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彼は神を断たんとす

客観的な意見をお願いします。ホモォ。

「それで、僕を後継にするってどういうことですか?」

罪人たちに力を見せつけたあとに僕は無切さんの権力によって早朝に晴れて出所することが出来た。

今は、僕の実家に別れの挨拶をしに向かう馬車の中で、僕に手枷もせず向かい合い、二人きりで会話をしている。あまりに無防備すぎではないだろうか。

「そのことについては、家についてから話すとして、まずはこれをつけて欲しい。早急にだ。」

無切さんは一言目から一刻を争うような焦りを見せながら片膝を立て、まるでプロポーズをする花婿のように箱に入った指輪を手渡してきたのだ。

「え…無切さんさんってそういう……。」

「いいから早くしろ!!」

その怒号から、先程からの話がいたって真剣であることを理解した。僕は手渡された指輪を薬指に浅くはめた。それを見た無切さんは緊張が解けたような溶けたような顔で

「グヘヘ、これで少年は私だけの物だ!これからあんなことやこんなことをその身体に教えこんブッ!!」

僕は反射的に片膝を立てて蹴りやすくなっていた無切さんの頭を容赦なく蹴った……筈だったが、僕の足は空を蹴るだけで無切さんの頭の感触はなかった。

そんな瞬きの間に無切さんは何事もなかったように元々座っていた位置に戻り、優雅に足を組み直していた。

「…ふぅ、いきなり蹴ってくるとは。場を和ませようとしただけじゃないか。それに内容は間違ってないだろ。養子にするから鍛えてやると言っているのだから。オイオイ、引くな引くな、物理的に引こうとするな!」

僕は馬車を突き破らんと背中でのタックルをし続けた。

この空間は危険すぎる。

「話を聞け!!まず、最初につけた指輪には魔力を十分の一に制限する効果があって…」

「それってもっと激ヤバな状況じゃ無いですか。貞操危うしじゃないですか。」

「今は何もしないから、悪かったから!話は最後まで聞きなさい!!!」

おふざけだと思っていたが、無切さんはあまりにも僕を説得させようと必死だったので、僕も一旦落ち着くことにした。


「…えー、ではまず私の目的について話そう。私の目的は……

神を、十二種類の災害を殺して神のいない世界に戻すことだ。」

「急にシリアスですね。」

無切さんは本当におかしな人だった。まるで神を見たことがあるような口ぶりで話し始めた。

「だから、その目的のために少年の力が必要なんだ。」

「何故そこで僕なんですか?」

僕がいくら化物じみているとしても流石に神と戦うなんて無謀もいいところだ。無切さんはどこか僕を買い被りすぎている節がある。

「少年は寝るときに…どんな夢を見る?」

無切さんは窓からどこか遠くの景色を見ながらそう言った。

そんな質問が重要なのか分からない。けれど、無切さんの表情は僕の答えを待っている。

「昨日は、無切さんのおかげで出所できることを話した。」

「一昨日は?」

「アメリカ大陸ってところの話を教えてもらった。」

「よーしオーケー。よく分かった。歳の割に会話が流暢だと思ったらそういう理由か。…そういえば少年は10歳だったな。」

何かおかしい所があったのだろうか。話した後から無切さんの視線がやたらと優しい。無切さんは諭すように

「あのな少年……夢は自分の意志で話す場所じゃない。ついでに言うと、夢は覚えていられるのはその場限りか長くて一日だよ。」

「……はい?もしそうだとしたら、僕が眠っている間に見ていたのは何なんですか?」

だったら僕は夜中に何を見せられていたんだ。…そうだ、一年前からだ。僕の夢はいつも会話をするのが普通になってしまっていた。え?だったら普通の夢ってどういうものだったっけ?

「明日にでもそいつに聞いてみな。そいつはな、今まで教わってきたようにこの世界の基礎知識なら大体のことを知ってるぞ。」

何故か無切さんは黒い影について知っているような口ぶりで話す。

「何でそんな奴が僕の中にいるんですか?何なんですかアイツは!」

今まで普通だったことが異常だと言われたことで僕は常識を見失い混乱していた。異常な所は化物じみた力だけだと思っていたから。

「少年の中にいる理由は知らない。だが……そいつが何なのかは教えてやろう。別人だが俺の中にもそんなのが一人いるんでね。というか、そいつのおかげで私たちは今こうして巡り合っている。」

続けて無切は声のトーンを低くして

「そいつはな……神様だ。

君の力と夢の中のそいつは同一人物なのさ。それだけで少年の力が必要な理由には充分だろう。神をもって神を制すとはまさにこのことだな。」

僕は絶句した。

化物じみているとは思っていたが、それが神様の力だと言われると、自分が更に巨大な存在に見えてきてしまう。

「少年、神としての自覚がないのなら神の権能を一つ教えてあげよう。」

そう言うと無切さんは懐から一本の小さな銀のナイフを取り出して、……躊躇なく僕の手首を切った。


しかし、いつものようにナイフは跡形もなく無切さんの手の中から消えていった。

「神にはな……己に危害を加えた物質を到達する前に消去する力が備わっているんだよ。だから神を殺すには生命体か、神の加護である魔法を使うしかないんだ。」

僕はそのときから神であることを受け入れなければならなくなった。そうしなければ、これまでの人生との辻褄が合わないからだ。

ハンマー。銃弾。ロープ。毒薬。レイピア。マッチと油。サーベル。ダイナマイト。魔法。その中で唯一僕を殺すことができたもの、視界の数字が減ったものは、魔法だけだった。


読んでくださりありがとうございます。

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