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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
8/30

『なすとの遭遇』

 家に帰ってシャワーを浴びた俺はリビングで、美咲(みさき)からのメールをカップラーメンを食べながら待っていた。両親は共働きで夜遅くにならないと帰って来ない。たまにおにぎりなどが置いてある事があるが、今日はよくスーパーで売っているメーカーモノの大き目のカップラーメンだった。贅沢しようと思えば出来るのだが、明日はコンビニバイトが入っている。苦労して自分で稼いだお金はなかなか使いづらい。


 そんな事を思っていると、早速美咲みさきからメールが来た。


***************************






件名:『なすとの遭遇』


 ――20××年。ついに奴が来た。紫色のグロテスクなうろこに餓鬼のような体型の巨大なそれは街を破壊しつくし、大洪水を起こしたのである。そこで、あるミッションを上官から下された私は命懸けでそいつの腹を割く事に成功した。

 ……しかし、その代償は大きかった。私は深手を負い寝たきりになってしまったのである。少しばかりの愚痴をこぼしたがために、仲間たちとの絆も険悪なものとなってしまった。


 「為す術もなし……」


 私は奴を許さない。絶対に許さない。


 奴の名前は「なす」。みんなの好物が故に私は犠牲になった。


 ――完――






***************************


 美咲みさきはなすが嫌いだったな。きっと食卓でそれが並んだことを書いたのだろう。焼きなすだろうか、煮浸しだろうか、それとも中華だろうか……なんにせよ、家に帰ると家族がいて食事を作ってくれる。そんな家庭は俺の憧れだ。美咲みさきは俺の欲しいもの全てを持っている。自信・夢中になれる事・安定した家庭……言い出すとキリが無いのでやめておく。


 「為す術なしと、なすをかけたんですね。面白いです」


 と返信した。喉が渇いたので冷蔵庫まで缶ジュースを取りにいった。美咲みさきからの返信は俺がプルタブに手をかける直前に来た。


 「追われてる。助けて」


 (え?)


 一体家の中で何があったというんだ。心配になった俺は美咲みさきに電話をかける。が、内容はいたってどうでもいいものだった。というのも、食べ残したなすの煮浸しを彼女の母親が部屋の前に来て「食べろ」と催促してくるらしい。良い母親じゃないか。


 しかし、あの一見落ち着いた雰囲気の美咲みさきがなすの煮浸しごときで動揺している姿を想像すると、愛おしい。電話越しに彼女の母親の剣幕が聴こえる。


 「勇気を出して食べましょう、美咲みさきさん」


 「……仁司ひとしの意地悪……」


 今の声が最高にツボッた俺は少し意地悪な顔になっていたかもしれない。こうして彼女との通話は終わった。時計を見る。まだ19:00。美咲みさきはまた小説メールを送ってくるかもしれない。両親が帰ってくるまで暇な俺は、動画サイトを観て時間を潰していた。

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