この世に未練があるならば
中3の夏。不快感が募るほど暑い日差しが照らす頃、僕は家を飛び出した。親との関係、受験に伴い塾に通いつめる毎日。ともかく飛び出したのは何もかもが嫌になったからだ。ふと、辺りを見渡すとどこか分からないところまで来てしまっていた。気づけば空は曇っていて雨がぽつぽつと降り始めてくる。近くのバス停で雨宿りを決断したのは言うまでもなかった。
「雨宿り?」
女性の声がした。否、女性と言うよりは女子であろうか。僕と同じぐらいの年齢に見える。
「う、うん。今日は晴れるって天気予報で言っていたのに災難だよね」
「そうなの?知らなかった」
「天気予報見ないの?」
「まぁね」
それ以上は問いかけないことにした。ただ、気まずい雰囲気になることも無くたんたんと様々な話が続いた。どうやら彼女はひとつ上の高1らしく、ここのバス停から2つほど行った先の所にある高校らしい。今まで高校に興味はなく、それなりに行ければいいや程度だったが彼女が通う高校にはすこし興味が湧いてきた。
「雨やんだね」
彼女がそう言う。たしかに、さっきまで曇っていた空は晴れていた。名残惜しいがここにいる理由はなくなってしまった。
「もしかして寂しくなっちゃった?」
「うん」
「わーお、どストレートに言われるとちょっと照れるね。じゃあまた雨が降った時は雨宿りしに来てよ。そうしたら会えるかもねー?」
その言葉をきっかけに僕は何度も会いに行った。その中で僕は彼女の高校に入ることにした。彼女曰く
「意味ないと思うけどね」
と笑いながら言っていた。だけども勉強にもしっかり励むようになったし、むしろ生きてきた中で1番まじめに勉強をした。そのせいか無事に高校に受かった。彼女がいる高校に合格したのだ。彼女には恋をしているのだと自覚があった。だからか、余計に嬉しかった。すぐさま報告をしようと思った。しかし、晴れの日が続いた。そして数日経った日のこと、やっと雨の日が来た。
「雨宿り?」
最初の言葉は決まっていた。そして顔を見ると必ず意地悪そうに笑っていた。それがなんだか心地よくて好きだった。
「聞いて欲しいことがあります」
「どうしたの改まっちゃって?」
「同じ高校に合格したんだ!」
この時の感情をなんと言い表せばいいだろうか。とにかくこの喜びを彼女と分かち合える、分かってくれると思っていた。だけど違った。彼女の表情は曇っていた。
「でも、意味ないと思う」
「どうして??」
「あなたは死んじゃってるもの」
普通の人ならその言葉に驚くだろう。ただ僕は納得してしまった。
「驚かないんだね」
「だって君も死んじゃってるでしょ」
彼女が死んでいるということはなんとなく分かっていた。それでも好きになったのだ。
「ごめんね。あなたが死んだのは私のせい」
「なんでそう思うの?」
「あなたがここに来るようになる理由がなければバスに轢かれることなんてなかった」
「もしかして気づいてたの?」
「気づかない方がおかしいと思いますー」
こんなに何回も会いに行く理由なんて好きだからしか思いつかないってことに今更気づく。好きだって気づかれていたと思うと唐突に恥ずかしくなってくるものだ。
「でも大丈夫だよ」
何が大丈夫なのか。そんな疑問を抱えると意を決したように彼女が口を開く。
「私もあなたのことが好きだから」
お互いに付き合おうとは言わなかった。死んでいる僕らには終わりがない。ただ、付き合わないと言っても好きな気持ちは変わらない。むしろ死んでいるからこそこの先も永遠に一緒にいられるのだ。それは願ってもない事だ。だけども生きていれば??いつか人生が終わるその時まで一緒にいられる。それを楽しむのもまた一興だったのではなかろうか。()
読んでいただきありがとうございました!運命がありましたらまたどこかで!!