『肩抜き息抜き肩たたき』
暗くなるにつれて祭りに来る人が多くなる。カキ氷を食べ終わった俺と美咲は人混みに押し流されないように手をつないで歩いていた。ある場所へと行くために。というのも、彼女から渡されたA6サイズのノートブックにはこのような小説が書かれていたからだ。
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3頁目『肩抜き息抜き肩たたき』
肩抜き息抜き肩たたき。
今日も彫って彫って彫りまくるぞ~!
「やぁ、私は天才ドリラー職人」
釘一本で出来上がる芸術品。
私の美技をとくとご覧あれ。
息を呑む早業で
貴方を驚かせて見せましょう。
「必殺! 突刺・彫刻カッター!!」
カンカンカンカン!!
その美技は周囲を魅了したという。
――完――
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今日の美咲の小説は、彼女がやりたいことが記されているに違いない。釘で彫るといったら型抜きだ。昨日のメールでも嗜みたいと書いてあった。あまり人気がないのか、型抜きの屋台には人は集まっていない。1回300円。脆いピンク色の型を釘で抜いていくだけで300円。俺はその値段に溜息をついた。今度の店主の男は顔はニコニコしているが、花のように美しい美咲を見ても値引きはしてくれそうに無い。
「5枚ください」
「あいよ!」
美咲! たかが型抜きで1500円も使うのか。どれだけ好きなんだ。しかし俺は彼女の彼氏。いいところを見せなければ……
「お金は俺が払います」
「ならもう一枚追加して一緒に楽しみましょう」
なんて優しいんだ……ん。300円余計に支払うことになった気がするが、美咲と一緒に型抜きが出来るのなら安い……安いものだ。残金3900円ちょっと。帰りの費用を考えると少しだけ涼しくなった。それでも一生懸命にピンク色の型に釘を刺している彼女の姿は愛おしい。真剣な表情でツンツンと線に沿って掘り進めていくが、俺も美咲も、途中で型が割れてしまった。さよなら1800円。
彼女が居るとなぜだか屋台に人が集まってくる。その中で不快に感じたのは、わざわざ美咲に近づいて
「いまどき型抜きなんてガキくさい女~」
と言い放った厚化粧の女の言動だ。そんな低レベルな女にもチャラい彼氏が居た。多分大学生ぐらいの歳だろう。そしてあろうことかそいつの彼氏は俺のことを見るや否や
「あいつダサ男じゃん、ウケる」
とわざと聴こえるようにケタケタうるさく笑って言った。俺からしてみれば、化粧お化けですっぴんも晒せない上に、マウントをとってくる女は最低だと思うし、チャラ男にいたっては精神年齢が低いと思う。
「次はどこへ行きますか。美咲さん」
「次の頁を開いてみてくれるかしら」
俺達は無視する事にした。ここは折角の祭りを楽しもうじゃないか。俺は美咲の言うようにノートブックの4頁目を開いて、そこに記されている彼女の小説を見てみた……




