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彼女の小説はどこかずれている  作者: 白夜いくと
■1年生■ 梅雨~夏
27/30

『ポイなんてポーイ!』

 とりあえず俺と美咲(みさき)は神社の大鳥居から移動することにした。どこからともなく聴こえる祭囃子の音。太鼓のドッドッというリズムと俺の鼓動は密かにリンクしている。というのも、少ない所持金でどうやって18:00~21:00の3時間を彼女と過ごせるだろうか、という問題に直面しているからだ。俺は美咲(みさき)の彼氏。彼女を退屈させるわけにはいかない。


 「人気の無い場所に行きましょう」


 突然美咲(みさき)は俺の腕を引っ張って人混みをぐいぐい進んでいく。そして、こども一人遊んでいない薄暗い公園のブランコに隣どおし座ると、彼女はA6サイズのノートブックを俺に手渡した。とりあえず中身を確認しろということか。どれどれ……


*********************






1頁目『ポイなんてポーイ!』



 「青年よ! 周囲を見渡せ!」


 灯りのない祭りに何の意味がある!

 今日はネタを沢山用意してきた。

 読んでもらえるとありがたい。

 

 まず私は金魚すくいが苦手だ。

 「ポイなんてポーイ!」

 

 私はスナイパー美咲。

 コルクでバーンして景品ゲット!

 費用はこちらが支払う。

 心配するな。


 ――完――






*********************


 俺の心が読まれているのではないかというような小説だ。短いのはA6サイズだから仕方が無い。パラパラと頁をめくると、まだ沢山何かを書いているのが窺える。さしずめこれは前書きといったところだろう。美咲(みさき)の持っている小さな巾着にはいったいどれくらいのお金が入っているのか。俺の所持金より多かったら少しだけ情けない気になるなぁ……


 「お姉さん可愛いねぇ。いくつ?」


 ここで思わぬ邪魔が入った。ナンパ男だ。一体どこから湧いたのか。しかし俺はそいつを追い払う勇気が無かった。もしこいつがナイフでも出してきたらと思うと震えて声も出ない。手を掴まれる美咲(みさき)。ああ、俺にはどうすることも出来ないのか……


 その瞬間。


 「チョコのついた手で触らないで!」


 美咲(みさき)がナンパ男に背負い投げをした。白目をむいて倒れこむ男。え、美咲(みさき)。柔道も出来るのか。美しい花にはトゲがあるというが、俺も彼女と接触するときには気をつけよう。それより格好良く守れなくてごめん美咲(みさき)。でも何事も無くてよかった。


 とりあえず手を洗いに彼女を人気の多い公衆トイレまで案内した。俺は外で待機している。変な奴が女子トイレに入ってこないか監視するためだ。折角の祭りで彼女を危険に晒したくは無い。男がいるというだけで抑止力になる。そういうものだ。これはコンビニバイト先のオーナーに教えてもらった教訓だ。


 「待たせたわね」


 猫模様のハンカチで手を拭きながら微笑みかけてくる美咲(みさき)


 「猫苦手じゃなかったんですか?」


 「絵は引っ搔いたり臭いがしないもの」


 「なるほど……」


 確かに一理ある。猫自体は嫌いじゃなかったんだな。気がつけばもう30分ほど経っていた。あと2時間弱しか一緒にいれない。しかし門限は門限。彼女が親から怒られないためにも守らなければ。やはりまずは美咲(みさき)の一番したがっている射的の屋台へ向かおう。祭囃子の音が段々大きくなっていく。それと同時に俺の心臓も高鳴った。

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