『何者!?』
ついに祭りの日が来た。
午前中で講義を終えた俺は、家に帰って着ていく服を選んでいるところだ。俺の家に浴衣なんて洒落たものは無い。あるのは普段着だけだ。決して裕福な家庭ではないので服も多くない。一時は両親を恨んで反抗的な態度をとったこともあったが、お金のことで喧嘩もせずに一生懸命働きに行っている大変さを理解してからは自分のお金は自分で稼ぐようにしている。それでも奨学金という借金をして大学生活を送っているのだが……
ん、美咲からのメール受信音だ。
もしかして小説メールか……いいよな、彼女の家は安定していて。バイトをせずに学校へ行ける。趣味に打ち込むことが出来る。家に帰れば必ず家族が居る。それが普通の家庭なのだろうか。俺にはわからない。そしてどうしてこんな俺と美咲が付き合えているのかも。とりあえず俺は彼女からの小説メールを開いた。
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件名:『何者!?』
ある事情で神社へと向かう男。そこはモフモフが頻繁に出ると噂の神社だった。その大鳥居で密かに待ち人を探していた男はある一人の女の姿を発見する。女は血のように真っ赤な浴衣を着ていた。
「お前は誰だ」
問う男。それに不適な笑みを浮かべる女。
「男、お前は――」
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美咲専用の着信音が鳴る。慌てて出る俺。
「仁司は何を着ていくのかしら」
「え?」
この短い小説メールは一体何なんだ。いつもの「――完――」もない。美咲なりに脅かしたつもりなのだろうか。ここは驚くべきだよな。
「びっくりしました。俺は私服で行きます。すみません、浴衣じゃなくて」
「なら私も私服で行くわ」
「え?」
合わせてくれるのか。なんて優しい彼女なんだ。しばらく美咲と通話したあと、俺は少しでも祭り栄えする服を選んだ。目立ちすぎず目だたな過ぎず。限られた服での絶妙なバランスのコーディネイト。まぁ結局は大学に着て行くちょっと派手めな服装になっただけだが……
美咲の方はどんな服装で来るのだろう。女子は服を沢山持っている。そしてあの緑の黒髪。結うのだろうか。大学内はクーラーがあるから髪を下ろしていても暑くはないだろうが、さすがに美咲の腰まで伸びた髪はいくら艶やかで綺麗でも外では蒸し暑いだろう。見ている分にはいいのだが……
そろそろ待ち合わせの18:00に近づいてきた。俺はまず家の近くのコンビニのATMで5千円をおろし、待ち合わせ場所の神社の大鳥居へと向かった。




