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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
4/30

『運命』

 大学の図書館はまるでダンジョンのように古めかしくかび臭い。ありの巣のように地下へと広がる道を進んでいく俺と美咲みさき。大きな地震が起こったら命に代えてでも彼女を守ってやろう。そんな事を思いながら歩いていると、美咲みさき


 「またあの本借りられているのね」


 と小さく呟いた。口元に人差し指をあてながら何かを考えている彼女。あー始まった。美咲みさきは図書館の机に座ると荷物を置いてバッグからレポートパッドを取り出し、何かを書き始めた。俺も横に座る。言葉はかけない。それは暗黙のルールだった。カリカリとペンの踊る音が心地いい。


 「できたわ」


 やり遂げた。とでも言うかのような顔で俺にレポートパッドを渡してくる美咲みさき。正直俺は小説よりも彼女についてもっとよく知りたい。そんな想いを抱きながら俺は小説に目を通す。


*************************





『運命』


 国文ヶ君は英子ちゃんと仲が良かった。しかし、一方は民家の子。一方は貴族の子。彼らの仲は引き裂かれてしまった。国文ヶ君は一生懸命勉強して弁護士になった。英子ちゃんは家出をしてスラム街で生きていた。

 ある日、見覚えの無い罪で裁判にかけられた英子ちゃんは、どこか面影のある青年を見かける。


 「コクブンガクン……?」


 「英子氏……!」


 「コクブンガクン!」


 「英子氏!」


 二人は長い間抱擁を交わした。それが最後の別れだとも知らずに……


 ――完――





*************************


 報われろよ!! ……と突っ込みたいのを抑えて。


 「ネーミングセンスが抜群です。国文学と英語からとってるんですね」


 「英子は昔の友達の名前よ」


 「え?」


 昔の友達の名前を使って、しかもバッドエンドに持っていく限り美咲みさきは天然の小悪魔だ。まさか英子さんも自分の名前が例え小説であれ、裁判にかけられるなんて思ってもいないだろう。これは少し気になることだが、俺以外の人にも美咲みさきは小説を見せているのだろうか。そもそも彼女に友達はいるのか。美人で天然で小悪魔って、女からは避けられそうなんだよなぁ……俺の思い込みであればいいが。


 次は仏教学Ⅰの講義がある。これは必修科目だ。当然彼女も受講する。俺達は図書館の階段をゆっくり音を立てないように上りながらB校舎へと向かった。さぁ、もう何でも来い。でも単位は落とすなよ、美咲みさき

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