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一人の化物・ヘルメス

初めて書きました。初めてなので客観的な意見が欲しいです。お願いします。

       一人の化物


僕は僕を恐れた。

齢九つのとき。


ある日、ハンマーで殴られた。しかし、殴られた筈の腕は傷ひとつなかった。そして、僕に向かって振り下ろされていた筈のハンマーが跡形もなく消えていた。

ある日、銃で頭を撃たれた。しかし、頭部に損傷はなく、放たれた弾丸は未だに見つかっていない。

その後も、ある日は絞殺。ある日は毒殺。刺殺。焼殺。斬殺。爆殺。水の刃の魔法で殺されたこともあった。何故かその時だけは一瞬だけ赤い鮮血が滴ったが、次の瞬間には何もなかったかのように無傷だった。

僕は計十種類の死に方で殺される筈だった。

しかし、一度として死んでいないのが現実だった。

一瞬で何も起きなかったことになる。

周りからは、隠しきれない動揺が見て取れた。当然だ。だって、殺しているのに死なない僕が目の前で当たり前のように生きているのだから。

反撃はしなかった。そんな事よりも、自分の身に起こっている異常が怖くて堪らなかった。

理解不能。未知。化物。

怖い怖い怖い怖い。一瞬だけ感じる恐怖。殺されない自分が怖い。死なない自分が怖い。

僕は…何者なんだ。

その頃から右眼の視界に数字が見えるようになっていた。今は「996」

僕は十回殺されかけた過去を持つ男。


         ヘルメス


この世界には魔法と呼ばれる神の加護がある。

加護は基本、人間として最も神に近い十二人の最高貴族がそれぞれに持つ加護の中から一つを選び15歳、高校の入学とともに授かる。

しかし、稀に子供の頃から発現する者もいるのだという。その危険性があるため、この世界には少年院というものはなく、罪を犯せば年齢、罪の重さに関係なく刑務所、牢屋に入れられる。10歳の僕は一年前の9歳のときから、三途刑務所という実家から一番近い、馬車で三時間ほどの平民の錆びれたモダン風の刑務所に投獄されていた。


近いと言っても、刑務所の中には加護を持った重罪人が多いため、面会に来た人間を一年間一度として見た事がない。

用がある人間はだいたい金持ちの貴族で、入口の職員に話を通して後日に奴隷として大人の数人を拘束して連れて行く。

僕はこの刑務所の最年少として加護を持つ大人たちに頭を下げ続ける毎日が繰り返される。

作業着を着て朝から晩まで無益な肉体労働をさせられることが日常だった。

日が暮れて刑務所を暗闇が覆うとき、僕は立ち上がり……

そんな日々が続くなか、僕はただ目を閉じ夢を見る。


目蓋の中から黒い影がこちらにやってくる。

影は耳元で囁くように

『今日もなごむに知識をあげよう……』


そんな日々が繰り返される中、僕の人生に二度目の転機が訪れた。

ある日の夜、とても寒い真冬の夜だった。僕のいる刑務所のもとに怪しげなローブを着た男が馬車に乗って訪問してきた。きらびやかに装飾された宝石色の馬車に乗り、鉄格子が茶色に錆び付いた平民のオンボロ刑務所にはるばるやって来たらしい。これまで訪れた貴族とは明らかにランクの違う馬車だった。

