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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
28/30

『おいしい富士山のうた』

 ――あった。射的の屋台。強面の店主の男が腕を組んで俺と美咲(みさき)を見ている。1回500円。コルク弾は3発。当たっても景品は100円ちょっとのお菓子やおもちゃだというのに、どうしてこうも高いのか。


 「やってくかい? ねえちゃん可愛いから300円にしたげるよ!」


 組んでいた腕をほどいて急に笑顔になる店主の男。その言葉に天狗になることも無く美咲(みさき)はちゃっかり300円を巾着から取り出す。美人は得をするっていうのは本当なんだな。それでもコルク弾1発につき100円。やはり高い。


 片目を閉じて狙いを定める彼女。その表情は真剣そのものだ。しかし、どの弾も的に当たることは無かった。それでも諦めないスナイパー美咲(みさき)。彼女はもう一回遊ぶ気だ。美咲(みさき)が射的を始めてから不思議と客が増えた気がする。しかも男性客。これみよがしに格好良く撃とうとしているのが窺える。横に彼氏の俺が居るんだぞ。


 「ねえちゃんが居ると華があるから、しばらく遊んでいきな。ただし当たっても景品は無しな」


 凄い。たった300円で何度もゲームが出来るなんて。しかし最初こそは彼女の楽しそうな姿を見て満足していたが、少々退屈してきた。俺は射的に興ずる美咲(みさき)に何か食べたいものはないかと尋ねた。すると、彼女は例のA6サイズのノートブックを俺に渡し、その2頁目を見るように勧めた。


*********************






2頁目『おいしい富士山のうた』


 ♪くるくる削って標高カップ一杯~

 ♪冷たい氷の上に青いハワイが乗っかるよ~

 ♪そこににゅるっと白い雲が覆いかぶさって~


 「はい! おいしい富士山の出来上がり!」


 日本なのに気分はハワイ。

 でも見た目は富士山?

 なんでもいいや!

 一緒に南国気分を味わおう!

 イエイ!


 ――完――






*********************


 カキ氷のブルーハワイ味が好きなんだな美咲(みさき)。それにしてもこんなハイテンションな小説、今まで見たことが無い。前もって用意してきたということは、よっぽど祭りを楽しみにしていたんだろう。美咲(みさき)と目が合う。彼女はコルク弾の入っていないおもちゃの鉄砲を俺に向けて


 「バーン」


 と言うと、再び射的を始めた。俺は近くの屋台で練乳のかかったブルーハワイ味のカキ氷を2つ買った。俺が戻ってくるのを見ると彼女は店主のおじさんにお礼を言い、迷惑にならない場所に移って削りたての富士山……基、カキ氷を一緒に食べた。蒸し暑い外気で熱くなった身体が口内から冷やされる感覚。若干こめかみが痛くなる荒い氷の粒。団扇や扇子で涼をとるより、俺は冷たいカキ氷を口に含む美咲(みさき)を見ているほうが数千倍涼しく感じた。


 どうやらノートブックは彼女の祭りの手引きのようなものだろう。さて、どれだけ美咲(みさき)の小説に込められた欲求を汲み取れるか。俺の彼氏としての実力が問われるな。がんばれ俺!

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