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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
6/30

『戦え、マルコ!』

 本日最後の講義の西洋史Ⅰ。今回も美咲みさきが席を取ってくれていた。本当なら彼氏の俺がすべきなのだろうけど、校舎が遠いので仕方が無い。俺が席につくと早速レポートパッドを渡す美咲みさき。いつも思うが、彼女はちゃんと勉強しているのだろうか。もし単位を落としでもして留年したらと思うと、気が気でない。


 「できたわ」


 きりりとしていた目がゆるく解けていく彼女を見て俺の脳内はお花畑になった。確か今度の小説の主人公はマルコ・ポーロだと言ってたな。一体どんな小説なのか。見てみようじゃないか。


************************






『戦え、マルコ!』


 マルコ・ポーロは中央アジアや中国を旅行し、その感想を記していたのであるが、なんとそこには我々の住む日本ジパングについての感想もあった。これは、マルコ・ポーロが出会った衝撃のライバルの物語である――


 「オオ、ジパング! スシ、スモウ! メラヴィーオソッ!」


 マルコ・ポーロは江戸前寿司を口に含みながら相撲を観ていた。すると張り手の達人、千手観音が現われる。バッタバッタとなぎ倒される力士たち。残ったのはマルコ・ポーロ一人だけだった。彼はごくりと寿司を飲み込むとスクッと立ち上がって土俵へ上がる。


 「我にかなう者など居りはせぬ。立ち去れ外人」


 「ガイジン? ワタシニンゲン。ソノヨビカタハヤメロ!」


 「ならば戦おうぞ」


 「シー!!」


 彼らは三日三晩戦った。そうしているうちに、いつしか心の中で認め合えるライバルとなっていったのである。これが後に語られる「東方見聞録」の伝説である。


 ――完――





 

************************


 留学生のイタリア人が見たら怒るんじゃないか、これ。思っていたよりもカオスな出来になっている。まさか千手観音が出てくるとは……俺は美咲みさきを見くびっていた。


 「感想を聴かせて」


 あまりにもツッコミどころが多くて何と言えばいいか。とりあえず


 「オリジナル伝奇として読んだら凄く面白いです」


 と返した。


 「……折角イタリア語使ったのに……」


 「え?」


 そっちのことかー! ……本当だ、美咲みさきが見せてきたスマホには「イタリア語 素晴らしい」「イタリア語 はい」という検索履歴が残っていた。見えないところで勉強してるんだなー。えらいえらい……あれ、俺なんだか段々彼女の小説に対する情熱が見えてきた気がする。


 講義も終わって、今度は電車内での美咲みさきの執筆活動が始まる。テーマは梅雨だ。カリカリとレポートパッドに小説を書いていく美咲みさき。その筆に迷いは無い。ただこどもが一生懸命にお絵かきをするように純粋な目でペンを走らせる彼女を俺はただただ眺めていた。

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