来訪した男の身なりは整っていて、紺色のコートを着こなし、青色の瞳に、髪は灰色だが艶があり白髪ではないのだろう。

身体は筋骨隆々とまではいかないが、しっかりと鍛え込まれていて、コートの上からでも日頃の努力が窺える身体つきだった。

ダンディな顔つきだが若々しさがあり、30代前半ぐらいだろう。

その男がコートを脱いだとき、スーツの胸に付いている勲章に僕は…いや、刑務所中から驚きの声が漏れていた。

その胸の勲章の中には…

最高貴族の証である星型の宝石が埋め込まれていた。

初めはそんな筈はないと目を疑った。

だって、世界に十二人しかいない最高貴族がこんな錆びれた刑務所に来るはずがないだろ。

男は刑務所の中を歩き始めた。

男の周りには罪人から何個も加護をこめた石が投げつけられていた。しかし、投げられた石のことごとくが男の目の前で勢いを殺されていた。

そして男は平然と僕のいる檻の前に座り込み

「君があの2人の……。初めまして少年。私は最高貴族第十一位ヘルメスの家系の無切創也だ。初めに、挨拶がてらおじさんからの質問だ。正直に答えてれ。」

「…。」

聞きたいことは多いが、僕は、無言で頷きその先を促した。

「少年は勇者に必要なものはなんだと思う?」

その漠然とした問いに対して僕は呆然とした。

「お前みたいな生まれ!!」

「お前みたいな権力!!」

「お前みたいな加護!!」

周りの罪人たちは小馬鹿にしたような口調で男を挑発していた。

今の自分に問いかけるにはあまりに場違いな質問だった。

けれど、何故かその問いに対する答えを…僕は一年前、殺される日々を通して学んでいたんだ。

だから、僕の答えは…


「…力でも武器でも…仲間でもない。勇者、英雄が存在するために必要なものは……村人の信仰…信頼…だと…思います。」


少しの静寂があった。久しぶりに口を使って言葉を喋ったのでとてもぎこちなかった。

それを言い放った後の僕の顔は赤面し、見せられたものではなかったけれど、無切さんの顔も僕の顔に劣らないぐらいに顔が熱くなって、目を輝かせていた。

その間、罪人たちも冷やかしの言葉を並べていたが、今の僕には聞こえてこなかった。


「冒険譚が好きなのかい?」

「いや……実体験です。だから…僕は勇者になれなかった。」

僕はもう、自分に呆れていた。

この刑務所にいることが力の無力さの象徴であり、村人の強さの証明なのだから。

「…よし、それじゃあ決まりだ。君にはウチに養子として来てもらう。その答えならば、君は勇者の後継として相応しいよ。」


……え?

「…え?………はい?」

僕には疑念しか湧いてこなかった。

「「…は?」」

周りからも驚きが漏れていた。

「おい、俺の加護の方がまだ加護を持ってないそいつより役に立つぞ!」

そう言ったのは、この刑務所で一番強いと言われている、一般人を加護を使い暴行して捕まった二十代前半の不良男だった。

男は何もない空間から一本の金属製で両刃の片手剣を出現させた。

無切さんは彼を見て

「ヘファイストス……1%程度か。…本気で言っているのか?そんな脆弱ではいくら鍛えても私の後継には足りない。」

そう言い放った。

それに憤慨した不良男は

「そいつは…そいつは俺より強いっていうのか!!」

不良男は僕を剣で指差してそう言った。

すると無切さんは考え込むような仕草をしたあとに

「脆弱な不良君、魔法の書ぐらいは読んだ事があるだろう。」

「当たり前だ。高校に入って加護を授かったときに暗記することが義務なんだから、この歳で読んでない奴の方が珍しいだろ。馬鹿にしてんのか?」

「ならば、その一ページ目の一行目を暗唱してみたまえ。」

馬鹿にしているとしか思えなかった。

その一行だけならば、書を読んだことがない僕でも答えることができる。

その一行は

「『其は原初たる神より賜りし恩恵である。』これであってるだろ。ったく、これが何だってんだ?」

「ああ、その一行があの書物の失敗だ。」

無切さんは空を見上げながら言った。

「失敗?どういう事だ。」

「それは今から分かることだ。」

無切さんは僕に向き直り

「少年、己の加護を使ってみたまえ。」

その言葉で、刑務所はざわめきに包まれた。

「え、嘘だろ。」「あいつ一度もそんな素振り見せなかったぞ!」「人違いに決まってるだろ。」

罪人たちはしばらく焦りを見せたが、冗談だという結論で意見は収束したようだ。

「いいんですか?」

無切さんの養子になる以上、無闇に力を見せるのはマズいのではないかと問いかけると

「遠慮することはないよ。もう彼らとも二度と話すことはないのだから。」

「ハハ…ハッタリだ!ガキが加護を使えるっつーのはただの噂だろ。」

不良の男はまだ余裕を持った笑いを続けている。

その言葉に対して無切さんも笑いながら

「ハッハッハ!噂?噂程度で私は動かない。私が動くのは事実がそこにあるときのみだよ!」

無切さんは続けて不良の男に問いかける。

「さぁ問題だ!少年が刑務所に投獄されたときの罪状は何だと思う?」

不良の男は無切さんの馬鹿に高いテンションに腹を立てながらも

「…人殺しでもしたのか?」

冷静に答える不良の男に対して、無切さんは頷いて

「半分正解で半分不正解だな。いや、罪状は正解か?むむむ…」

「いいから早く言えよ!」

無切さんの歯切れの悪い言葉を男は急かす。

「わかったわかった。」

無切さんは宥めるようにそう言うと、呼吸を整え真剣な表情で

「少年は誰も殺していない。だけれど殺人罪だ。少年は幾度も殺人未遂をされている。だけれど少年が殺人罪だ。ということだ。」

「つまり…どういうことだ?」

罪人達は話について行けていない。

「簡単に言うならば…

少年は貶められたんだ。しかし、少年は貶めた人間を目の前にしながらも殺さなかったんだ。」

その瞬間に、僕は自分の加護を解放させた。

少年の加護から漏れ出した黒い波が刑務所の隅から隅までを覆い尽くす。真っ黒に、真っ黒に。小窓から差し込む月の光も通さぬ程に。

波が落ち着いたときには、一筋の光も差し込んではいなかった。その時の刑務所は暗黒という言葉そのものを表していた。

そして罪人の誰もが口を大きく開けたまま、ただ呆然と視認できない少年がいる檻の方向を見ていた。

「絶対的な力を持ちながらも自分は化け物ではないと信じてね。」

無切はまるでお気に入りの玩具を見せびらかすようにそう言った。

読んでくださりありがとうございます。

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