一にでも僕が勝つことはないと思っているようだ。

わたくしも貴方が強いのであれば平民だろうと養子として受け入れましょう。」

……確かに、養子が刑務所から来た平民じゃまずいよなぁー。

今更ながら僕は思った。

「じゃあ、決闘だね。大平と和の『大平和』対決!」

やっぱり……そうだよね。

「私はそれでいいわよ。」

わたくしも賛成です。」

「それじゃあ二人分の木刀持ってくるよ。会場はここで。」

そう言い部屋を出て行った創也さんに向かって

「創也さん。僕の名前改名した理由って唯これやりたかっただけですよね!?」

「そうだよー!」

僕の改名は遊び半分で考えたのだろうか。

それとも……ガチ?



「んで、あんたは強いの?」

創也さんを待つ和と梓さんと僕の三人の静寂を破ったのは和だった。

「さぁ?分からないけど、刑務所にいたから運動はしてないんだ。」

「へぇー、本当に刑務所にいたのね。どの位いたの?」

「一年。」

「それって9歳のときにぶち込まれたってことじゃん。何やったの、ねぇ教えてよ。」

「俺は何もやってないし教えたくもない。」

「……そう。取り敢えず私が勝ったらもう一度刑務所に戻ってよ。なーんて。」

「…ああ、別に構わないよ。」

「………は?」

和は面白半分で話していたのだろう。けれど俺は全ての質問に対して本気で答え続けた。

「俺はあんたらとは違う力を持って生まれてしまったんだよ。」

「訳わかんないんだけど、厨二病ってやつ?」

「そう思ってくれていい。…話は終わりにしよう。」

それから創也さんが戻るまで……僕は二人に笑われ続けた。

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